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なぜ花王は連続増配を30年以上続けられ、3MやJ &Jは連続増配を60年以上続けられるのか?

「配当貴族」で有名な花王や3M、J&Jに共通していることは?

企業の「配当」の実績は、「業績」と並んで投資家にとって重要な判断指標の一つですよね。必ずチェックしている、という投資家も多いと思います。特に「増配」を続けているか、を見ている投資家は多いんですね。
下記の表は、長期の連続増配記録を持つ日本企業のランキングの抜粋です。

 

 

 日経新聞社「『日経連続増配株指数』『日経累進高配当株指数』の公表開始について」プレスリリース(2023.6.22)より一部抜粋。詳細はhttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000512.000011115.html 参照

 

これを見ると、ダントツなのが33年連続増配の「花王」ですね。ちなみに米国株では、アメリカン・ステイツ・ウォーターの68年連続増配を筆頭に、60年以上連続増配の企業は13社(2023年6月現在)。発明塾でよく取り上げる3M やJ&J(ジョンソン・エンド・ジョンソン)などが、その中に入っています。

このダントツ配当貴族である花王やJ&J、3Mに共通していることは何か。誰でも、「なんか共通点あるんとちゃうかな」と思うでしょうし、あるなら知りたいですよね。
僕の答えはズバリ「知財活動が盤石なこと」です。配当貴族企業すべてについての、統計的な証拠があるわけではありませんが、少なくともこの3社については、そうだと考えています。理由はこの後、僕が多数の企業の現場を見てきた経験を交え、説明しましょう。

 

花王や3M、J&Jは知財戦略で儲ける仕組みができている

僕は以前ナノテクスタートアップで多くの化学メーカーさんと共同研究をやっていました。その流れで現在も、弊社のお客様には化学メーカーさんが結構多いんですね。お客さんの参考になるようにと、化学メーカーの知財戦略を調べていた時、知財戦略の巧みさに驚いたのが3Mでした。丁寧に調べていくと、ほんとにえげつない特許をバンバン出している、ということがわかったんですね。

その後、日本企業でもそういう会社がないかなといろいろ調べていたら、花王がすごい特許をシステマチックに出しているようだ、ということがわかりました。しかも、彼らの特許を一つ一つじっくりと読んで分析していくと、3Mも花王も知財戦略が徹底しているだけでなく、特許の取り方や、戦略がよく似ていたんです。

例えば分割出願を上手く使って、一つの発明をいろいろな角度から徹底的に、これでもかというぐらい粘り強く守る。発明の数自体も増やしていって、かつ一つの発明もいろいろな側面から徹底的に守って、隙のない特許網をつくっていく。特に3Mは、見事なまでに漏れがない特許網を作ってきます。僕のセミナーで3Mの特許を読んだ知財部の方が、「めんどくさすぎて、諦めよう、って思います」と正直な感想をくださいました。3Mの勝ちですね(笑)。
かつてアメリカ企業の知財戦略は日本より数十年先を行っていた、と言われることがあります。花王が3Mの特許や知財戦略を研究して真似たのかどうかわかりませんが、不思議なぐらい共通点が多いんですよね。


さらに業績と配当の関係を調べてみると、花王も3MもJ&Jも、業績が多少落ち込む年があっても配当は減らしていないんですね。大半の企業は、ちょっと儲からなくなったら配当を減らすというのが通例だと思いますが、この3社は違う。業績が落ち込んでも、ほんの少しだけでも配当を増やすんです。
どうやらそういう方針らしいのですが、それができるのは次年度には挽回する自信があるからですよね。どう思います? 自信があるとしたら、その自信はどこから来るのか? それは、儲ける仕組みができているということやないかな、と僕は思います。
その儲ける仕組みの一つには、もちろん知財もあるでしょう。知財を生み出す仕組みもきっちり出来ていて、それを粛々と回していっているんだと思います。でもまぁ、「知財があるから儲かる」というのは、なんぼなんでも言いすぎでしょうね(笑)。僕の考えをもう少し突っ込んで説明しますね。

 

多くの企業は「知財活動」が後回し

なぜ知財が盤石だということが、連続増配企業の重要なポイントだと、僕が考えるのか。これは、僕が「知財教育」の仕事を15年以上やってきて、大手企業からスタートアップまで、ありとあらゆる業種の日本中の企業の知財部の方に、隅々までヒアリングしてわかった「とても重要な事実」が、影響しています。

実は、多くの企業では「知財」「特許」は、残念ながら「後回し」なんです。まぁ、当然というと知財部の方に怒られそうですが、仕方ないんですよね。どう考えても普通の企業では、「技術開発」「製品開発」「製造」や「営業」の方が優先順位は高く、それらに比べると「知財」はどうしても優先度が低くなります。

僕の経験から推察するに、知財部の方が「知財」「特許」という言葉を出した瞬間に、「モノ作ってお客さんに届けるほうが先や!今は知財のことやってる時間なんかないわ!」と反論される、というやりとりが、ほぼすべての企業で毎日なされていると思います。経営者の方に聞いても、だいたい同じような反応の方が多かったので、ほぼ間違いないんです。たとえば、資金や人材に余力のない小規模企業の経営者の方とお話すると、はっきりと「知財まで手が回らないし、今はやりません」と言われますね。もちろん僕も、その立場ならそういうでしょうね(笑)。だから、それでいいんです。正しいとか間違ってるとかではないんですね。

僕が15年間、日本中の企業に「知財教育」の営業に行きまくってわかったこと。それが「ほとんどの企業において、どうやら知財活動は業務における優先順位がとても低いらしい」ということです。営業としては要するに「断られている」だけなので全く成果はないのですが(笑)、実はこれは、僕にとっては非常に重要な気づきでした。知財情報を分析する上で、これが実感としてわかったことが、その後とても役に立ったからです。

 

「知財戦略」「特許戦略」を徹底的にやっている企業は、他もことも徹底的にやっている

前置きが長くなりました。何がいいたいかと言うと、要するにどこの企業もだいたい知財のことは「後回し」であると。経営者から現場までみんなそうであると。それにもかかわらず、「徹底的」に知財をやっている企業は、製造も営業も技術開発も全部徹底的にやっているんだなと。そういうことが見えてくるんじゃないですか、ということです。花王、3M、J&Jは知財を徹底的にやれるくらい、現場にも経営にもかなりの余力があるということです。何十年前からすでにそういう仕組みをきっちりと作り、粛々と実践している。そういう体制ができあがっている。だから成長しているんじゃないですか、ということです。

当たり前かもしれませんが、逆に、仕組みがちゃんとしていない企業は成長するのは難しいのではないでしょうか。仕組みがちゃんとしてなくて「無理して」大きくなってしまうと、極端な例をあげれば粉飾決算とか、何かおかしなことが起きるとか、そこまで行かなくても組織に歪みが生じてくる可能性が大きいと思います。そんな会社には、とても投資する気にはならないですよね。

ある時この考え方を、知財や特許にも明るい投資家の方に話したら「なるほど、そうかもしれませんね」と、妙に納得されていました。花王は、特に投資家の間でも安心して投資できる定評のある企業だそうで、そういう企業が知財もしっかりしている理由について、これまで考えたことがなかったそうです。

僕も3Mや花王での気づきがきっかけになって、特許がしっかりしていたらこの会社は伸びるかもしれないな、という目利きというか、土地勘みたいなのが、なんとなくわかってきた感じです。
だって「弊社はものすごく成長しています!」「その成長が維持できる強みがあります!」「今後も大丈夫なので投資してください」とか言われても、その裏付けになるような特許がほとんど出ていなかったりすると、やっぱこの会社ホンマに大丈夫なんかな?流石にまだそこまでは手が回らないのかな?ちょっと無理してるんとちゃうかな?って思いますし、「特許や知財まで手が回らない」と経営者が真顔で言っている企業は、まだまだこれから体制と仕組みを作る会社なんだな、と思ってとりあえずスルーしますよね(笑)。

この辺は結局、企業の戦略や経営陣がしっかりしているか、ということにも通じて来るかなと思います。そもそも知財だけをしっかりやるということは、どう考えても不可能なんです。他がしっかりやれるから、知財もその「仕上げ」「結果」としてしっかりできる。そういうことです。

 

国内株で30年以上増配しているのは花王だけ、バブル崩壊時もほぼ影響なし

一旦の結論というか僕の持論として、知財が手堅い企業は結局のところ成長する企業である、ということで、先ほどの連続増配年数の表をもう一度見てみましょう。花王は33期(33年)連続増配で、2位がSPKの25年、3位が三菱HCキャピタル、24年、4位がリコーリース、ユー・エス・エス、小林製薬の23年と続いていきますね。小林製薬はアイデア商品のイメージがありますから、知財とも相性が良さそうですね(笑)。ニッチなところでは、7位に22年で物流企業のトランコムが入っています。この企業も投資家にとても人気がありますね。

注目してほしいのは1位と2位以下の差です。8年以上の差がありますよね。これが意味するものってわかりますか? 
それはバブル崩壊の時期にどうなっていたか、です。
花王は1990年からの連続増配ですが、2位以下はバブル崩壊の時期におそらく増配をやめたんです。バブルの後遺症でどの企業も長い間苦しんでいる中、花王は確実に増配し続けているわけですね。ちなみに1990年は1989年と同じ配当額で現状維持でしたから、減配はしていないんですよね。

 

                   花王の業績推移(花王HPより抜粋)

 

また、2008年にはリーマンショックもありました。リーマンショック後あたりから増配できている企業はまだ強いとは思いますが、2008年以降、今日まで13、14年以上連続増配していない企業というのは、リーマンショック以降すら何かがあってダメなわけです。

そう考えると、バブル崩壊やリーマンショック、最近ではコロナ禍などでみんな「連続増配」「配当貴族」から振り落とされてしまっているということですね。そんな中、何も言い訳せずに粛々と増配している花王が、いかに知財も含め企業活動に厚みがあって総合的に強い企業なのかが、なんとなくわかっていただけると思います。

まあ、トイレタリー業界は不況時に強いとは言われているのですが、それを加味しても30年を超えているのが花王1社だけ、2位と8年の圧倒的な差をつけている、というのはやはり総合力でのダントツ企業だと言わざるを得ないですよね。

 

自信がなければ、業績が下がった年に配当を増やすことはできない

多くの企業は、業績が下がった時、何かに備えて配当を抑え、社内保留しておこうという考え方をしますよね。残念ながら、花王を経営しているのでなければ、僕もそうするかもしれません(笑)。

配当を楽しみに投資している人って結構多いですよね。もちろん配当がなくても投資する人もいますけど、配当が急にガクンと減らされたら、不安になって株を売ってしまう人がやはり増えます。そうなると、株式の価値(価格)が下がるわけです。そんな会社として苦しい時に、タンス預金しておいて将来の備えにしようと思うか、それとも、苦しいときこそ株主との信頼関係を厚くしておこうと思うか。極端に言うと、そういう2つの考え方に分かれるわけです。

これは、どっちが正しいということではないんです。どっちが正しいとは言わないんですけど、どちらが前向きか後ろ向きかって言われたら、株主と信頼関係を保っておこうっていう方が前向きかなと、個人的には思います。「今回だけで、来年は大丈夫ですよ、ちゃんと儲ける仕組みがバッチリできてますから」というメッセージですよね。口だけではなく、配当という実(じつ)の伴ったメッセージを送るわけです。

だから、連続増配で経済危機でも配当を増やし続けるという姿勢には、経営者のマインドが現れていると思います。結局、応援したくなる企業っていうのは、こういう企業なのかもしれませんね。安心してください、大丈夫です、任せなさいと。すぐに挽回できますよと。株主と経営者の、そういうやり取りが「連続増配」から見えてきませんか?

もちろん、連続増配の企業は必ず応援できる企業だ、とは言いません。でも、繰り返しですが、やっぱり苦しい時でも増配できる会社はきっとそれなりの自信があるんだろうし、長い目で見ると頼もしいなと思いますよね。

 

知財戦略がしっかりしている企業は成長する可能性が高い

ちょっと見方を変えてみましょう。そもそも、売上とか利益とか、毎期(毎年)報告される企業の業績ってどうやって計算されているんでしょうか。
それって実のところ、どこで年をまたぐか、変えるか、勝手に決めているわけで、要するにむりやりどこかの日付で「ここまでが一年です」と区切っているだけの話です。本来は、企業の業績ってもう少し長いスパンで見るべきものかもしれないですよね。1年ごとの、勝手に区切った日付での業績にどれぐらい意味があるのか。そんなこと、考えたことありますか(笑)

だから、そもそも毎年繰り返される多少の浮き沈みに応じて、「儲かったから増配」「下がったから減配」とやっていくのってちょっと違うんじゃないかなと、僕は個人的に思ってます。本当は、多少のブレはあっても年々売上は上がるんだから、粛々と増配していくぞ!というマラソンランナーみたいな企業が、優良企業なんじゃないでしょうか。そして、それは結局、知財を見れば分かるんじゃないですか、というのが僕の持論です。

とにかく新商品が出るたびに、それなりの数の行き届いた特許がどんどん出てくるのを見ると、この会社は自信あるんやな、この商品売れる自信あるんやな、初年度は売れなくても数年後には売れてくるという自信あるんやな、と感じます。何回も言いますけど、「知財は後回し」が、どこの会社でも現場の実態だからです。それでも、それなりの数の「イケてる特許」が毎回きっちりと出てくる。開発して終わりではなく、持続的に競争優位を確保するためにどうするか、隅々まで徹底しているわけですよね、そういう会社は。この手堅さは、連続増配に関係してくると思うんですよね。皆さんはどう思いますか?

そもそも、売れる自信のない商品にはそんなに特許を出さないですよね。そして、ちょっと儲からなくなったら今後は特許の件数を少し減らそうか、という話になります。これが現場の実態なんです、何回も言いますけど(笑)。だから、万全な準備をして粛々と特許を出している企業かどうかを見極められるかどうかは、長いスパンで成長する企業を見つけられるかどうか、長期投資の大きな武器になると思うんですよね。


今回紹介しきれませんでしたが、世界的に連続増配の上位に名を連ねている企業には、他にもかなりえげつない知財戦略をされている企業があります。
これから安定して成長しそうな企業を見つけて応援したいという人は、特に知財戦略、特許戦略に注目してみてください。

語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子 

 

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