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レチクルとは?レーザーテックが検査するEUVフォトマスクを徹底分析

【図解】EUVフォトマスク(レチクル)とは? ~マスクブランクス・検査装置を開発するAGC, HOYA, レーザーテックの動向と合わせて解説

2023.12.5

オランダのASMLが実用化したEUV露光装置は、従来の露光装置とは大きく異なる機構を採用しており、光学系のコア部品であるフォトマスクはその代表例です。EUVのフォトマスクはレチクルと呼ばれ、反射型の光学系に対応した新しい構造をもっています。

本記事では、EUVのフォトマスク(レチクル)の役割と構造の詳細をご紹介した後、レチクルの材料や検査装置を開発する日本企業としてAGC、HOYA、 レーザーテックの最新動向を紹介します。今後さらに成長するEUV露光装置の市場で活躍したい方はぜひご一読ください。

※EUV露光装置の市場を独占するASMLについては以下の記事で解説しています。

ASMLとは? ~EUV露光装置でニコンを圧倒した企業の経営戦略と技術戦略

EUVフォトマスク(レチクル)の概要

レチクルの役割と従来のフォトマスクとの違い

ArF液浸露光とEUV露光の構造の違い

ArF液浸露光とEUV露光の構造の違い


まず、EUV露光装置におけるフォトマスク(レチクル)の役割を説明します。

露光装置のフォトマスクには半導体の「回路パターン」が描かれており、それをウェハーに転写することで、回路パターンをウェハー上に形成することができます。つまり、半導体の微細な回路をつくる「鋳型」のような役割をもちます。

上図のように、従来のArF液浸露光装置では、フォトマスクを「透過」した光がウェハーに照射され、パターンを形成していました。一方、EUV露光装置では、光をレチクルが「反射」してウェハー上にパターンを形成します。

このため、レチクルはEUVを反射してパターンを形成するのに適した構造をつくる必要があり、従来の透過型のマスクとは材質や形状が異なります。レチクルのベースになる基板は「マスクブランクス」と呼ばれ、日本の材料メーカーが開発を積極的に進めています。マスクブランクスのメーカーについては後半で紹介します。

レチクルの構造

レチクルの構造の概要(Choiら, 2023 の図に追記して作成)

レチクルの構造の概要(Choiら, 2023 の図に追記して作成)


続いて、レチクルの構造を詳しく説明します。

上図のように、レチクルはEUV光を反射するための微細な凹凸が刻まれた構造をもっています。以下にレチクルの構造の要点を整理します。

  • レチクルの表面には回路パターンとなる凹凸が形成されている
  • 多くの場合、凸になる部分は光を吸収し、凹の部分に反射した光がウェハーに投影される
  • レチクルの表面はペリクルと呼ばれる保護膜で覆われ、レチクルの凹凸の汚れや欠損を防止する

レチクルの凹凸は、マスクブランクスの表面を電子ビームで処理することで形成されます。この凹凸の細かさが半導体チップの回路パターンの複雑さを決めるので、レチクルは半導体微細化においてコアになるパーツと言えます。

ペリクルについては、日本企業では三井化学がメーカーとして知られています。同社は2019年5月のリリースで、ASMLとEUVペリクル事業のライセンス契約締結を発表しており、ペリクル開発で世界をリードしています。

EUV露光装置はASMLが独占しましたが、EUVの材料や検査の分野では日本企業も世界トップクラスの業績を上げています。次項では、レチクルのベースになるマスクブランクスや、レチクルの検査装置を開発する日本企業の動向を紹介します。

※レチクルの凹凸を描画するのに使われるマルチビーム描画装置については、以下の記事で解説しています。

マルチビーム描画装置とは? 日本電子と提携したIMS、東芝傘下のニューフレアなどメーカーの最新動向を解説

EUVマスクブランクス・検査装置の開発を進めるAGC, HOYA, レーザーテックの動向

EUVマスクブランクスを開発するAGCとHOYA

レチクルのベースとなる材料のマスクブランクスを開発する日本企業として、AGC(旧・旭硝子)とHOYAが知られています。EUV露光装置の普及に従って両社ともに開発を強化しており、例えば以下の動きが報じられています。

  • 2023年5月のEE Timesの記事によると、AGCはEUVマスクブランクスの生産能力を約30%増強。福島県の本宮工場で製造ライン増強が進められている
  • 2020年3月の日経新聞記事によると、HOYAのシンガポールの工場は2020年4月にマスクブランク製造ラインを増強している

AGCは2023年11月の決算資料でも、電子セグメントの増益の理由として「EUV露光用フォトマスクブランクス等の半導体関連製品の出荷が堅調に推移」したことを明記しています。特許出願を見ると、AGCは2022年以降にもマスクブランクス関連の新しい発明を出願しており、開発も加速していることが伺えます。

マスクブランクスの開発で課題となるのが熱膨張などによる「歪み」や「ズレ」の発生です。半導体チップの回路は1ナノメートル単位のズレが不具合につながるので、ナノレベルの安定性が求められます。AGCやHOYAはこのハードルを超えることができた数少ないメーカーで、今後も半導体分野で活躍することが予想されます。

※AGCは「両利きの経営」を実践する企業としても有名です。以下の記事で解説しています。

両利きの経営とは? ~基本的な考え方とIBM・AGC・セールスフォースの成功事例を解説

EUVフォトマスクの検査装置で世界トップシェアのレーザーテック

レーザーテックは1960年に設立されたメーカーで、フォトマスクの検査装置を1970年代から手掛けています。2017年に世界で初めてEUV光を用いた「EUVマスクブランクス欠陥検査装置」を開発し、2019年にはレチクルの欠陥検査装置も開発しています(2022年9月発行の有価証券報告書を参照)。

レーザーテックはレチクルの欠陥検査装置の市場を独占したことで急速に売上を伸ばしており、2023年6月期の決算説明会資料を見ると、直近の2年間で売上高が2倍以上に伸びています。関連特許も多数出願しており、例えば JP7296296B2「検査装置及び検査方法」 には、先述したペリクルがついた状態のレチクルを検査する方法が記載されています。

2023年10月のニュースイッチの記事によると、レーザーテックは検査用のEUVプラズマ光源の自社開発も進めており、今後さらに検査の質が上がりそうです。同社はEUV露光装置の普及というチャンスを活かして急成長した日本企業であり、今後の活躍も楽しみです。

EUVフォトマスクの高度化による半導体チップの微細化

以上、EUV露光装置に使われるレチクルの役割と構造、材料開発をリードするAGC・HOYAと、検査工程をリードするレーザーテックの動向を紹介しました。半導体微細化のコアになる分野であり、日本企業のさらなる活躍を応援したいと思います。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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