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CPhI Japan 2024_国際医薬品展示会出展企業調査レポート

CPhI Japan(国際医薬品開発展)2024注目の出展企業紹介!~CDMO/CMO/CROの最新動向を一挙解説!

2024年の4/17~4/19に東京ビッグサイトで開催予定の CPhI Japan(国際医薬品開発展)は、医薬開発のための国際展示会です。注目の出展企業について事前調査を行ったので、まとめてご紹介します。特に製薬業界の水平分業に関連した動きを端的に整理するので、市場動向を効率よく把握したい方もぜひご参照ください。

特許情報などの参考情報も充実させたので、これから展示会に参加される方の情報収集に役立てば幸いです。また、筆者も展示会に訪問する予定なので、「自社の展示も見てほしい!」・「この企業がスゴイ・面白いよ!」といったご希望・情報があれば弊社のX(Twitter)やメールでお気軽にご連絡ください!

背景情報:医薬品製造・開発の水平分業

医薬品の研究開発・製造における水平分業化のイメージ(経済産業省資料の図に追記して作成)

医薬品の研究開発・製造における水平分業化のイメージ(経済産業省資料の図に追記して作成)

企業の紹介に入る前に、製薬分野における業界構造の変化について簡単に解説します。

かつては、薬の開発から製造まで製薬会社が一社でまとめて行うビジネスモデルが主流でした。しかし、近年は上図のように研究開発や製造・治験を外部に委託する水平分業型のビジネスモデルが急速に広がっています

受託型のビジネスモデルについて、用語を整理します。

  • CRO(医薬品開発業務受託企業):基礎研究や治験などを研究(Rsearch)に関する業務を受託する業態の企業
  • CMO(医薬品受託製造機関):医薬品の製造(Manufacturing)を受託する業態の企業
  • CDMO(医薬品受託開発製造機関):医薬品の製造だけでなく、開発(Development)も受託する業態の企業

製造を請け負うCMOはいわゆる「下請け」に近い業態です。一方、研究や開発業務を請け負うCROやCDMOは、難易度が高いぶん付加価値の高いビジネスモデルを構築しやすい傾向があるようです。

特に、富士フイルムなどの材料メーカーがCDMOやCMO、CROの分野で成長しており、新規参入する企業も急増しています。ビジネスデータプラットフォームのStatistaのデータによると、2020年に1155億ドルだったCDMO市場は、2030年には約2倍の2235億ドルに成長することが予想されています。

以上の背景を踏まえ、関連する出展企業を紹介します。

①医薬品の製造・開発受託関連(国内) ~国内トップの富士フイルム、AGC、神戸天然物化学

富士フイルム富山化学(株) ブース:4X-03

バイオCMO関連企業の製造能力(経済産業省資料の図に追記して作成。データ出典はみずほ証券株式会社「異業種大手が目指すバイオ Part1」 )

バイオCMO関連企業の製造能力(経済産業省資料の図に追記して作成。データ出典はみずほ証券株式会社「異業種大手が目指すバイオ Part1」 )

経済産業省の資料によると、富士フイルムはCMOの分野で国内ではダントツトップの製造能力をもっています(上図参照)。2023年8月の日経新聞の記事によると、同社は2019年時点でタンク容量ベースで15万リットル程度の製造能力を、2026年には66万リットルまで引き上げる目標を立てています。

CDMO関連のサービス内容も多岐にわたっており、今回の展示会の富士フイルム富山化学のブースでは、以下のサービスが紹介されるようです。

  • バイオ医薬品受託開発製造サービス
  • リポソーム製剤開発製造サービス
  • 脂質ナノ粒子(LNP)製剤開発製造サービス
  • mRNA受託製造サービス

富士フイルムはCDMO関連の特許出願も進めており、例えば JP6831903B2 では、創薬シーズとなるペプチドの製造方法や組成が記載されています。

※富士フイルムの事業転換の戦略については以下の記事で詳しく解説しています。

【図解】富士フイルム事業転換の本質とは? ~写真技術の新用途を開拓した技術マーケティング戦略の成功事例

AGC(株) ブース:4V-17

一方、材料メーカーのAGC(旧 旭硝子)もCDMOの事業に力を入れています。関連する同社の最新動向として、例えば以下が知られています。

  • 2020年3月のリリースで、遺伝子・細胞治療を事業領域とするイタリアのMolecular Medicine(Molmed社)の買収を発表
  • 2021年7月にスイス製薬大手のノバルティスから、米国にある遺伝子治療薬工場の買収を発表(日経新聞の記事参照)
  • 2023年12月のリリースで、AGC横浜テクニカルセンターで、国内バイオ医薬品CDMOの開発・製造能力拡大に約500億円を投資する計画を発表。2026年からmRNA医薬品、動物細胞を用いたバイオ医薬品、遺伝子・細胞治療薬向けサービスを開始予定

買収や投資によりCDMO事業を急速に拡大していることが分かります。展示会では、医薬品の原薬や、中間体の受託製造について紹介されるようです。

AGCにおけるバイオ医薬品の研究開発の歴史は長く、例えば開発者の熊谷博道氏の特許出願を見ると1990年頃からがん転移阻害剤などを開発しています。長年の開発を踏まえて大きく成長する時期に入っているようなので、応援したいですね。

神戸天然物化学(株) ブース:5P-14

神戸天然物化学は医薬・情報電子など幅広い分野で研究・製造支援サービスを手がける企業です。医薬・バイオ分野ではペプチド・核酸医薬などの製造受託や開発支援を行っています。

2024年3月期3Qの決算補足説明資料によると、医薬・バイオ分野の業績は好調で、売上高も前年同期比で20%以上伸びています。今回の展示会では、受託サービスや創薬支援・プロセス開発の取り組みが紹介されるようです。

神戸天然物化学はバイオ医薬に関する特許出願も行っています。例えば WO2020262184A1 「ミオスタチン遺伝子のmRNAの産生を抑制する核酸医薬」では、筋萎縮の治療に用いる核酸医薬について記載されています。

②医薬品の製造・開発受託関連(海外) ~欧州・インド・中国の注目企業

続いて、CDMO関連で大きく成長している海外メーカーを紹介します。

LONZA(ロンザ) ブース:5N-08

スイスのロンザは世界を代表するCDMOの企業で、バイオ医薬品、低分子化合物、細胞治療や遺伝子治療など幅広い分野の技術を保有しています。2024年3月のリリースで、ロシュから生物製剤の製造施設を12億ドルで買収することを発表しており、製造能力をさらに拡大しています。

展示会におけるロンザのウェビナーでは、「アモルファス固体分散体(ASD)」と呼ばれる、経口投与される薬物の吸収性を改善する技術が紹介されるようです。同社は関連特許も出願しており、例えば WO2022258684A1 では、ASDを調整する技術が記載されています。

ロンザは2020年11月のリリースで、富士フイルムホールディングの子会社であるFUJIFILM Cellular Dynamicsと技術の利用拡大に関する合意として以下の内容を発表しています。

  • FUJIFILM Cellular Dynamicsはロンザに対し、iPS細胞の作製に関する特許をライセンス
  • ロンザはFUJIFILM Cellular Dynamicsに対し、細胞、幹細胞、細胞株の効率的な遺伝子導入に関する技術のライセンスの使用を拡大(※)

この契約により、富士フイルムのバイオ事業の拡大も加速することが期待できるので、今後が楽しみです。

※ライセンスはいずれも非独占なので、他社にも技術ライセンスすることが可能。関連する動きとして、FUJIFILM Cellular Dynamicsは2023年1月のリリースで治療用iPS細胞を利用できる権利をヘルスケア企業のNovo Nordisk(ノボ ノルディスク)社に供与している

Recipharm ブース:5M-25

スウェーデンの非上場企業であるRecipharm社は、CDMO企業としては世界トップ5に入る大手企業です。同社は以下のように複数の買収を行い、CDMO事業を強化しています。

  • 2022年2月1日のリリースで、ウイルスベクターやRNA、微生物などの製造技術を持つポルトガルのCDMO企業であるGenlbetの買収を発表
  • 2022年4月のリリースで、米国のCDMO企業であるArranta BioとVibalogicsの買収完了を発表。Arranta Bioはマイクロバイオーム関連、Vibalogicsはウイルス関連の技術を保有

Recipharm社は買収した3社の専門知識をReciBioPhamというCDMOビジネスのユニットに統合しており、今回の展示会でも関連する内容が紹介されるようです。

Piramal Pharma Solutions(ピラマル・ファーマ・ソリューションズ) ブース:5P-21

ピラマル・ファーマ・ソリューションズは、インドのコングロマリットであるPiramal Groupに所属するCDMO事業です。医薬品の開発から製造まで包括的にサービスを提供するとともに、抗体医薬やペプチドの開発・製造サービスも提供しています。展示会でも関連サービスが紹介されるようです。

同社は薬剤やその中間体の製造に関する技術の特許も出願しています。例えばUS10144703B2では、狭心症の治療などに利用される「ベラパミル塩酸」と呼ばれる物質を効率よく製造する方法が記載されています。

WuXi AppTec ブース:5R-13

中国の上海に本拠地を置くWuxi AppTecは、医薬品の研究開発と製造を幅広く手がける企業です。2024年3月のPR Newswireの記事によると、2023年の売上高は400億人民元(※1)を超えており、医薬品の研究開発・製造の受託サービスが収益の成長をけん引しています。展示会では、同社の幅広いプラットフォームが紹介されるようです。

Wuxi AppTecは海外企業との協業も積極的に進めています。例えば2020年2月のCTechの記事によると、同社は製薬企業のメルクと提携し、イスラエルで製薬・バイオテクノロジー関連のスタートアップインキュベータを立ち上げています。

また、海外企業と共同で特許出願も進めています。例えば、がん治療などに使われる化合物に関する出願のUS20220048888A1は、米国のバイオ企業であるGenentech(※2)と共同で出願されています。

※1:2024/03/27のレートで約8200億円
※2:Genentechは2009年にスイスの製薬・ヘルスケア企業であるロシュの完全子会社化になっている

③食品メーカーの医療事業関連 ~既存技術の新用途開拓

食品会社として知られる企業の一部は、医療分野で新規事業の創出に成功しています。今回の展示会に出展している企業を2つ紹介します。

味の素(株) ブース:4V-08

食品会社として知られる味の素は、1981年から医薬品事業にも進出しています(同社の有価証券報告書参照)。2018年に味の素アルテア社とオムニケム社が統合し、CDMO企業のの「味の素バイオファーマサービス」が設立されています(同社のHP参照)。

味の素は、組み換えたんぱく質・核酸・原薬などの受託製造サービス、iPS細胞用の培地・サプリメントなど幅広い製品を手がけており、展示会でも関連サービスが紹介されるようです。

味の素は食品分野でアミノ酸やペプチドに関するノウハウを蓄積しており、医薬品の分野でもペプチド関連で強い技術を持っています。例えば2020年に出願されたWO2020262590A1「環状ペプチドの製造方法」では、血中でも安定性の高い環状ペプチドを高純度で製造する方法が記載されています。

ヤマサ醤油(株) ブース:6D-19

食品会社のヤマサ醬油も、医薬品に関する研究開発の長い歴史を持っています。同社HPによると、1970年に医薬品製造業の許可を取得し、翌年には医薬品原薬の製造も開始しています。現在は低分子医薬品の原薬や核酸関連物質などの製造・供給に加え、mRNA関連のサービスも提供しており、展示会でも関連サービスが紹介されるようです。

2021年10月の読売新聞の記事によると、ヤマサ醤油はコロナワクチンなどに使われるmRNAの原料である「シューウリジン」という物質の製造技術も保有しています。関連特許として、JPWO2006137447A1「シュードウリジン保護体の安定結晶」などが出願されています。

醤油の製造工程では酵母や乳酸菌などの微生物が利用されるため、ヤマサは微生物を使ったバイオ技術を長年蓄積しています。同社のHPによると、核酸関連物質の製造でも酵母から抽出したRNAが活用されているようです。

いずれの企業も、食品分野で培った技術をうまく生かして医療事業の成功につなげていることがわかります。このように、既存の強みである技術の用途を開拓し、新たな顧客を開拓する戦略は「技術マーケティング」と呼ばれます。

まとめ

以上、CPhI Japanの出展企業について、医薬品の製造・開発受託に関する国内外の注目企業と、食品分野から医療事業への参入で活躍する企業の動向を紹介しました。特にCDMOの市場は買収や投資が活発に行われており、今後も多くの企業が新規参入することが予想されます。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。その経験を会社の仕事にも活かし、「起業家向け発明塾」では起業に向けた発明の創出と実用化・事業化を支援している。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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