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特許件数の少ない企業の評価方法③ ~グレイステクノロジーの特許を読む(重要特許以外の特許からその先の新規事業を読む)~

今回も、前々回と前回のコラム「特許件数の少ない企業の評価方法①」「特許件数の少ない企業の評価方法②」の続きです。

ここまで、電子マニュアルの作成支援から管理までをワンストップで行っているグレイステクノロジーという企業を事例に、全8件の特許のうち、彼らの「今の事業の柱」である電子マニュアル作成支援に関する重要特許3件と用語統一に関する3件の請求項を読んできました。
では、あと2件はどういうものなのか、気になりますよね。全部で8件しかないわけですから、残り2件も無視できませんね。その2件から、何かその先の事業展開が見えるかもしれません。残りの2件の特許からグレイステクノロジーの事業の将来性が見えてくるか、しっかり考察し評価していきたいと思います。(※2019年時のものです)

 

残り2件の特許は、実は新規事業ネタで社長キモ入りの「未来の」本丸では?

グレイステクノロジーの残り2件の特許は、GRACE VISION関連です。
GRACE VISIONとは何か。HPを読むと、AIを搭載した専用メガネにAR(拡張実現)を表示し、音声とともに誘導する「完全誘導型AIマニュアル」と書かれています。

                                      第6回「知財情報活用セミナー」資料より抜粋

プラントや工場の機械のメンテナンス現場では、新任の作業員はもちろんですが、経験者であっても初めて担当する装置であれば、それなり教育が必要になる場合があります。また、作業途中にマニュアルを読んだり、メーカーに問い合わせをするなど、それなりの手間も発生しますね。そういった、工場やプラントのメンテナンス現場で起きる様々な「不」「負」「非」を解消するためのものだ、としています。

メガネにマニュアルが表示され、AIと会話しながら作業進めることが可能になるので、紙のマニュアルが不要なのはもちろんですが、手を止めてマニュアルを見たり、作業前にマニュアルを読んで覚えたりしなくてもメンテナンスが可能になるというわけです。つまり「ウエアラブルデバイス(スマートグラス)」+「AI」+「マニュアル」のサービスですね。

特許の一つは日本で特許取得後にアメリカで出願していますね。アメリカに出願するということは、この発明は社長さんが次に本丸でやりたいところなんじゃないかな、という気がします。次の飯のタネであり、次の事業の柱、つまり、新規事業の特許ですね。

 

特許に記載された「課題」はデータ量の増大による「通信負荷」

請求項は、例によって長々と書いてあって何がすごいかわかりづらいので、まず明細書を見ていきましょう。特に、課題を先に理解したいですね。

                                                                   第6回「知財情報活用セミナー」資料より抜粋

 

今回は、特許⑧の「要約」の「課題」に記載されている「通信負荷」という言葉に注目します。メンテナンス作業員にスマートグラスをつけて作業してもらうとなると「通信負荷」「処理負荷」が増大する、これが課題だ、と書かれています。

作業の進捗に併せてマニュアルを表示したりするので、作業中に作業員がつけているスマートグラスのカメラで、動画を撮影して送ることになりますよね。Wi-Fi環境や工場のインフラにもよりますが、作業員が何十人もがカメラの画像バンバン送り始めたら、通信回線やサーバが大変なことになりますね。

プラントや工場ですから、オフィスほど通信環境はよくないかもしれません。アンテナから離れたり、装置や建屋の陰になることもあるはずで、送受信ができないこともあるでしょう。設計や開発段階で、現場での実際の運用を想定するとこういうことが必要になると考えたのか、もしくは、いろいろ試してみたところ実際そこが大変だった、ということなのか、どちらかはわかりません。勝手に後者だろうと僕は思っています。5G回線が普及すれば、またその辺は変わってくるかもしれませんね。
でも、大規模なプラントとか大きな工場では、5G回線環境を全域にわたって構築するのが難しいようなところもあるでしょうから、いずれにせよシステムとしては、できるだけ通信するデータ量を少なくするかがポイントになるのでしょう。

特許に書かれる事って、色々な理由で必ずしも現場の実態を反映していない可能性もあります。だから本当のところは、「実際どうなの?」と聞きに行かないとわからない。もちろん、聞いても、その特許との兼ね合いや秘密情報の関係で教えてくれないこともありますけど。書きたくないことがあって、それを上手くオブラートに包んで表現するとこういう文言になった、という可能性もあります。

僕も、今回読んだ範囲では、これが本当に現場の課題なのかクエスチョンという感じです。でも、とにかくこういう権利が取りたいんだな、ということはわかりました。

 

特許の請求項を読んで課題解決手段(発明の本質)をみる

「課題」はおおよそ理解できましたので、次は請求項を読んでみます。課題に対して「どうするか」つまり「解決手段」が記載されている部分で、特許における発明の本質部分ですね。

                                                                     第6回「知財情報活用セミナー」資料より抜粋

請求項をよく読むと、どうもカメラから送られてくる画像を確認して作業指示を出すのではないようです。例えば、何かの操作をしたら、操作された装置から出てくる信号と、マニュアルや作業記録をつき合わせて「確かに操作されている、次はこれやってください」と指示するようです。

確かにその方が判断は早いですよね。ウエラブルカメラから送られてくる画像で何でも判断するという特許は結構出ていますが、操作された機器のから出てくる信号と作業記録やマニュアルをつき合わせるというのは、これまでなかったような気はします。
スマートグラスにはいろいろなパターンがありますが、GRACE VISIONに関しては、表示に特化していて、カメラで画像データを取ることには注力していないようです。

 

このようなことがある程度特許から読み取れれば、次はそれに基づいて調べるか、ヒアリングすればいいんです。件数が少なくても特許からまずきちんと情報を拾う。基本は課題と解決手段ですね。また一件の特許をよく調べると、前回紹介したように「この特許を邪魔やと感じている奴がいるな」などと、思わぬ観点で深堀できることもあります。それでも最終的に「特許読んだけどよーわからんなぁ」となったら、その時は仕方がないので、ほかの情報を調べればいい、というのが僕の考え方です。まぁでも、だいたい何か、結構すごいことがわかるんですけどね、よく読めば(笑)。

もしグレイステクノロジーさんにインタビューされた方が、皆さんの中にいらっしゃったら、僕の読みがどれぐらい正しいかぜひ教えてほしいです。

 

グレイステクノロジーの特許を読んでみて、僕の結論は?

特許件数は少ないながらも、それらの特許を隅々まで読んでみた上での、グレイステクノロジーに対する僕の結論は、「すごくよく考えられた発明を権利化されている会社」だなということに尽きます。

製品や事業という意味でもそうですし、特許や発明という意味でもよく練られていると思いました。一言でいうと、先見の明があります。代理人の方の名前は調べていませんが、結構綿密に発明者である社長と、特許出願について調整されているのではないかという印象を持ちました。米国特許も出願していますし、海外進出もきちんと視野に入れた戦略がとられていると思います。

                                                                        第6回「知財情報活用セミナー」資料より抜粋

特許を読んで、企業の活動やある種の将来性を評価する方法を、ここまでお話ししました。特許の「強さ」を決める条件の一つに、「権利の範囲の広さ」や「無効理由がないこと」があげられます。
ある企業の特許を読む、とか、それで企業を評価するという話題になると、大体すぐに「この特許強いんですか?」みたいな話になります。でもこれ、実は結構難しい話なんですよね。なぜ難しいかと言うと、実は権利範囲が広いほど無効理由をたくさん含んでいるからです。権利の範囲が広くなればなるほど、過去のいろいろな発明、つまり先行技術がそこに含まれる可能性が高くなりますよね。ある特許Aについて、過去に同じ発明が特許出願されていたら、その特許Aは無効になります。だから、「権利の範囲の広さ」と「無効理由がないこと」はトレードオフになりがちです。

「権利が広いから、この特許は強いんだ」と言う人がいるんですが、それはちょっと理屈として間違っているというか、短絡的なんですよね。その特許は、権利が広い分、無効理由をたくさん含むはずです、だから、逆に潰されやすくなる。グレイステクノロジーの特許も例外ではありません。だから僕はいつも「この特許は強いです」と安直に断言はしません。まぁでも、そういう細かい話は置いておくと、グレイステクノロジーの特許は結構良く出来ていて、応援したくなる事業をやっているな、考えているな、と思いました。

 

特許件数が少なくても、じっくり読めば技術と先見性が見えてくる

ここまでが、特許件数の少ない企業の評価方法として、グレイステクノロジーを事例に2019年にお話しした内容です。特許件数が少なくて判断が難しい、という相談は投資家の方からよくあります。僕は金融機関や投資家からの依頼で、スタートアップの特許評価もずいぶんやりました。特にスタートアップは特許が数件しかない場合もあり、評価が難しいこともあるのですが、こうやって中身をじっくり読み込むと、この企業がやろうとしていることは何か、その企業のコア技術は何か、そのコア技術は守られているのか、見えてきますし、その先の事業展開はどう考えているのか、など先読みすることもできます。
だから、全く手掛かりがないわけではないんですよね。ある情報をどう読むか、読み取った情報をどう解釈して、次に何を調べるか。そういうことを積み重ねていけば、何らかの答えが出せます。

グレイステクノロジーに関しては、現在上場廃止になっています。上場廃止になった理由は、営業の方法や会計上の問題のようで、技術とは別の要因のようです。なので、特許情報をもとにした僕の評価としては、今も変わっていないんです。先見性があり、いい技術やよく練られた特許を持っていると思うので、今後もぜひ頑張ってほしいなと思っています。すごく応援しています。

語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子 

 

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