2000年に設立された株式会社オプティムは、IoTなどの分野で優れた知財戦略を構築して急成長した企業として知られており、特許庁発行の「経営における 知的財産戦略事例集」(p25)でも、「新規事業創造に資する知財戦略」として同社の知財戦略が紹介されています。
本記事では、オプティムの特許戦略について、同社の特許ポートフォリオの概要と、特許ポートフォリオを活用したビジネスモデル、新たな市場を開拓する先読みの知財戦略について解説します。特に、スタートアップや新規事業担当者の方に参考になれば幸いです。
この記事の内容
オプティムは「ネットを空気に変える」というコンセプトを掲げ、インターネットのもたらす創造性・利便性をすべての人々が享受できる世界を目指して技術開発を行っています。特に、スマートフォンやタブレット端末の管理を法人向けに行う「モバイルデバイス管理(Mobile Device Management;MDM)」の分野で国内No.1のシェアを持っており、MDMに関連する特許も多数保有しているようです。
同社が出願した特許の内容を確認するため、Google Patentsの出願人検索で、オプティムが出願している特許を検索し、共通特許分類(CPC分類)を確認したところ、G06T「イメージデータ処理または発生一般」などデータ処理関連の技術が大きな割合を占めていました。例えば、デバイスの遠隔操作に関する技術(JP5632315B2など)や、デバイス間の画面共有のセキュリティに関する技術(JP2017068537Aなど)が出願されており、MDM分野に必要な技術を広く押さえていることがわかります。
一方、オプティムは、各業界とITを融合させるアイデアを広く特許化することで、独自の特許ポートフォリオを構築しています。代表取締役社長である菅野氏の著書『ぼくらの地球規模イノベーション戦略』では、同社の取り組む事業が紹介されていますが、農業や医療など、現在の主力事業とは異なる分野にも積極的に取り組んでいます。
Google Patentsの検索結果でも、例えば害虫駆除など農業分野の技術を含むCPC分類・A01Mの出願が10件、ヘルスケアインフォマティクスなど医療関連の技術を含むCPC分類・G16Hの出願が11件ヒットしました(いずれも2021/05/26現在)。いずれの分野でも継続的に出願が行われており、これから事業を拡大する際に足場となる権利を着実に取得していることがわかります。
続いて、これらの特許ポートフォリオを活用したオプティムのビジネスモデルを紹介します。
オプティムの2020年の有価証券報告書(p16)によると、同社の売上高の29.5%をKDDI、18.8%を小松製作所(以下、コマツ)との取引が占めており、大企業との強力な関係づくりに成功していることが分かります。以下に、それぞれの具体的な内容を解説します。
KDDIの提供するSmart Mobile Safety Managerは1万社以上に導入されたモバイル機器管理サービスで、オプティムのMDMサービスをOEMとして提供しています。Smart Mobile Safety Managerの機能一覧表を見ると、位置情報を用いて設定を切り替えるZone Management機能(関連特許:JP5976033B2)や、管理者によりアプリケーションの利用を制限できるSecure Shield機能(関連特許:JP5714560B2)など、オプティムの独自技術が記載されています。
また、追加の特許出願も積極的に行われています。例えば2019年に出願されたWO2020179010A1では、特定の地域や施設に適した保険を自動契約するシステム(国際空港で海外旅行保険を契約するシステムなど)について記載されており、位置情報を使った新たなビジネスに必要な機能を考案し、権利化しようとしていることがわかります。
一方、コマツに対しては、建設現場の作業支援に関する技術を提供しています。オプティムの2015年のプレスリリースによると、オプティムの遠隔作業支援サービス「Optimal Second Sight」により、専門知識を持つオペレーターが遠隔地の現場作業者をタブレット経由で支援できるようです。
遠隔作業支援について、オプティムのOverlayTechnologyと呼ばれる技術(関連特許:JP5192462B2)が活用されており、オペレーターは現場作業員のデバイスから得られた映像を使って効率よく作業指示を出すことができます。また、前記のJP5192462B2(2009年出願)ではデバイスとして携帯電話端末が記載されていますが、2016年に出願されたWO2018061175A1「画面共有システム、画面共有方法及びプログラム」ではスマートグラスなどウェアラブル端末についても記載されています。利用するデバイスの進化に合わせて権利範囲を広げ、自社の強みをアップデートしていることがわかります。
いずれの例でもオプティムは協業相手からソフトウェアのライセンス収益を得ていますが、ソフトウェアの主要機能に関する特許を先取りすることで、買いたたかれたり、競合に追従されることなく、協業に成功しています。
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前項ではオプティムの現在の主力サービスについて紹介しましたが、先述の通り同社は農業や医療など多様な事業分野に進出しています。特に農業については海外展開も始まっており、2020年の有価証券報告書(p20)によると、同社はベトナムの国営最大手通信グループのVietnam Posts and Telecommunications Groupと、AIやスマート農業分野における業務提携の覚書を締結しています。
特許についても、2016年に出願された害虫の検出と駆除に関する技術(JP6427301B2)や植物の診断に関する技術(JP6592613B2)が既に権利化されています。また、2019年以降にも、画像データや位置情報を利用した効率的な除草剤散布システム(WO2020157878A1)などスマート農業関連の技術がいくつかPCT国際出願されており、海外展開に必要な技術を先行して取得しているようです。
上記のスマート農業の例でもわかるように、オプティムは大規模に事業展開する前に、実現すべき技術を先読みし、権利として押さえる知財戦略を構築しています。同社の戦略については、弊社の書籍『新規事業を量産する知財戦略: 未来を預言するアイデアで市場を独占しよう!』でも解説しており、その一部を以下に引用します。
「将来こうなるはず、こういうことやるかもしれない、誰かがやってくれるかもしれない」といろいろ考えた上で特許を取り、それを足場に次々に新規事業を立ち上げる。そういう話です。オプティムの戦略はスタートアップやベンチャー企業が、自社のコア技術を生かしたビジネスを長期にわたって次々に展開し事業を拡大するという視点で、まさにニューノーマルの知財戦略です。新規事業担当の人には、とても参考になると思います。
前項で解説したように、オプティムは既に大企業と協業して大きな成果を出していますが、スマート農業や医療分野でも特許取得による足場をつくっており、今後さらに事業を拡大することが期待できます。
ここまで、オプティムの特許戦略について、データ処理を中心とした特許ポートフォリオの構築、特許ポートフォリオを活用して大企業と協業するビジネスモデル、スマート農業分野など未来の市場を先読みした知財戦略について解説しました。
これらの戦略を実現するには、大量の特許出願を可能にする発明創出が必要であり、簡単ではありません。ただ、未来の市場を先読みするオプティムの知財戦略は、多くのスタートアップの参考になると思います。未来の市場をつくる知財戦略の構築に向けて、本記事が一助になれば幸いです。
先読みの特許戦略については、前出の『新規事業を量産する知財戦略: 未来を預言するアイデアで市場を独占しよう!』に加え、弊社資料の「成功事例に学ぶ、ビジネスに直結する知財戦略」でも解説しています。資料は弊社のダウンロードページより無料で入手して頂けます。
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畑田康司
TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
工場設備エンジニア、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。
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