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エヌビディアとクアルコムの自動運転半導体開発

エヌビディア・クアルコムの自動運転向け半導体戦略を特許から分析

自動運転やコネクテッドカーの普及に向けた開発を各社が進めており、関連する半導体の開発も加速しています。本記事では、自動運転向けの半導体を開発するトップメーカーとして、エヌビディアとクアルコムに注目し、開発動向を分析します。

特許情報の分析から、両社が今まさに注力している開発分野がある程度見えてきました。自動運転分野の今後に興味のある方はぜひご一読ください。

自動運転向け半導体の概要とエヌビディア・クアルコムの動向

モビリティに搭載される半導体の種類と役割

モビリティの進化を支える基盤技術と半導体の役割(デンソーの2023年のIR資料の図に追記して作成)

モビリティの進化を支える基盤技術と半導体の役割(デンソーの2023年のIR資料の図に追記して作成)


まず背景情報として、近年のモビリティ技術の進化を簡単に整理します(上図参照)。

  • モビリティが通信接続されるコネクテッドカーの仕組みが普及。クラウドを介した車載ソフトウェアのアップデート、クルマ同士の通信接続、クルマとインフラの通信接続などが可能に
  • センサーによる障害物検知を行うGPUや、車両の動作を制御する電子制御ユニット(ECU)のニーズも増加。それらのシステムと、通信などの統合管理する半導体チップのSystem on Chip(SoC)も高度化が進む
  • モビリティの電動化により、バッテリーからモーターへの電力供給など電力系統を制御するパワー半導体のニーズが増加

自動運転システムは「センサーによる認知」や「AIによる判断」、「車両の操作」などの組み合わせが必要となる複雑なシステムであり、半導体のSoCが重要な役割を果たします。

エヌビディアとクアルコムは、自動運転用のSoCを開発するトップメーカーとして知られています。以下、それぞれの最新動向を整理します。

エヌビディアの自動運転向け半導体の開発動向

エヌビディアは、画像処理用の半導体であるGPU(Graphics Processing Unit)やソフトウェアなどを開発するファブレス企業(※)です。自動車市場向けのSoCに関連する動きとして、例えば以下が知られています。

  • エヌビディアは2017年のリリースで、人工知能自動運転システムの開発に向けてボッシュと協業することを発表
  • 2022年のリリースで、自動運転車向けの次世代集中型コンピューターである「NVIDIA DRIVE Thor」を発表。自動運転や運転支援、ナビゲーションや音声通信など幅広い機能を1つのSoCに統合できる
  • 2024年3月のリリースによると、DRIVE Thorは、EVメーカーのBYDの乗用車、トラック輸送、ロボタクシーなど幅広い商用車両で採用されている

エヌビディアが5年以上前に自動運転関連の開発を開始し、着実に実用化を進めていることがわかります。

※ファブレス企業:半導体チップの設計のみを行い、製造工場を持たない企業。アップル、クアルコム、エヌビディアなどが代表例

クアルコムの自動運転向け半導体の開発動向

一方クアルコムは、スマートフォンなどで使われるCDMA方式の通信技術を開発した企業で、他社の追随を許さない特許網を武器に成長した企業としても有名です。近年は自動車分野にも進出しており、SoC関連の動向として例えば以下が知られています。

  • 2020年のCNETの記事によると、クアルコムはCES 2020の開幕に先立ち、自動運転プラットフォームとして構想する「Snapdragon Ride」を発表
  • クアルコムが2021年に発表した「Snapdragon Digital Chassis」は各社が採用を進めている。例えばソニー・ホンダモビリティが新ブランド「AFEELA(アフィーラ)」で採用(2023年2月のレスポンス記事参照)
  • canalysのCES 2024のレポートによると、クアルコムとボッシュは共同で、クアルコムのSoCをベースにした統合プラットフォームを発表。ボッシュのデジタルコックピットや運転支援システムなどを1つのSoC上で管理できる

2020年のSnapdragon Rideの発表から、順調に実用化のステップを進めていることがわかります。また、先述の通りボッシュは2017年にエヌビディアとの共同開発を発表していますが、近年はクアルコムとの共同開発に力を入れているようです。

次項では、エヌビディアとクアルコムの開発動向を特許から分析します。

エヌビディア・クアルコムの開発動向を特許から分析

エヌビディアの特許出願と自動運転関連の開発動向

エヌビディアの2009~2023年の米国特許出願件数の推移

エヌビディアの2009~2023年の米国特許出願件数の推移
(分析ツールのLENS.ORGを利用してCPC区分のTop5の推移を抽出。Nvidia Corp、Nvidia Corporation、Nvidia Technology Uk LTDの3社を出願人とする米国特許を分析)

※CPC区分の説明は概略なので、詳細は特許庁の分類対照ツールなど参照


上図はエヌビディアの2009~2023年の米国特許の出願について、件数の多い特許区分のトップ5の出願件数の変化を示したものです。

2013年頃は画像処理用のプロセッサの構成など、画像処理関連の開発が中心ですが、近年はニューラルネットワークを利用した解析などAI関連の出願が急増しています。生成AIなどが盛り上がる時代に対応し、エヌビディアがAI関連の技術開発を一気に強化していることがわかります。

自動運転に関連したAIの特許出願も進んでいます。例えば、US20230229919A1 はAIのトレーニングに関する出願で、自動運転のための障害物の画像認識への利用についても記載されています。

クアルコムの特許出願と自動運転関連の開発動向

クアルコムの2009~2023年の米国特許出願件数の推移

クアルコムの2009~2023年の米国特許出願件数の推移
(分析ツールのLENS.ORGを利用してCPC区分のTop5の推移を抽出。Qualcomm INC、Qualcomm Incorporated、Qualcomm Technologies INC、Qualcomm Innovation Ct INCの4社を出願人とする米国特許を分析)


一方、クアルコムの特許出願を見ると、上図のように通信関連の技術が上位を占めています。

2013年頃に通信の消費エネルギーを削減する技術の開発に力を入れており、電力効率の高いチップの開発に注力していたことがわかります。2023年2月のレスポンス記事では、クアルコムの車載SoCが普及した理由として「消費電力の少なさが競合他社に対する強みだ」という担当者の回答が紹介されており、自動車分野でも開発の成果が出ているようです。

クアルコムは既に通信技術の特許網で他社を圧倒していますが、2019年頃から通信関連の出願件数をさらに伸ばしています。スマートフォン市場での成功を踏まえ、IoTや自動運転などの分野への事業拡大に向けて、特許網をさらに強化しているようです。

自動運転に関連した特許として、例えば JP6689876B2「ポイントツーマルチポイントブロードキャストに支援されたビークルツーxブロードキャスト」では、事故防止などの目的で利用される車両とインフラとの通信技術について記載されています。

※ちなみにクアルコムが自動車分野で展開する知財戦略については、弊社調査レポートのイノベーション四季報・2022年冬号で詳しく解説しています。スマートフォン市場での勝ちパターンを、自動車市場にも展開しつつあるクアルコムの戦略を知りたい方はぜひご参照下さい。

エヌビディア・クアルコムの戦略を読み解き、自動運転分野で新規事業を創出しよう!

以上、エヌビディア・クアルコムの自動運転向けの半導体に関連した開発動向を解説しました。

両社の特許情報の分析から、両社が現在どこに力を入れているかの概要が把握できました。細かい分析はできていませんが、自動運転分野で新規事業の創出を考えている方のインサイトにつながれば幸いです。

最後に、私が所属するTechnoProducerのサービスを少し紹介させて頂きます。スマートフォンで培った通信技術の強みを生かして自動車市場で活躍するクアルコムのように、既存の強みを生かしつつ新分野で新規事業を創出したい方に向けて、弊社では「企業内発明塾」というサービスを提供しています。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。その経験を会社の仕事にも活かし、「起業家向け発明塾」では起業に向けた発明の創出と実用化・事業化を支援している。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
IT / 半導体 / 脱炭素 / スマートホーム / メタバース / モビリティ / 医療 / ヘルスケア / フードテック / 航空宇宙 / スマートコンストラクション / 両利きの経営 / 知財戦略 / 知識創造理論 / アライアンス戦略

 

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