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技術の強みを生かして電動化を進めるデンソーの成長戦略

【図解】デンソーの強みを生かした電動化戦略 ~トヨタ車で培った技術の新用途を開拓するマーケティング戦略を解説

株式会社デンソーは、日本を代表する自動車部品メーカーで、以前はトヨタのガソリン車部品を主力としていました。しかし、最近では電気自動車のようなモビリティの電動化へのシフトに力を入れています。

この記事では、デンソーの電動化戦略を「技術マーケティング」という観点から分析します。技術マーケティングとは、既存技術を市場に適合させ、新たな用途や需要を創出する戦略です。まず、電動化を軸に事業転換を進めるデンソーの戦略を説明します。次にモーターと半導体の新用途を探る技術マーケティングの実践例を紹介します。

「クルマの電動化」を危機ではなくチャンスとして捉え、事業を成長させるヒントを得たい方はぜひご一読ください。

<参考:株式会社デンソー基本情報>
証券コード:6902
設立年:1949年
ウェブサイト:https://www.denso.com/jp/ja/

自動車の電動化を軸とするデンソーの成長戦略と技術戦略 ~IR資料を元に解説

電動化と利益率の改善を両立する成長戦略

電動化への転換と利益率増加を両立するデンソーの戦略(同社の投資家向けプレゼン資料の図に追記して作成)

電動化への転換と利益率増加を両立するデンソーの戦略(同社の投資家向けプレゼン資料の図に追記して作成)


デンソーは
2022年12月の投資家向けプレゼン資料で、自社が目指す企業価値向上の戦略を発表しています。上図に示したように、電動化に関連した事業の収益増加が戦略の軸になっています。以下に戦略のポイントを整理します。

  • 電動モーターや電源回路を開発する「エレクトリフィケーション」や、半導体、センサ―など開発する「先進デバイス」を中心に、電動化においてニーズが拡大する事業の売上を倍増
  • 一方、エンジンのスタータや排気センサなどガソリン車向けのパーツを開発する「パワトレインシステム(※)」の事業は縮小
  • 農業・物流・FA(工場自動化)など、モビリティ以外の新領域にも進出し、価値を創出

創業期から取り組んできたガソリン車に関する事業を「収益性の低い事業」として一気に縮小し、電動化に関する事業にフォーカスする勇気ある決断と言えます。関連する動きとして、2022年1月のリリースによると、デンソーは燃料供給に関するモジュール(※)の事業を、部品メーカーの愛三工業に譲渡しています。また、2023年12月の日経新聞によると、デンソーはトヨタ系列の日野自動車・トヨタ合成・愛知製鋼の保有株式を全て売却しています。

※パワトレインシステム:ガソリン車やディーゼルエンジン車で使われる燃料噴射・点火システムや、排気システムなどを手掛けるデンソーの事業カテゴリー名。エンジンの回転エネルギーを車輪に伝える機構を示すパワートレインとは別

※フューエルポンプモジュールと呼ばれる部品で、燃料タンクからエンジンへ燃料供給するために必要な部品を機能として一体化した製品

ガソリン車で蓄積した技術を電動化に活用する技術戦略

既存技術を生かすデンソーの開発戦略(デンソーの統合報告書2023の図を利用して作成)

既存技術を生かすデンソーの開発戦略(デンソーの統合報告書2023の図を利用して作成)


電動化を急速に進める上で、
必要な技術をゼロから開発していては、とても間に合いません。デンソーはガソリン車で蓄積した技術をうまく活用して電動化へのシフトを進めています。

上図は、前出の「パワトレインシステム」と「先進デバイス」、「エレクトリフィケーション」、の事業カテゴリーに含まれる製品の例を示したものです。パワトレインシステムの製品はガソリン車向けですが、エンジンの始動に使うスタータや、発電機のオルタネータ(※)など、モーターを含む部品が含まれています。

2018年のデンソーの論文「自動車用モータの技術動向」によると、同社のモーター開発はスタータやオルタネータから始まっています。そこで蓄積された技術力を生かしてハイブリッド自動車や電気自動車のモーターが開発されてきたようです。

モーターはあくまで一例ですが、デンソーは磨いてきた技術をうまく活用し、新しい時代に合わせた技術を開発してきた企業であることがわかります。次項では、デンソーの「既存の強み・技術の新用途開拓」について、より具体的な事例を紹介します。

※オルタネータ:エンジンの動力を利用して発電し、バッテリーを充電する部品。モーターとは逆に「回転力を電力に変換する役割」をもつが、使われる機構はモーターと同様であるため、モーター技術として紹介

強みの価値を最大化するデンソーの「技術マーケティング」 ~モーター・半導体の事例を解説

モーターの新用途を開拓する「電動航空機」への挑戦

電気自動車(EV)の技術を活用した電動航空機向けのモーター開発(デンソーHPの図に追記して作成)

電気自動車(EV)の技術を活用した電動航空機向けのモーター開発(デンソーHPの図に追記して作成)


先述の通り、デンソーはモーター開発に関する長年の蓄積があり、近年はクルマ以外に「空」の分野でも用途開発を進めています。

2022年5月のリリースによると、デンソーは「電動航空機」向けのモーターを、米国大手メーカーのハネウェルと共同で新規開発しています。開発したモーターは上図のように、航空機に合わせて最適化された構造をもっています。以下に設計のポイントを整理します。

  • 飛行する航空機では「軽量化」が重要になるため、重量のある「液体冷却」ではなく「空気冷却」を採用
  • コイルなど発熱する部分を外側に配置することで、外気による空気冷却を促進
  • 材料も、チタンなど高強度で軽量の材料を採用。また、モーターを薄型にすることで体積を落とし、さらなる軽量化を達成

軽量化に向けて構造は大胆に変更されており、新規性の高い設計です。ただ、モーターに使われる「コイル」「磁石」などの部品や、設計の考え方は共通しているので、電気自動車のノウハウを活用できます。電動航空機は2025年ごろに急速に実用化が進むことが予想されており、デンソーは将来拡大するニーズを先読みして、既存技術の新用途を開拓したと言えます。

デンソーはモーターだけでなく、航空機の「制御システム」も開発しています。デンソーの開発者の動向を特許情報から分析したところ、技術者の竹村氏は、2012年頃は内燃機関の制御システムを開発していますが、2019年頃から電動航空機の制御システムの開発を開始していました(※)。

※例として、それぞれ、WO2016031135A1WO2021039469A1 など参照

ガソリン車の分野で成果を出した技術者が、新たな技術の開発でも活躍していることが分かります。企業の強みはやはり挑戦を続ける「人」である、と言えます。

※電動航空機開発の最新動向は以下の記事で解説しています。

【図解】電動航空機の最前線 ~電動化の課題とデンソーなどメーカーの最新動向

ガソリン車で育てた半導体技術を電動化の基盤技術に育てる戦略

デンソーの半導体技術の新用途開拓の例(デンソーの論文の図を利用して作成)

デンソーの半導体技術の新用途開拓の例(デンソーの論文の図を利用して作成)


一方、デンソーは自動車部品メーカーとしては珍しく、「半導体」の開発にも早くから取り組んでいます。
デンソーの半導体開発に関する2021年の論文によると、同社は1968年に半導体の研究室を立ち上げ、先述のスタータや社内空調などの制御に自社の半導体を活用しています。

ガソリン車向けの半導体開発で蓄積された技術をベースに、デンソーは電動モビリティ向けの半導体を数多く開発しています。例えば上図のように、薄型の「パワーカード」と呼ばれる半導体チップを開発しています。パワーカードは両面から放熱できるのが特徴で、電気自動車のモーター制御のように、電圧が高く熱の発生も大きい用途にも耐えることが可能です。

2022年のデンソーの半導体戦略説明会の資料で、デンソーは自社製の半導体の売上額を、2025年までに現状の4200億円から5000億円に増加させる計画を発表しています。電動化において基盤となる半導体の技術を強化し、自社の強みの価値を最大化する戦略を取っていることがわかります。

半導体分野においても、デンソーがガソリン車の開発で蓄積した技術の新用途を開拓し、新たな事業をつくっていることが分かります。このように、既存の強みである技術の用途を開拓し、新たな顧客を開拓するマーケティングは「技術マーケティング」と呼ばれます。デンソーの成長戦略は、電動化の時代における技術マーケティング戦略の事例とも言えます。

デンソーに学び、技術マーケティングで新規事業を開拓しませんか?

以上、デンソーの成長戦略について、電動化に関連した事業を成長させる戦略の概要と、ガソリン車で蓄積した技術を電気自動車に活用する開発戦略の観点で解説しました。今後は自動車だけでなく、航空機を含む様々なモビリティの電動化をリードする企業として活躍しそうです。既存事業に安住せずに成長を続ける企業の取り組みとして、陰ながら応援しております。

顧客価値を明確にする技術マーケティングの考え方(「企業内発明塾」参加者向け資料より)

顧客価値を明確にする技術マーケティングの考え方(「企業内発明塾」参加者向け資料より)


最後に、TechnoProducerのサービスを少し紹介させて頂きます。デンソーのように「技術マーケティングによる事業創出」を実践したい方に向けて、弊社では「
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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
IT / 半導体 / 脱炭素 / スマートホーム / メタバース / モビリティ / 医療 / ヘルスケア / フードテック / 航空宇宙 / スマートコンストラクション / 両利きの経営 / 知財戦略 / 知識創造理論 / アライアンス戦略

 

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