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脱石油・脱石油化学の最前線

脱石油・脱化石燃料の最前線 ~出光事業転換・石油化学メーカー再編の動向をIR・特許から分析

2024.4.5

脱炭素社会の実現に向けて、石油を始めとする化石燃料からの脱却、いわゆる「脱石油」・「脱化石燃料」が進んでいます(※)。石油は燃料としてだけでなく、様々な化学製品の原材でもあるため、「脱石油化学」に向けた企業の再編も進んでいます。

本記事では、「脱石油」「脱石油化学」の最前線として、石油製造・販売大手の出光興産や、旭化成・レゾナック・三井化学などの化学メーカーの最新動向を解説します。IR・特許情報を元に具体的に解説するので、石油依存の事業から脱却するヒントを入手したい方はぜひご参照ください。

※「脱石油」は石油の供給が不安定であるといった課題への対策としても重要です(資源エネルギー庁の「エネルギー基本計画」など参照)。ただ、本記事では主に「脱炭素」にフォーカスして解説します

脱石油・脱化石燃料に向かう出光と石油化学メーカーの動向

石油・化石燃料依存からの脱却を進める出光

出光興産の2030年に向けた事業ポートフォリオ転換(同社の2023年度第2四半期 決算説明資料の図に追記して作成)

出光興産の2030年に向けた事業ポートフォリオ転換(同社の2023年度第2四半期 決算説明資料の図に追記して作成)


まず、「脱石油」を本気で進める企業の代表例として出光の動向を紹介します。

出光の現在の収益のほとんどは、石油を中心とする「化石燃料事業」が占めていますが、全固体電池の開発など新規事業の創出を積極的に進めています。同社のIR資料によると、上図のように2030年には非化石燃料事業と、新規事業が収益の50%以上を占める状態になることを目指しています。

長年続いた石油依存の事業構造を、10年足らずで大きく変革しようとしており、本気度の高い取り組みであることが伺えます。2024年2月の日経GX記事によると、出光は東ソー、トクヤマ、日鉄ステンレス、日本ゼオンの4社とともに脱炭素向けの協業を進めており、脱炭素関連のエコシステムも成長させています。

※トヨタと協業して全固体電池事業を拡大する出光の戦略は以下の記事で詳しく解説しています。

出光興産の全固体電池戦略 ~強みを生かした新規事業創出の戦略を特許から分析

石油化学からの脱却を目指す化学メーカーの事業再編

石油化学工業の構造の概要(2021年12月の経済産業省資料の図に追記して作成)

石油化学工業の構造の概要(2021年12月の経済産業省資料の図に追記して作成)


石油は燃料としても重要ですが、石油精製の副産物を利用したプラスチック製造などの「石油化学」も多くの化学メーカーの基盤となる重要な産業です。上図のように、あらゆる産業に使われる材料が石油化学工業により供給されています。

「脱石油化学」にいち早く着手した化学メーカーとして、JSRが知られています。同社は石油化学関連のゴム事業を、2021年5月に売却しています(2021年12月の日経新聞参照)。ゴム事業はJSRの祖業であり、かなり思い切った決断と言えます。

他の化学メーカーも石油化学からの脱却を進めており、例えば以下の動きが知られています。

  • レゾナック・ホールディングスは、プラスチックなどの原料となる石油化学事業を分離・独立して上場させる検討を開始(2024年2月の日経GX参照)。石油化学関連の事業はレゾナックのScope1,2の排出量の約70%を占めており、半導体やモビリティなど排出量の少ない事業に注力する戦略と考えられる(排出量は2023年のサステナビリティ説明会資料参照)
  • 出光と三井化学は、CO2排出量削減・資源循環を目指した次世代コンビナートの構築に向けたエチレンの生産最適化の検討を開始。2027年に向けて、千葉地区における出光のエチレン装置を停止し、三井の装置に集約する最適化を進める計画(2024年3月の三井化学リリース参照)
  • 旭化成は化石燃料からの転換に向けて、再生可能エネルギー由来の電力を使った水素製造システムの実証実験を進めている。また、CO2を回収して地下に貯留するCCS(※)などの技術を活用(2023年12月の日経GX記事参照)

各社が、脱炭素化に向けた事業再編や転換を進めていることがわかります。

※CCS:Carbon dioxide Control and Sequestrationの略。発電所などで発生したCO2を回収し、地下の地層などに堆積させるプロセス。カーボンネガティブの実現につながる技術としても注目されており、旭化成の他にレゾナック、三井物産、UBE三菱セメントなども検討を進めている(2024年4月の日経GX記事参照)

脱石油化学を進める化学メーカーのIR・特許分析 ~レゾナック・三井化学・旭化成

続いて、先ほど紹介した化学メーカーの動向を、特許情報も活用しながら詳しく掘り下げます。

バッテリー関連の特許出願を強化するレゾナック

レゾナックのバッテリー関連の特許出願件数の推移(分析ツールLENS.ORGにより2024/04/01に調査) ※Hitachi Chemical Co Ltd  ,Showa Denko Materials Co Ltd  ,Resonac Corp ,Resonac Packaging Corp  , Resonac Holdings Corp  , Resonac Corporationの6社を出願人とし、CPC区分「Y02E60/10」に含まれる、2000~2023年に公開された特許を分析

レゾナックのバッテリー関連の特許出願件数の推移(分析ツールLENS.ORGにより2024/04/01に調査)
※Hitachi Chemical Co Ltd ,Showa Denko Materials Co Ltd ,Resonac Corp ,Resonac Packaging Corp , Resonac Holdings Corp , Resonac Corporationの6社を出願人とし、CPC区分「Y02E60/10」に含まれる、2000~2023年に公開された特許を分析


レゾナックは、2023年1月に昭和電工と昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)が統合して誕生した企業です(※)。先述のように、石油化学事業の分離・独立を検討しており、半導体やモビリティなどの事業にフォーカスする戦略を進めているようです。

脱炭素に関するレゾナックの特許情報を分析したところ、電気自動車(EV)などに使われるバッテリー関連の特許出願が2015年ごろから顕著に増加していました(上図参照)。出願人は主に日立化成で、バッテリーの負極材料などが中心になっています。

日立化成は1990年代からバッテリー材料の開発を続けていますが、2015年ごろからバッテリー開発を加速させたことが分かります。脱炭素化に向けたガソリン車からEVへのシフトに対応して、開発リソースを増強したことが推測できます。

ResonacHP参照。「株式会社レゾナック・ホールディングス」は持ち株会社で、「株式会社レゾナック」が事業会社

オープンイノベーションで次世代コンビナートをつくる三井化学

三井化学の次世代コンビナート構築に関連した取り組み(同社の第8回GX実行会議資料の図に追記して作成)

三井化学の次世代コンビナート構築に関連した取り組み(同社の第8回GX実行会議資料の図に追記して作成)


先述の通り、三井化学は次世代コンビナートの構築に向けてエチレン生産の最適化などを進めています。上図のように複数の取り組みが並行して進んでいます。以下に具体例を紹介します。

それぞれのテーマについて、他社との協業によるオープンイノベーションを進めていることがわかります。

三井化学はバイオマス由来の材料や燃料について自社開発も進めています。例えば、JP6571969B2「光学材料用重合性組成物および光学材料」 では、植物由来の化合物からプラスチックレンズを製造する技術が記載されています。三井化学はメガネ用レンズ材料で世界をリードしており、主力製品の脱炭素化も進めていることがわかります。

※三井化学のSDGs戦略の全体像は以下の記事で解説しています。

三井化学のSDGs戦略 ~化学メーカーの強みを活かした新規事業の創出事例

コア技術を生かして事業転換を進める旭化成

旭化成の事業転換の歴史(同社の新中期経営計画2024の図に追記して作成)

旭化成の事業転換の歴史(同社の新中期経営計画2024の図に追記して作成)


旭化成は、石油化学に依存した事業構造からの転換に早くから取り組んでいます。上図のように、2021年には住宅やヘルスケアなどの事業が売上の50%以上を占めています。

また、旭化成は次世代燃料としての水素の製造技術も開発しています。水素製造に関連した同社の特許出願を見ると、2010年代の後半から出願件数が大きく増加しており、開発を加速させていることがわかります。

旭化成のコア技術の1つが「膜を使った分離技術」で、電池のセパレータやろ過など幅広い用途があります。上記の水素製造でも、イオン交換膜と呼ばれる膜が使われています。

例えば旭化成で水素製造の技術を開発する蜂谷敏徳氏の特許出願を見ると、燃料電池に使われる膜の開発などを経て、2000年ごろから水素製造の開発に着手していました。旭化成がコア技術をうまく応用して新たな事業を生み出していることがわかります。

このように、既存事業で育てた技術の強みを生かして新市場を開拓するマーケティング戦略は「技術マーケティング」と呼ばれます。旭化成の事例は、技術マーケティングで成長する企業の事例としても参考になりますね。

脱石油に向けて技術マーケティングで新規事業を開拓しませんか?

以上、脱石油に関連した企業の動向として、出光に加え、化学メーカーのレゾナック・三井化学・旭化成の動向を紹介しました。最後に紹介した旭化成のように、技術マーケティングにより既存の強みを生かして事業転換を進めると、環境の変化にもうまく対応して成長を加速することが可能です。

顧客価値を明確にする技術マーケティングの考え方(「企業内発明塾」参加者向け資料より)

顧客価値を明確にする技術マーケティングの考え方(「企業内発明塾」参加者向け資料より)


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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。その経験を会社の仕事にも活かし、「起業家向け発明塾」では起業に向けた発明の創出と実用化・事業化を支援している。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
IT / 半導体 / 脱炭素 / スマートホーム / メタバース / モビリティ / 医療 / ヘルスケア / フードテック / 航空宇宙 / スマートコンストラクション / 両利きの経営 / 知財戦略 / 知識創造理論 / アライアンス戦略

 

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