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トヨタの自動運転・MaaS戦略を特許から分析

トヨタの自動運転・MaaS戦略 ~特許から読み解く技術開発動向

トヨタは2024年3月期の決算発表で、2025年3月期に1兆7千億円規模の「成長領域への投資」を行う計画を発表しています(2024年5月の自動運転LABの記事参照)。自動運転やMobility as a Service(MaaS)は事業変革において重要な分野ですが、具体的な開発動向はあまり知られていません。

本記事では、自動運転・MaaSに関するトヨタの開発動向について、特許情報の分析を元に具体的に解説します。まず、決算資料やニュース記事の情報を整理した後、具体的な開発動向やキーパーソンの情報を特許から掘り下げます。

トヨタの開発動向を把握し、事業機会をつかみたい方はぜひご一読ください。

<参考:トヨタ自動車株式会社 基本情報>
証券コード:7203
創立年月日:1937年8月28日
資本金:6,354億円(2024年3月末時点)

トヨタ自動運転・MaaS戦略の概要

マルチパスウェイで開発を進めつつ、自動運転・MaaS関連技術も開発

トヨタの開発戦略における自動運転の位置づけ(トヨタの統合報告書2023の図に追記して作成)

トヨタの開発戦略における自動運転の位置づけ(トヨタの統合報告書2023の図に追記して作成)


まずはIR資料から、トヨタの開発戦略における自動運転の位置づけを確認します。

上図のように、トヨタは電気自動車だけでなく、ハイブリッド自動車や水素燃料を利用した自動車など、多様なクルマを並行して開発する「マルチパスウェイ戦略」を進めています。自動運転は、それらの多様なクルマを「知能化」する技術の一部に位置付けられており、関連する開発テーマとして例えば以下が知られています。

  • 自動運転、MaaS、コネクテッドカー(※)などの技術の基盤となるソフトウェアプラットフォームとして、車載OSのArene(アリーン)を開発
  • 業務用モビリティの自動運転を活用した旅客や輸送関連のMaaSサービスの開発
  • 生成AIの活用による、クルマとドライバーの対話形式のコミュニケーションの実現

クルマもスマートフォンのように専用のOSが搭載され、様々な機能が実装されるようです。運転の自動化は、自動配送などのサービスを実現する上で重要なテーマと言えます。

※コネクテッドカー:クルマを通信接続する技術。クラウドとの接続に加え、クルマとインフラの接続、クルマ同士の接続なども含まれる

トヨタの自動運転・MaaS関連の主な動向

続いて、自動運転に関連したトヨタの主な動向を、以下に整理します。

  • 2025年の実証実験開始に向けて、静岡県裾野市に実証都市「Woven City(ウーブン・シティ)」を建設。自動運転による自動配送や、水素ステーションなどの技術を含む、様々な社会課題の解決に向けた実証実験を進める予定(2023年12月の自動運転LABの記事など参照)
  • MaaS領域のサービス創出に向けて、ソフトバンクグループやUber、東南アジア配車サービス大手のGrabなどと協業(トヨタのコネクティッド&MaaS戦略の資料参照)
  • トヨタ子会社のウーブン・プラネットが、米国で配車サービスを手掛ける「リフト」の自動運転部門を買収(2021年7月のトヨタリリース参照)

ウーブン・シティのように「街」をつくる規模の投資ができるのは、世界一の販売台数を誇るトヨタの強みと言えます。また、ハードウェアの販売だけではなく、モビリティを使ったサービスの販売が重要になる未来に備え、様々な企業との協業や買収も進めていることがわかります。

後半では特許情報を活用し、トヨタが具体的にどのような技術を開発しているかを読み解きます。

自動運転に関するトヨタの開発戦略とキーパーソンを特許から読み解く

ここ5年で自動運転・MaaS関連の特許出願を強化

トヨタの米国特許出願のCPCトップ10(LENS.ORGの検索結果を元に作成。Toyota Motor Co LTD、Toyota Motor Corp、Toyota Ind Corp、Toyota Motor Europe、Toyota Chuo Kenkyusho Kk、Toyota Eng & Mfg North Americaを出願人とする2019~2023年の米国特許出願を分析。2024/08/30時点のデータ)

トヨタの米国特許出願のCPCトップ10(LENS.ORGの検索結果を元に作成。Toyota Motor Co LTD、Toyota Motor Corp、Toyota Ind Corp、Toyota Motor Europe、Toyota Chuo Kenkyusho Kk、Toyota Eng & Mfg North Americaを出願人とする2019~2023年の米国特許出願を分析。2024/08/30時点のデータ)


まず、トヨタの特許出願の全体像を把握するため、出願件数の多い共通特許分類(CPC分類)を抽出します。直近の5年間(2019~2023年)の出願を見ると、上図のように自動運転・運転支援や、MaaS関連の技術が上位に入っていました。

3位の「B60W50/14」は「ドライバーへの警告表示」に関するカテゴリーで、衝突回避のための表示など、運転支援に関する技術が含まれます。また、9位の「G06Q50/40」は「運輸ビジネスのプロセス」に関連したカテゴリーで、配車・運輸サービスのシステムなどMaaS関連の技術が含まれます。自動運転だけでなく、MaaS関連の区分も上位に入っていることがわかります。

上記の2カテゴリーともに、ここ5年で出願件数が急増しており、トヨタがこれらの技術の開発を強化していることが推測できます。また、バッテリーや水素燃料電池の技術も上位に入っており、トヨタがマルチパスウェイ戦略にもとづいて多様なモビリティ開発を進めていることが特許出願からも見て取れます。

一方、ハイブリッド自動車や内燃機関に関する区分は過去に比べると順位を落としており、内燃エンジンを利用した開発に対する投資は減少しているようです(※)。

※過去10年間のランキングを見ると、内燃機関やハイブリッドに関する区分は、過去5年間のランキングより上位に入っている。ここでは詳細なデータは割愛

自動運転・MaaSの開発キーパーソンは誰か?

では、「誰」に注目すれば、トヨタの自動運転やMaaS関連の技術開発の動向を効率よく把握できるでしょうか?「トップ発明者」はひとつの手がかりになります。上記の2カテゴリーで、特許出願の多い発明者に注目して分析を進めます(※)。

「ドライバーへの警告表示」に関するカテゴリー「B60W50/14」のトップ発明者は遠藤雅人氏で、2008年頃から運転者へのナビゲーションの仕組みを開発しています。例えば2008年に出願されたJP2010126130A「異常診断装置」では、カメラやレーダーなどのセンサの異常を精度よく検知し、ドライバーに警告表示する技術が記載されています。

一方、2021年に出願されたJP7501412B2「表示制御装置及び表示制御方法」では、ドライバーの運転を「安全性」「低燃費」「乗員の快適さ」などの観点で評価して伝える技術が記載されています。関連するトヨタの取り組みを調べたところ、トヨタは、「ドライバーの安全運転スコアに応じた保険料の割引」などを実現する自動車保険サービスも開始していました(トヨタコネクティッドカー保険のページ参照)。ドライバーの安全管理に関する技術の強みを生かし、新たなサービスを生み出していることがわかります。

また、「運輸ビジネスのプロセス」に関するカテゴリー「G06Q50/40」のトップ発明者は兼市大輝氏で、2017年頃から関連する出願を開始しています。例えば2017年に出願されたJP6939416B2「配達システムおよび車両」では、車両のバッテリーの状態をオンラインでチェックして、冷蔵・冷凍品の配達を行うシステムについて記載されています。

兼市氏は他にも駐車システムや洗車など、幅広いサービスに関する100件以上の特許を出願しています。トヨタのMaaS関連サービスの具体的な構想を知りたい方はぜひチェックしてみてください。

※米国出願で、特許のファミリー件数が多い発明者を抽出

トヨタの自動運転・MaaS開発動向を読み解き事業機会をつかもう

以上、トヨタの自動運転・MaaS関連の開発動向について概要を紹介した後、特許情報を元に開発動向を掘り下げました。「トヨタが具体的に何をしようとしているか」をIR情報だけから読み取るのは困難ですが、特許情報を組み合わせると、具体的な構想や、いつごろから準備を進めていたかがよくわかります。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。その経験を会社の仕事にも活かし、「起業家向け発明塾」では起業に向けた発明の創出と実用化・事業化を支援している。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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