本記事では、特に新規事業創出に取り組む方に向けて、事業の成功に役立つ知財戦略の本質を学べる書籍4冊について、内容の要約を紹介します。
守りと攻めの特許など知財戦略の基本になる考え方、エコシステムづくりに向けた協調的な知財活用の事例、特許の価値を正しく理解するための考え方と手法が学べる3冊の書籍を紹介したのち、弊社の考える知財戦略を解説した書籍を紹介します。
この記事の内容
キヤノンの元専務で弁理士の丸島氏が、40年にわたる知財実務の経験を通じて得られた知見を幅広く盛り込んだ大著で、知財戦略を体系的に学びたい人はまず読むべき書籍です。以下に1~9章の内容を簡単に紹介します。
冒頭の1~2章では、他者を排除する排他権としての特許の考え方や、市場や技術の進化を先読みして長期的な事業の強みをつくる知的財産経営の考え方を解説しています。
また、3~5章では、事業競争力を高めるコア技術の創出と、コア技術を守る「守りの特許」と事業の弱みを解消する「攻めの特許」を取得する戦略、取得した特許を活用する知財活動について解説しています。例えば、プリンタのカートリッジ関連技術に関する守りの特許を活用して消耗品ビジネスを継続的に成功させた例や、CMOSセンサーのノイズ除去技術に関する攻めの特許を活用して半導体メーカーとの共同開発を成功させた例など、具体的な事例を元に解説しており、技術者にもイメージしやすい内容になっています。
後半の6~8章では、国際競争力を高めるための技術の標準化戦略、他社の知的財産を取り込んで競争力を高めるアライアンス戦略、訴訟の予防と解決に関する考え方など、テーマごとの戦略を詳しく解説しています。特に訴訟に関しては、なるべく訴訟を避けて交渉で解決する考えを示しつつ、実際に訴訟が起きた際の対応方法も具体的に解説されており、参考になります。
最後の9章では、国家レベルでイノベーションを促進し、国際競争で勝つための提言が書かれています。早期審査制度の充実など特許出願に関する仕組みの改善や、国際標準化において日本企業の技術が普及するための政府の協力など、日本が国際競争で負けないための提案が様々な視点から提示されています。
全体を通して、事業の立ち上げから拡大・安定化の各フェーズに役立つ考え方を、具体的な事例を盛り込みながら解説しています。知財を活かした戦略を考える全ての方にお勧めできる良書です。
本書では、2003年からマイクロソフトの知的財産担当のバイスプレジデントに就任したマーシャル・フェルプス氏による変革の経緯が描かれています。
1~2章では、社内を変革したプロセスが紹介されており、それまでマイクロソフトの独占的な地位を守っていた特許非係争(Non-Assertion of Patents ; NAP)条項を廃止し、他社と協調して成長するオープンイノベーションに向けて方針転換するまで経緯や、特許軽視の文化を改め、交渉に必要な特許を大量に取得する体制がつくられる経緯が詳しく記載されています。
そのような体制変更は社内からの強烈な反発を乗り越える必要があるため、トップの協力が不可欠です。本書の第5章は当時CEOだったビル・ゲイツが発揮したリーダーシップがテーマになっており、今後10年で必要になる技術を先読みして発明を創出する発明先取会議や、自社の特許状況のレビューにゲイツ自身が参加し、知財管理に積極的に関わりながら改革を進めたことが記載されています。
3~4章では社外の組織との協調のプロセスについて書かれており、東芝などの大企業だけでなく、起業家やベンチャーキャピタル、インターネットベースのコミュニティとも協調関係を築くための取り組みが記載されています。
特に、第4章のテーマであるオープンソースソフトウェアのコミュニティとの関係づくりは、一般企業との交渉の考え方が通用しない領域で、マイクロソフトの担当者の苦労が生々しく描かれています。マイクロソフトは、最終的にはオープンソース企業のノベル社とのコラボレーション契約を成立させていますが、その過程ではオープンソースで一般的に採用される利用許諾契約と収益性とを両立させるためのライセンス契約の考案など、様々な工夫が凝らされていたようです。それらの苦労を通じて構築したエコシステムは、その後のマイクロソフトの成長の基盤になりました。
マイクロソフトの知財戦略を解説した記事でも書いたように、同社は2000年以降も継続的に成長を続け、確固たる地位を確立していますが、その足場をつくるための地道な努力の軌跡が本書で描かれています。これから長期視点のビジネスを立ち上げる方には、ケーススタディとして非常に参考になる書籍です。
先述した2冊では、それぞれキヤノン、マイクロソフトで実践された知財戦略の全体像を学ぶことができますが、本書では、優れた知財戦略のコアになる「価値の高い特許」について学ぶことができます。
第Ⅰ部は特許の価値に影響する要因がテーマで、技術の発展や市場の進化など外的な要因と、特許文書の法的な厳密さなど内的な要因をそれぞれ解説しています。技術の進化により価値が変化する例として、デジタルカメラの画素数を増やすための技術進化が一定水準に達すると、手振れ補正など付加機能に価値の重心がシフトすることなどが書かれています。
そのような外部環境の変化を踏まえ、そのタイミングで重要な課題を解決する核心的な技術を、侵害の回避ができないよう厳密な法的文書で記載した特許が、価値の高い特許として定義されています。
一方、第Ⅱ部では、新規参入する事業について徹底した特許調査を行い、その結果を踏まえて特許ポートフォリオを構築するための考え方と手法を解説しています。デジタルカメラやプリンタを例にとり、市場が進化した際に重要になる課題の先読みとポートフォリオ構築の手法が解説されています。
また、第Ⅲ部では、特許の経済効果を算出するための手法について解説されています。
特許により創出される経済効果として、ライセンス収益など特許から直接得られる積極的な効果だけでなく、特許を保有することがロイヤリティの支払いや他社からの攻撃を回避するといった消極的な効果にも着目し、その試算方法を紹介しています。
価値の高い特許を取るのは知財戦略の基本ですが、「具体的に何をもって価値があるとするか」の基準が無いと的外れな特許を出願してしまいがちです。本書はそういった失敗を回避するための具体的な価値基準が示されており、地に足の着いた戦略を立てたい方にお勧めの一冊です。
最後は弊社の書籍になりますが、新規事業創出に役立つ知財戦略と、実践方法を解説した書籍として紹介させて頂きます。
本書では、先述したマイクロソフトのように、先読みの知財戦略を実践するための考え方を、特許を武器に活躍するスタートアップなど最新の知見を交えて解説しています。他の書籍には無い特徴が、「未来の市場をつくる先読みの発明」を考案し、先行技術の情報を調べ、提案書として仕上げるまでのプロセスをケーススタディとして細かく記載している点です。リアルな発明のプロセスについて記載した箇所を一部引用します。
想定通りにいかないのが、僕にとっての発明なんですね。その発明が想定通り進むなら、世界中にごまんといる専門家と頭のいい人が、サクッと出しちゃってます。でも、実際には、すべての先人がどこかで挫折して放置されている。そこが発明のオモロいところ。だからこそ、発明には価値があるわけです。じゃあ失敗する典型的なパターンや、自分がよくはまるパターンを熟知しておけば避けることが可能なのかと言うと、それもまぁ難しいんです。これも多数の発明事例から実証済みです。行き詰まりや挫折から復活する方法、原状復帰する方法、躓きを乗り越える方法を身につけるしかありません。逆に、行き詰っても復活できるようになれば必ず発明が出せますし、まず「出せるぞ」という自信がつきます。これを、実例を通じ理解していただければと思います。
戦略だけでなく、実際の発明作業で生じる苦労や、乗り越え方も含めて理解したい方はぜひご一読ください。本書の冒頭部は弊社の書籍紹介ページでもPDFとして提供しています。
また、知財戦略の知識を体系的に身に着けたい方には弊社eラーニング教材・e発明塾「知財戦略(1)」を、価値のある強い特許の作り方を学びたい方にはe発明塾「強い特許の作り方」をお勧めしております。
その他、弊社のサービスについては資料ダウンロードページにて紹介資料を無料で入手して頂けます。そちらもぜひご活用ください。
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