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【図解】花王のライフケア戦略 ~特許技術の強みを生かし、健康・美容のプラットフォームをつくる

【図解】花王のライフケア戦略 ~特許技術の強みを生かし、健康・美容のプラットフォームをつくる

花王は2021年度に中期経営計画の「K25」をスタートし、「未来の命を守る」という目標を軸にした方針の見直しと、事業再編を行っています。本記事では、花王の具体的な経営戦略について、特に2022年の説明会で紹介された「プレシジョン・ライフケア構想」に注目し、その概要と、具体的な事業に加え、関連する特許技術も解説します。

「個々人の健康や美容」に関わるデータを整備し、GAFAにはできない独自のプラットフォーム構築に挑戦する日本企業の取り組みであり、新規事業立ち上げに取り組む方には特に参考になると思います。

<参考:花王株式会社(Kao Corporation)基本情報>
証券コード:4452
設立:1940年5月(創業1887年6月)
資本金:854億円(2021年12月31日現在)

【図解】花王の事業戦略の概要 ~事業再編とプレシジョン・ライフケア構想

花王のプレシジョン・ライフケア構想のイメージ図(花王のプレシジョン・ライフケア構想説明会の資料を参考に作成)

花王のプレシジョン・ライフケア構想のイメージ図(花王のプレシジョン・ライフケア構想説明会の資料を参考に作成)

 

事業セグメントの再編とライフケア事業部門の新設

花王の事業セグメント再編の概要。右側が新セグメント(花王統合レポート2021を参考に作成。化粧品事業・ケミカル事業は変更されてないので省略)

花王の事業セグメント再編の概要。右側が新セグメント(花王統合レポート2021を参考に作成。化粧品事業・ケミカル事業は変更されてないので省略)

 

花王は、過去の「大量生産した商品を低価格で提供する企業」から、「社会課題を解決する商品を高付加価値で提供する企業」への変革を目指しており、2021年1月から再編された事業セグメントには、それぞれが解決すべき社会課題に沿ったテーマが設定されています。

例えばハイジーン&リビングケア事業は衣類ケアなど「清潔で快適な暮らし」、ヘルス&ビューティケア事業はスキンケアやオーラルケアなど「健康美や清潔衛生」、ライフケア事業は生活習慣病予防など「身心の健康」がテーマになっています。

新設されたライフケア事業部門では、生体モニタリング技術など花王が培ってきた技術を活用した新規事業創出が進められており、「未来の命を守る」という目標に向けた変革の中心になっています。

個々人の健康・美容の課題を解決するプレシジョン・ライフケア

ライフケア事業が目指すビジョンとして打ち出されたのが、「プレシジョン・ライフケア構想」です。2022年3月に行われた構想説明会の資料では、診断技術により個人ごとの課題を精確に同定し、健康食品などソリューションとなる商品を提供することで、健康・美容に関する個々人の課題を的確に解決する構想が解説されています。

プレシジョン・ライフケアのコア技術の1つが、「仮想人体生成モデル」と呼ばれる統計モデルで、花王のYouTube動画によると、利用者の健康診断結果などのインプット情報から、その人の皮膚の状態やストレスなど1600以上の項目を統計的に推定できるようです。

上記の統計モデルで大枠の傾向を把握すると共に、遺伝子解析などの「モニタリング技術」を用いることで、「網羅性」と「精確さ」を兼ね備えたライフケアが可能になります。

次項では、これらの技術を活用した具体的な事例を紹介します。

 

構想実現に向けた花王のオープンイノベーションと特許戦略の事例

日清食品との協業による、パーソナライズされた完全栄養食の提供

日清食品の完全栄養食プロジェクトは、「見た目やおいしさはそのままに、必要な栄養素をバランスよく摂取できる食事」の提供を目指しています。2022年4月の花王のニュースリリースによると、日清食品と花王は協業に合意しており、完全栄養食が健康状態に与える影響を仮想人体生成モデルを用いて把握できる仕組みをつくろうとしているようです。

単に栄養バランスの良い食事を提供するだけでなく、その効果をモデルの出力から具体的に把握できるため、完全栄養食の利用を継続する動機づけになります。また、その人の健康状態に応じて最適な食事を提供するなど、パーソナライズされた完全栄養食の提供も視野に入れているようです。

皮脂RNAモニタリングによる肌ケアと、ミルボンとの協業

花王は皮脂に含まれるRNAの網羅的な分析技術「RNA Monitoring(RNAモニタリング)」を世界で初めて構築しており、 2019年6月のニュースリリースで発表しています。

具体的な方法として、あぶら取りフィルムで採取した皮脂からRNAを抽出し、次世代シーケンサーによる網羅的解析を行っています。肌を傷つけずに、日ごとの変化も含めた個人の肌の状態を把握することが可能で、例えばアトピー性皮膚炎の症状の重さの評価などで成果が出ています。

また、2022年1月のニュースリリースによると花王は、美容室専売のヘア化粧品を提供するミルボンとの協業を開始しています。美容室の顧客向けに、RNAモニタリングを用いたヘルスケア情報の提供や、ヘルスケア商品の共同開発などを検討しているようです。

※遺伝子解析や編集技術によりバイオ分野の開発プラットフォームをつくるGinkgo bioworksの戦略については以下の記事で解説しています。

Ginkgo Bioworksの技術と経営戦略【徹底図解】~ワクチンから農業まで革新するDNA・細胞編集プラットフォーム

オープンイノベーションにおける交渉力の土台になる特許技術

ここまで紹介した事例で、花王は様々な企業と連携していますが、オープンイノベーションの交渉においては知財力も重要なファクターになります。花王は食品業界における特許戦略のトップ企業としても長い蓄積があり、例えば2010年のMONOistの記事によると、サントリーの知財戦略構築においても、先行事例として花王の緻密な特許戦略が手本になったようです。

今回ご紹介した技術についても、例えばJP6864460B2「疾病予測装置」のように利用者の活動情報から発症する疾病を予測する技術や、JP2022016416A「アトピー性皮膚炎の重症度の検出方法」のように遺伝子の発現プロファイルから皮膚炎を診断する技術など、関連する特許が出願されています。興味のある方は、ぜひ特許公報もチェックしてみて下さい。

 

「健康」・「美容」のプラットフォームを構築する花王のライフケア戦略の今後

ここまで、花王の経営戦略について、事業再編の内容とプレシジョン・ライフケア構想の概要、構想実現に向けた技術の具体的な活用事例、それらを支える特許戦略について簡単に解説しました。いずれの技術も、利用者の「体」や「皮膚」などWeb上では完結しない領域でビジネス基盤を構築しています。

ちなみにクボタのSDGs戦略の記事では、農機や水道管が利用される「地べた」の領域でGAFAに負けないプラットフォーム構築を目指すクボタについて紹介しましたが、花王もライフケア分野で独自のプラットフォーム構築を目指す企業と言えそうです。クボタの北尾社長と同様に、花王の長谷部社長も研究開発部門出身であり、地道に積み上げた独自技術をテコにした戦略を取っている点でも共通しており、技術者としては応援したくなります。

ライフケア分野で花王の技術がどのように普及していくか、今後の展開にも引き続き注目していこうと思います。

※「地べたのGAFA」を目指すクボタの戦略は以下の記事で解説しています。

クボタのSDGs経営戦略【地べたのGAFAへ】~GMB2030実現に向けたスマート農業・IoT取り組み事例

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
発明塾東京一期生。現在は企業内発明塾™における発明創出支援、教材作成に従事。
個人でも発明を創出し、権利化を行う。

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