両利きの経営とは?基本的な考え方とIBM・AGCの成功事例

両利きの経営とは? ~基本的な考え方とIBM・AGCの成功事例を解説

2021.6.30

新興企業による破壊的なイノベーションが加速する現代において、多くの成熟企業が「既存事業を守りながら、いかに次の成長領域を見つけ出すか?」という課題に直面しています。

「両利きの経営」は、企業が上記の課題を解決し、長期的に生き残る能力を獲得するための概念として提唱され、大きな注目を集めています。本記事では、両利きの経営の基本的な考え方と、両利きの経営を成功させた企業の事例を紹介します。

(基本的な考え方については弊社代表・楠浦のNote ”「両利きの経営」を5分で理解する” でも解説しているので、そちらもぜひご参照下さい)

 

両利きの組織は「知の探索」と「知の深化」を両立する

「両利きの経営」という概念はスタンフォード大学のチャールズ・オライリー教授らによって継続的に研究され、その研究成果は、オライリー教授とマイケル・タッシュマン教授の著書『両利きの経営』で詳しく解説されています。

以下に、概念が提唱された背景と、両利きの経営を実践する組織(両利きの組織)の特徴を紹介します。

成功企業はサクセストラップにハマる

両利きの経営が重視される背景に、「ある事業で成功した企業が、その事業の改善に特化した組織をつくった結果、市場の急速な変化に対応できなくなる」という一般的な現象があります。この現象は「サクセストラップ」と呼ばれ、『イノベーションのジレンマ』など多くの文献で指摘されています。ただ、既存事業の改善に取り組めば確実な収益と評価が得られるので、そこに集中したいという欲求から逃れるのは極めて困難です。

また、『両利きの経営』では、サクセストラップにハマった企業の具体例として、衰退市場となったカメラ・フィルム事業から転換できなかったコダックが紹介されています。その対比として、化粧品や液晶パネルなど新規事業に挑戦して成長した富士フィルムが紹介されており、「新規事業を開拓し、成功させること」が長期的に生き残る企業には必須であることが示されています。

「知の深化」を「知の探索」に活かすリーダーシップ

以上の背景を踏まえると、長期的に成長する組織には、「既存事業の改善を堅実に進める活動」と、「未来の成功を見据えて新規事業を探索する活動」の両方が必要であると考えられます。前者は「知の深化」、後者は「知の探索」と呼ばれ、「両利きの組織」とは両者をバランスよく協調させながら成長する能力を備えた組織を指します。

しかし、深化に必要な組織力(確実性・緻密さ・均一性など)は、探索に必要な組織力(偶発的な発見の重視・挑戦心・多様性など)とは相反するもので、必ず対立が生じます。よって、両利きの組織をつくるリーダーには、既存事業と新規事業の担当者間に生じる対立を調整しつつ、既存事業で得られた資産を新規事業に活かせるよう支援することが求められます。

難易度の高い取り組みですが、成功すれば、既存事業のリソースを活かしながら、ゼロからスタートする新興企業よりも有利な立場で新規事業を開拓できます。以下に、両利きの経営に成功した企業の事例を紹介します。

 

IBMにおける「知の探索」の仕組み化と知財力の活用

バイオインフォマティクス関連CPC分類・G16BにおけるIBMの出願件数の推移

バイオインフォマティクス関連CPC分類・G16BにおけるIBMの出願件数の推移(Google Patentsの検索結果を元に自作)

EBOプロジェクトによるIBMの戦略的刷新

先述の『両利きの経営』では、代表的な成功事例としてIBMが紹介されており、同社は1999年から2008年にかけて戦略的な刷新を行ったとされています。刷新が行われる前のIBMは、商用ルーターの開発など有望な新規プロジェクトを複数持っていましたが、社内で新規事業が軽視されていたことなどが原因となり、市場機会を逃す状況が続いていました。

そのような状況を打開する施策として、IBMは2000年からEBO (Emerging Business Opportunity) プロジェクトと呼ばれる取り組みを開始しました。同プロジェクトにおいて、IBMは新規事業に確実に資金と人材が割り振られる仕組みや、マイルストーンを管理する仕組みなど、新規事業が成長するための体制を整えました。

例えば、2000年に開始されたライフサイエンス事業は、2006年までの間に50億ドル規模の事業に成長し、その過程でも複数の関連事業が立ち上げられており、「知の探索」の仕組みが定着したことを裏付けています。

知の探索を後押しするIBMの知財力

また、IBMのブログによると、同社は米国特許出願件数で28年以上に渡りトップの座を維持しており、発明を積極的に権利化・収益化する体制が整っています。1993年頃からこの体制を整えたのが、マイクロソフトの知財戦略に関する記事で紹介したマーシャル・フェルプス氏で、2000年にはIBMの総利益の約25%が知的財産ライセンスプログラムから提供されています(詳細はフェルプス氏の著書『マイクロソフトを変革した知財戦略』参照)。

つまり、先述した戦略的刷新の開始時期には、特許ポートフォリオの構築や収益化のノウハウと、得られた収益を次の発明に再投資する体制が構築されていたことになります。

試しに、IBMのライフサイエンス事業の注力分野の1つであるバイオインフォマティクス関連技術(CPC分類:G16B)の特許出願を確認したところ、Google Patentsの検索結果では240件程度の特許が出願されていました (2021/06/16現在)。出願件数の推移を見ると、1999年ごろから継続して出願が行われており、近年さらに出願件数が増加する傾向が見られました(上図参照)。このように、新規事業の特許ポートフォリオ構築に継続的な投資ができるのも知財力のある企業の強みであり、両利きの経営が成功する下地になっていると考えられます。

 

両利きの経営を実現するビジョンと仕組みづくりに成功したAGC

両利きの組織を目指すAGCの中期戦略ビジョン

AGC株式会社(旧・旭硝子、以下AGC)は日本を代表する成熟したグローバル企業の一つですが、両利きの経営を実践する組織として注目されており、同社のケース・スタディの内容が書籍『両利きの組織をつくる』で詳しく解説されています。

2015年に島村琢哉氏がCEOに就任した当時、AGCは成熟事業に依存した体制になっており、先述したサクセストラップにハマっていました。島村氏は、その状況を打破するビジョンの策定を40代の次世代経営幹部20名に委ね、幹部らの議論の結果、中期戦略ビジョン「2025年のありたい姿」が策定されました。その内容は以下のように要約されています。

コア事業が確固たる収益基盤となり、戦略事業が成長エンジンとして一層の収益拡大を牽引する、高収益のグローバルな優良素材メーカーでありたい。

「コア事業」にはガラスやディスプレイ事業など安定的な収益の見込める事業、「戦略事業」にはモビリティやライフサイエンスなど新たに取り組む事業が含まれ、それぞれ両利きの経営の「知の深化」・「知の探索」に対応しています。

新規事業のネタを育て、既存事業とつなぐ仕組みとリーダーシップ

一方、上記のビジョンを実現する具体的な取り組みとして、AGCではコア事業と戦略事業の組織を分割するとともに、研究開発で得られたネタを事業に育てる役割をもつ事業開拓部(BDD : Business Development Division)を設置しています。

AGCでは、新規事業のアイデアは、育成の段階で「面白そうか」「売れそうか」「勝てそうか」「儲かりそうか」といった独自の評価基準と照らし合わせながら育成・選抜されます。量産化の目途が立つ段階まで育った事業は卒業となり、既存事業のカンパニー内で事業化されます。前記の事業開拓部は育成~卒業までのプロセス全体を担っており、新規事業が立ち消えにならないよう支援を行います。

また、事業化された新規事業がカンパニー内で自立できないケースに対応し、本社コーポレート部門が一定期間はコストを負担するなど、卒業後のフォローアップの仕組みも構築されています。

以上のように、細かい配慮が仕組みに織り込まれていますが、既存事業と新規事業の対立は仕組みだけでは解消できず、リーダーにはそれらを解決する度量が求められます。『両利きの組織をつくる』の著者の加藤氏がAGCのメンバーにインタビューしたところ、いずれの事業サイドからも「まあ、島村さんたちが言うなら仕様がない」というコメントが多かったと書かれており、優れたリーダーシップが発揮されているようです。

 

両利きの経営の難所を乗り越え、成功する組織をつくる

ここまで、知の深化と探索を両立する両利きの経営の考え方と、新規事業重視の体制づくりや知財活用を通じて成功したIBMの事例, 両利きの経営に合致したビジョン策定と組織づくりに成功したAGCの事例について解説しました。

いずれの事例においても、新規事業創出を組織全体で支援することが重要であることが分かりますが、そのプロセスが容易ではないことも分かります。実際に両利きの組織づくりを目指す方は苦労されると思いますが、本記事が参考になれば幸いです。

新規事業を生み出す大変さ(と楽しさ)については、弊社でも新規事業創出を支援するサービスの「企業内発明塾」を通じて日々実感しております。本サービスでは参加者の皆様に新規事業の「企画書」を作成して頂きますが、AGCの事例で紹介した「売れそうか」「勝てそうか」「儲かりそうか」といった考え方は弊社の企画のフレームワークとも合致しています。

詳しいサービス内容は資料ダウンロードページにて無料で提供しているので、両利きの経営の難所である「知の探索」に真剣に取り組みたい方はぜひご参照ください。

 

★書籍出版のお知らせ

弊社初となる書籍『新規事業を量産する知財戦略』を出版しました!新規事業や知財戦略の考え方と、実際に特許になる発明がどう生まれるかを詳しく解説しています。

※KindleはPCやスマートフォンでも閲覧可能です。ツールをお持ちでない方は以下、ご参照ください。

Windows用
Mac用
iPhone, iPad用
Android用

資料ダウンロードへ遷移するバナー

最新記事

どのサービスがいいのか迷った方は、まずは無料説明会へどうぞ

弊社ではサービスの内容や、皆様のご質問にお答えする無料説明会や 無料セミナーを定期的に実施しております。
全てオンラインに対応しておりますので、お気軽にご参加ください。

無料説明会の日程を確認

5秒で登録完了!無料メール講座

ここでしか読めない発明塾のノウハウの一部や最新情報を、無料で週2〜3回配信しております。

・あの会社はどうして不況にも強いのか?
・今、注目すべき狙い目の技術情報
・アイデア・発明を、「スジの良い」企画に仕上げる方法
・急成長企業のビジネスモデルと知財戦略

無料購読へ
TechnoProducer株式会社
© TechnoProducer Corporation All right reserved