新規事業開拓に向けて自社技術の新用途を探索する方は多いですが、戦略無しに考えても、面白味の無いアイデアや、誰も使わないアイデアになりがちです。そこで本記事では、スジの良い技術の用途を探索する具体的な手法と、成功事例を解説します。
まず、ヒントになる情報を効率よく得るための調査手法と独自のアイデアの創出法を紹介し、最後にユーザーから具体的な課題を聞くためのヒアリング方法を解説します。
※日本企業の技術マーケティングのお手本とされる富士フイルムの成功事例は以下の記事で解説しています。
この記事の内容
用途開発に活用できる代表的な情報源として、ここでは特許と論文の調査方法を具体例を使って解説します。
特許調査により、各企業が開発する用途発明の内容を把握できます。技術の用途に紐づいた特許分類としてFターム(File Forming Term)が知られており、J-GLOBALなどのツールを使うとFターム検索ができます。
例えば、植物由来の材料として注目されているセルロースナノファイバーの用途を探索する場合、J-GLOBALで「セルロースナノファイバー」で検索し、Fタームランキングを参照します。図のように、紙など主要な用途だけでなく、化粧料など応用的な用途も抽出でき、「どんな用途があるかの全体像」が簡単に把握できます。
※各Fタームの意味は特許・実用新案分類照会から確認できます。また、弊社教材の「開発テーマ・企画立案における特許情報分析の活用」では、Fターム分析を含む特許調査手法を詳しく解説しています。
一方、論文情報調査から最先端の研究テーマや実験データ、研究者の動向を探ることができます。
例えば、横断検索ツールDimensionsで、先ほどと同様に「セルロースナノファイバー」で検索すると、関連する研究テーマや研究者を抽出できます。例えば大阪大学の能木雅也氏の研究成果を見ると、セルロースナノファイバーを使った電子デバイスなどの開発を進めていることが分かります。このように、今後実現しつつある用途も含めて探索できるのが論文調査のメリットと言えます。
特許や論文調査で既存技術の概要が把握できたら、自社独自のアイデアを掘り下げます。技術を起点にしたアイデア出しのコツとして、「用途開発を行う技術の特徴」を把握しておくと、効率的にアイデア出しを行うことができます。
例えば、弊社教材の「課題解決思考(1)」では、1つ目のケースで「ワサビの香り」の用途発明に取り組みます。例えばワサビの香りの特徴として「覚醒効果」に着目すると、「眠気による事故の防止技術」などの発明創出につながります。
アイデア出しの前に技術の特徴を書き出すと、スジの良いアイデアが生まれやすくなるので、よかったらお試し下さい。
次に具体例として、ケーススタディ 住友スリーエム (日経bizTech BOOKS) で紹介されているマイクロポーラスフィルムの事例を紹介します。
マイクロポーラスフィルムは、1970年代に開発された素材で、1990年以降も通気性や軽量性などの特性を活かして作業服などへの用途開発が進められました。ただ、微細孔が皮脂を吸収するため、「皮脂が洗濯で落ちない」という課題もありました。
しかし、住友スリーエムのメンバーが、上記の「皮脂を吸収する」という特性に注目し、「あぶらとり紙」として利用するアイデアを思いつきました。開発された「あぶらとりフィルム」は従来品より優れた皮脂吸収性を持つ商品としてヒットし、同社の主軸製品のひとつになりました。技術の特徴に注目した結果、良いアイデアが生まれた成功事例と言えます。
用途のアイデアを考えたら、実際にニーズがあるかを確認するため、潜在顧客へのヒアリングを行います。実際のユーザーがどんな課題を抱えているか、具体的な情報を得られるのがヒアリングのメリットです。
ヒアリングの手法として、『Running Lean ―実践リーンスタートアップ』で解説されている「課題インタビュー」がよく知られています。インタビュアーは仮説として設定した課題の解決が実際に求めているか確認するとともに、ユーザーの考えを深く理解しながら、より本質的な課題を抽出します。
一方、特にものづくり系のBtoBビジネスでは、顧客と会えない、情報開示してくれない、などの問題が生じることが多く、インタビューを成功させることは困難です。
その壁を突破する手段の1つが特許情報の活用です。例えば、ナノテクベンチャーのSCIVAXにおける事例では、自社の持つ「ナノ構造をつくる技術」について、特許情報分析による課題設定、顧客抽出とヒアリングを進めています。
具体的には、LED関連特許の分析から、ナノ構造による高輝度化などの課題候補と顧客候補を把握し、ヒアリングを行っています。結果、顧客開拓と共に新たな課題の抽出も進み、事業化と資金調達に成功しました。リソースの少ないスタートアップが、特許情報分析により活路を見出した成功事例といえます。
ここまで、技術の用途開発に使える手法として特許や論文の調査、アイデア出し、ヒアリングの3つを順に解説しました。
最後に紹介したスタートアップの事例は弊社代表の楠浦が実際に体験したもので、動画セミナー「特許情報分析を用いた技術マーケティング」にて楠浦本人が解説しているので、成功事例の全体像を知りたい方は是非ご活用ください。また、e発明塾「開発テーマ・企画立案における特許情報分析の活用」では、特許情報分析とヒアリングの進め方、調査結果を新規事業の企画書としてまとめる方法まで丁寧に解説しています。具体的なスキルを身につけたい方はこちらがお勧めです。
本記事が、用途開発の手法の習熟と、新規事業創出のヒントになれば幸いです。
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