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投資チャンスを企業の特許情報から読み解く ~投資家が注目すべき知財活動とは~

投資の観点で、企業が将来「大きく飛躍し成長しそうかどうか」を見極めるための評価基準は何か。これは投資家の間で議論が尽きない論点ですが、少なくともその一つに、知財活動の活発さがあると僕は考えています。企業の未来を創り、あらゆる面での成長を支える「アイデア」「発明」を産み出し、活用し、保護する活動ですからね。めちゃくちゃ重要ですよね。その知財活動を知るために欠かせないのが、やはり特許情報です。

でもみなさん、特許を読むって言うと、出願された発明や技術の詳細を読むものだと思うみたいですね。実は特許情報は、データの分析次第でマクロ的にもミクロ的にも、「企業」そのものを知ることができる、実に優れたツールなんです。今回は、そんな企業の知財活動の実態を特許情報から探る方法について、少し詳しくお話ししますね。

 

特許情報から企業の知財活動を評価する4つの視点

投資先を選ぶという観点で特許情報を読まなければならない場合、企業がちゃんと知財活動を行っているかどうかを、僕は以下の4点に注目して判断しています。

「組織的」に行われているか、
「継続的」に行われているか、
「集中的」に行われているか、
「徹底的」に行われているか、です。

例えば、ある発明者が「今月はロボット」「来月はナノテク」と、いろいろな内容の特許を出願しているという状況だとしたらどうでしょう。僕だったら、なんか思いつきで出してるんちゃう?とか、一つの開発に集中していないんじゃない?とか思っちゃいます。そして、その企業は知財活動を「ちゃんと」やれてないかもしれないな、という疑いを持つかもしれません。
だからまずは、発明が「組織的」に行われているかを見る。例えば、発明者が「チーム」になっているかを見るわけですね。そして一つの発明や技術、製品について、例えば1カ月に7件ずつ出してるな、とか、「継続的」に出願しているかを見ていきます。つまり「組織的」かつ「継続的」に行われているかを評価するわけです。

 

特許ポートフォリオが徹底的に作られているか

また、ある技術や製品、事業について幅広い特許ポートフォリオを作っているのか、つまり「集中的」にやっているか、というのも重視します。

特許ポートフォリオとは、いわゆる特許の束とか群のことです。なぜ束で出願しているかを見るかというと、例えば製品は一つの技術で成り立っているものではないので、製品に使用するそれぞれの技術に対して出願されているのが、一つの理想だからです。そして、その技術一つ一つについても、特許が1件しかなければ他社が特許権侵害を回避できる可能性が高いですから、5件出すとか、束で出す(取る)のが理想なんですね。
そうして、ポートフォリオのポートフォリオ、つまり小さな束を束ねてさらに大きな束にして強い特許「群」にしているのかを評価しています。

もちろん、単純に特許件数だけで判断していいということではありません。最終的には中身も評価しないとダメですし、企業や事業の規模も考慮するのですが、それでも流石に5件しか出願してない企業と100件出願している企業があったら、100件の方がやる気はあるんやろなって、まず思いますよね。そういうことです。

投資を考える上では、つまるところ、その企業が「本気なのか」、要するに事業や経営への本気度を知りたいわけです。何ごとにおいても、徹底しないと他社には勝てないわけです。なので、まず難しい技術の詳細を理解することよりも、本気かどうかを明確にする。本気だとわかれば、仮に技術内容が難しすぎて正確には理解できなくても、まずはある程度安心材料になりますよね。
また、その企業が本気で取り組んでることなら、こちらも本気で理解する価値もありますよね。時間かけてでもこの企業の技術を理解しよう、そんな気になりますね。本気の企業を本気で応援する、これが僕が考える投資の基本スタンスです。中途半端な企業は、あんまり応援し甲斐が無いと思いませんか。

それを判断するために重視するのが、特許を「徹底的」に取っているかどうかです。
花王や3Mのように分割出願を繰り返して特許網を固めていたり、国際出願などを通じて世界中で権利を取っていたり、拒絶査定に対して不服審判を起こして、権利化を諦めずに粘りづよく最後の最後まで戦っていたりとか、とにかくこれを権利にするぞ!という気概があるかどうかを、僕は常に見ています。「特許になりません」といわれて「あーそうですか」と引き下がっているようでは、ちょっと極端ですけど、特許出願の費用をドブに捨てているようなもんですよね。事情が変わって不要になる特許なんかもありますから、全部が全部とは言いませんけど、投資家の視点で見たらそう見えますよ、ということです。

実際、投資家の方と話をすると、「この特許、何で途中であきらめてるんですかね?」みたいな議論になることは、とてもよくあります。ちなみにこういう場合、正確な答えは外部からはわからないので、関連特許の状況や発明者の履歴などをみて、推測していくしかありません。

 

特許情報から出願件数を抜き出して整理すると、マクロ的な知財活動状況が見える

実は僕は、弊社創業以来、10年ほど前までは、上場企業のほぼすべてについて、あるフォーマットで毎日特許情報分析をしていました。特に業界シェアが高い企業を徹底的に分析していました。

下記は当時のA社の例で、数十ページある弊社独自の分析レポートの一部抜粋です。例えばこのように、特許出願に関する数字を分類・整理するだけでも、先述の4つのポイントをなんとなく読み取ることができるんです。面白いですよ。

       図1 特許分析レポートの一部抜粋(A社の例:2012年時点調べ※)
       ※ 特許分析ツールはCSVAid(中央光学出版)を利用

 

A社は光学フィルムで圧倒的なシェアを誇る企業です。図の一番下の表(特許分類ごとの出願数の年次推移)は、光回路や有機EL、液晶ディスプレイなど、当時のA社におけるの6つの重要技術領域について、特許出願数の年次推移を表したものです。

例えば、有機EL(電場発光光源)は2005年まで毎年特許出願されていたのに、ある年から0件になっています。それってこの年に開発を止めたのかな?などと推測できますね。逆に出願件数が増えていればおそらく開発は順調に進んでいるのだろうと推測できます。もちろん、事業のフェーズによっても出願件数や出願する技術内容が変わりますので一概には言えませんが、このように技術ごとの特許出願数をみることで、なんとなく開発の進捗状況が見えてきます。

また、一番上の表(一覧統計)のIPC(国際特許分類)の数に注目しましょう。これは、特許に付与されている技術分類(IPC)の数を、その年に出願された特許すべてについてカウントしたものです。新規のIPC数が増加しているなら、明らかに新しい分野にどんどん参入している、技術開発のすそ野が広がっている、と判断できるでしょう。IPC年次ごとの変化から、例えば企業全体として事業や技術開発を拡大している時期なのか、または、ある程度事業や技術開発を絞り込み深掘りしている時期なのか、おおよそ推測できるんですね。

勘違いして欲しくないのは、減ってるから悪い、増えてるから良い、ということではありません。イケイケどんどんで無制限に拡大しても無駄が多いわけで、ある程度芽が出てきたらそこに集中して伸ばしていくことも大事ですよね。選択と集中、ですね。どう種まきして、どう育てて、どう絞りこんできたのか、なんとなく特許からも読み取れるということです。

 

発明者情報からは、組織的な開発状況が見える

下記はチームの発明者や発明者群でまとめたものと、ある発明者のグループが特許を何年かけてどういうふうに出願しているかをまとめたものです。テキストマイニングで代表的なキーワードも抽出しているので、特許出願の内容がおおよそどういう技術に関するものかも、知ることができます。

      図2 開発者でまとめた特許分析レポートの一部抜粋(A社の例:2012年時点調べ※)
      ※ 特許分析ツールはCSVAid(中央光学出版)を利用
      ※開発者名は伏せてあります

先ほどの図1に記載されている2H147、2H089といった数字は、Fターム(FT)と呼ばれる技術分類記号です。この技術分類記号と発明者の両方で見ていくと、製品とその開発チームがなんとなく分かってきます。
なんとなく、と申し上げたのは、技術=製品ではないので正確ではないこともあるからです。でも、ちょうどよい技術分類が見つかれば、ある製品に関わっている人たち=チームを特定することができるんです。

実際に出願内容を調べていくと、関連する特許にはだいたい同じ発明者の名前が挙がってきたりします。そうなると、それがおそらく開発チームですね。こういった分析をしてみると、会社全体の中で、何の製品や技術の開発を何人ぐらいで、いつから進めているのかが見えます。

この開発チームは20XX年にこの開発を開始して20YY年まで継続しているんだな、とか、これは途中で開発をやめて解散したんだな、とか、これは実際製品になってひと段落ついたんだな、など、開発組織の状況が推測できる場合があります。ほかにも、開発者が入れ替わっているかどうかや、チームの人数の増減なども、わかりますね。こういうところで開発が上手くいかなかったから、こういう人を助っ人で入れたんだな、というところまでわかる場合もあります。

特に、僕が重要だと思うのは、新規の発明者数です。増加しているかどうか、に注目しています。順調に増えている場合、新たに入社してきた人や、今まで発明に携わっていなかった人が発明を生み出している可能性が高いですし、アイデア・発明提案や知財活動全体が活性化している証拠だと捉えることもできます。

 

僕は、投資目的以外で、新規事業のネタ探しや競合他社の開発力を分析する際などにも、重要な分析項目として必ず「人と組織」を挙げています。発明や知財活動をマクロ的・ミクロ的に知りたい場合、僕は必ず「発明者」に注目して調べます。やはり技術は「人」ですからね。人を知ることを通じて、企業とその技術を知る。結果として、それがどういう製品になっているかなども見えてきます。

 

特許情報分析ソフトなどを上手く使って企業の知財活動を知ろう!

企業を理解する上で必須なのは、出願件数などについてのマクロ的な分析と、例えば発明者単位などのようなミクロ的な分析を組み合わせることなんですね。これで、会社の製品や技術開発の状況、つまり、「知財活動」の状況を可視化できるんです。特許からそこまでわかる。特許って、とっても面白いですね~(笑)。

もともと弊社は、特許調査と特許分析の会社として創業しましたので、僕は毎日特許分析の仕事をやっていました。もちろん実際の分析では、もっと詳細に行うことも多いのですが、イメージとしてはここで説明しているような作業を、毎日やっていたわけですね。これを毎日やっていたことは、「企業内発明塾」での新規事業創出支援や、投資家の方向けの投資先候補の分析という視点で、すごく役立っています。

このような分析は、以前はプロの仕事でした。分析ソフトも年間100万円以上するモノしかありませんでした。でも今はいろいろなソフトや無料のツールが出ているので、みなさんでも手軽に調べることが可能です。特許出願数と技術分類、発明者と特許出願数など、数字を中心にした表やグラフでも、眺めているといろいろなことが推測できます。

特許情報は、企業全体を見ることもできるし、技術や人などをピンポイントで見ることもできるツールです。企業の未来を担う発明を生み出し、それを保護して事業に結び付ける「知財活動」を徹底している企業がどうかを見極めて、応援し甲斐のある「本気」の企業に投資したいですよね。

語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子

 

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