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富士フイルムの事業転換を成功に導いた技術マーケティング戦略

【図解】富士フイルム事業転換の本質とは? ~写真技術の新用途を開拓した技術マーケティング戦略の成功事例

富士フイルムは、カメラや材料、ヘルスケアなど幅広い事業を手掛けるメーカーです。一時代を築いたフィルム事業の衰退を乗り越え、事業転換を実現したことで知られています。

この記事では、富士フイルムの事業転換が成功した理由を「技術マーケティング」という観点から分析します。技術マーケティングとは、既存技術を市場に適合させ、新たな用途や需要を創出する戦略です。

まず、富士フイルムの事業転換の経緯と具体的な内容を説明します。次に、写真技術の新用途を開拓する技術マーケティングの事例を紹介します。

市場衰退の危機を乗り越えるヒントを探りたい方は、ぜひご一読ください。

<参考:富士フイルムホールディングス基本情報>
証券コード:4901
設立年:1934年
ウェブサイト:https://www.fujifilm.com/jp/ja/

富士フイルムの事業転換の経緯 ~フィルム市場衰退の危機をどう乗り越えたか?

写真フィルム市場の衰退によるフィルムメーカーの危機

カラーフィルムの需要激減(富士フイルムの2018年のイメージング ソリューション事業説明会資料より)

カラーフィルムの需要激減(富士フイルムの2018年のイメージング ソリューション事業説明会資料より)


まず、富士フイルムの事業転換の背景にあった市場の変化を説明します。

かつて富士フイルムは、「フジカラー」などのカメラフィルムや、使い捨てカメラの「写ルンです」などの商品で知られるメーカーでした。しかし、デジタルカメラの普及に従い、それらの商品の売上は急落します。例えばカラーフィルムの需要は2000年をピークとして減少し、2005年以降には1年で20〜30%の下落を記録しています(上図参照)。

デジタル化による市場の変化はフィルムメーカーに大きな打撃を与えました。例えば米国のコダックはかつてフィルム市場のトップメーカーでしたが、2012年に上場廃止し、米連邦破産法の適用を申請しています(2012年1月の日経新聞参照)。

富士フイルムも大きな打撃を受け、2006年に約5000人の人員削減を発表しています(ビジネス+ITの記事参照)。カラーフィルムの市場成長がピークに達してからわずか5年程度で、既存事業にこだわっていては生き残れない状況に追い込まれたことがわかります。

新規事業を立ち上げて事業転換に成功した富士フイルム

富士フイルムホールディングスの2003~2023年の事業転換の概要(同社のAnnual Reportのデータを元に作成)

富士フイルムホールディングスの2003~2023年の事業転換の概要(同社のAnnual Reportのデータを元に作成)


それでは、富士フイルムがどのように既存事業を転換したのか、具体的な内容を解説します。

上のグラフは、2003~2023年の20年間で富士フイルムの事業カテゴリーと収益がどのように変化したかを示しています。カメラ関連の事業カテゴリーである「イメージング」の比率が下がっており、新たな事業カテゴリーの「ヘルスケア」が収益の柱に成長していることが分かります。

事業カテゴリーの変化について、以下に概要を整理します。

  • カメラ関連の技術を中心とする「イメージング」事業は、フィルムなどの事業を縮小。現在はデジタルカメラや業務用プロジェクターなどの商品にフォーカスしている
  • 富士ゼロックス(※)の複合機などを中心とする「ドキュメント」事業をベースに「ビジネスイノベーション」事業が発足。複合機の他に、クラウドサービスなどの商品が含まれる
  • 「インフォメーション」事業には、ディスプレイ材料や医療用診断システムが含まれていたが、事業の成長にともない医療・化粧品分野に取り組む「ヘルスケア」とディスプレイ材料などの開発に取り組む「マテリアルズ」事業が独立
  • ヘルスケア事業では、医療機器のほかに、医薬品や化粧品、細胞培養などにも取り組む。マテリアルズ事業では、ディスプレイ材料の他に、半導体材料やデジタル印刷機などの製品も開発されている

医療や半導体など、新たな市場を開拓したことで事業の成長に成功し、既存事業衰退の危機を乗り越えたことがわかります。富士フイルムはもともと材料・機器のメーカーですが、ヘルスケア事業では「医薬品」「細胞培養」など全く違う分野にも進出し、大きな成功をおさめているようです。

次項では、富士フイルムが「一見、既存事業とは関係のない分野の新規事業」で成功できた理由を掘り下げます。

※富士フイルムは2001年に富士ゼロックスを完全子会社化

富士フイルムが大胆な事業転換に成功できる理由とは? ~既存技術の価値を最大化する技術マーケティング戦略を読み解く

ヘルスケア事業成功のベースになった写真技術の用途開発

富士フイルムによる写真技術の新用途開発の例(Drug Delivery System 26-3, 2011の図に追記して作成)

富士フイルムによる写真技術の新用途開発の例(Drug Delivery System 26-3, 2011の図に追記して作成)


富士フイルムが医薬品や細胞培養などの分野に進出できたベースには、実は同社の写真技術があります。2015年頃に富士フイルムの再生医療研究所長を務めた吉岡康弘氏は、
2011年の論文で自社の写真技術をどのように医療・ヘルスケアの分野に活用したかを紹介しています(上図参照)。

写真技術の医療・ヘルスケア分野への活用について、要点を整理します。

  • 写真フィルムの原料となるコラーゲン材料の技術を、細胞培養などの分野に活用。例えば細胞培養の培地や、薬物をターゲットに運ぶドラッグデリバリーシステム(DDS)のカプセル材料に使われている
  • フィルムの現像に使う粒子の均一拡散などのナノテクノロジー技術を、医薬品や化粧品に応用。例えば化粧品のアスタリフトでは、肌に美容液の成分を均一に浸透させるために拡散技術が使われている
  • 写真の色あせの原因となる活性酸素をコントロールする技術を、ヘルスケア分野に応用。例えば、抗酸化作用をもつアスタキサンチンを使った機能性表示食品や化粧品が開発されている\

このように整理すると、写真技術はヘルスケア分野と非常に相性が良いことがわかります。富士フイルムの事例のように、既存の強みである技術の用途を開拓し、新たな顧客を開拓するマーケティングは「技術マーケティング」と呼ばれます。富士フイルムの事業転換は、市場の変化に対応した技術マーケティング戦略の事例とも言えます。

「挑戦する技術者」が新用途を開拓する技術マーケティングを成功させる

ただし、技術マーケティングを実際に進めるのは簡単ではなく、既存の専門分野を飛び出す技術者の挑戦が必要になります。

先ほど紹介した再生医療研究所長(当時)の吉岡氏の特許出願の履歴を追うと、1980年代~2000年代前半にかけては写真のフィルムや感光材料の出願が中心ですが、2016年ごろから細胞培養に関する特許を出願しています。写真技術の開発に長年取り組んだ後、その経験を生かして医療分野の開発に挑戦したことが分かります。

この事例から、既存技術の用途開発は「技術者の努力の結晶を無駄にせず、新たな価値を創出する取り組み」とも言えます。人々を健康にする商品が、過去の蓄積を生かして短期間で生み出せるのであれば、社会貢献にもなります。

単なる「生き残りの戦略」ではなく、「世の中に提供する価値の最大化」にもつながるので、応援したい取り組みと言えます。

富士フイルムに学び、技術マーケティングで事業転換に挑戦しませんか?

以上、富士フイルムの事業転換について、背景にある市場の変化と、20年間でどのように事業構造が変化したかを説明しました。後半で解説したように、既存の写真技術の価値を最大化する技術マーケティング戦略が富士フイルムの事業転換成功の本質であり、それを支えているのが挑戦する技術者です。

顧客価値を明確にする技術マーケティングの考え方(「企業内発明塾」参加者向け資料より)

顧客価値を明確にする技術マーケティングの考え方(「企業内発明塾」参加者向け資料より)


最後に、TechnoProducerのサービスを少し紹介させて頂きます。富士フイルムのように「技術マーケティングによる事業転換」を実践したい方に向けて、弊社では「
企業内発明塾」というサービスを提供しています。

サービスの特徴は、自社の技術の新用途について、「市場セグメント」といった抽象的なレベルでは終わらないことです。「この企業のこの人」というレベルまで具体化してターゲティングし、説得力のある新規事業の企画書を提案できます。

本記事でも後半の事例で、特許情報を元に発明者の吉岡氏の分析を行いましたが、「特許情報の活用」により「解像度の高い技術マーケティング」を実践できるのが企業内発明塾の強みです。サービスの参加者には、ナノテクノロジー分野で事業転換に成功した実績のある、弊社代表の楠浦が直接支援させて頂きます。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
IT / 半導体 / 脱炭素 / スマートホーム / メタバース / モビリティ / 医療 / ヘルスケア / フードテック / 航空宇宙 / スマートコンストラクション / 両利きの経営 / 知財戦略 / 知識創造理論 / アライアンス戦略

 

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