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Microsoftの特許戦略_Azureの巧妙な知財戦略とは

マイクロソフト特許ポートフォリオの具体例と、クラウドAuzreの知財戦略

知財戦略の概要に関する記事では、知財戦略の基本的な考え方を解説しましたが、本記事では優れた知財戦略を構築した巨大企業の事例として、マイクロソフトの知財戦略を解説します。

近年、マイクロソフトはパソコン用のソフトウェアに限らず、ゲーム機やクラウドサービスなどにも事業を拡大しています。シンクタンクのEconomic Research Councilの記事によると、同社は20年連続で世界時価総額トップ10に入っており、新規参入した事業でも成功していることがわかります。

本記事では、成功の背景にあるマイクロソフトの知財戦略について、現在の戦略に至る背景と、具体的な特許ポートフォリオの内容、同社の強みをさらに広げるクラウドサービスMicrosoft Azureの知財戦略について簡単に解説します。

 

マイクロソフトの知財戦略の方針転換と特許ポートフォリオの構築

オープンイノベーションに向けた知財戦略の転換とNAP条項の廃止

2000年代の初頭まで、マイクロソフトの知財戦略は「防衛」が主体でした。その象徴ともいえるのが同社の特許非係争(Non-Assertion of Patents ; NAP)条項で、Windowsのライセンスを受けたメーカーに対して、「マイクロソフトのソフトウェアの新しいバージョンを出荷し始めた後に、特許権侵害によってマイクロソフト、あるいはお互いを訴えないことに同意すること」を要求するものでした。

このNAP条項によりマイクロソフトの安全は守られるものの、Windowsのライセンスを受けたメーカー間での特許訴訟も制限されるため、優れた技術を持つ企業が強みを失うことにつながりました。このため、特にハードウェア関連で強い特許を持つ日本メーカーなどの不満が高まっていました。

2003年からマイクロソフトの知的財産担当のバイスプレジデントに就任したマーシャル・フェルプスは、オープンイノベーションの時代に他社とのより良い関係を築くために知財戦略の方針を転換し、NAP条項を廃止しました。当時の状況は、マーシャル フェルプス著『マイクロソフトを変革した知財戦略』に詳しく記載されています。

オープンイノベーションのための特許ポートフォリオ構築

フェルプス氏が就任する前は、マイクロソフトの知財活動は著作権によるソフトウェアの保護が中心で、2000年時点の特許取得件数は344件と、全米40位以下でした(特許庁資料「経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】」p64参照)。これは、マイクロソフトの研究開発規模が当時すでに世界トップクラスだったことを考えると、同社が技術を適切に保護できていなかったことを意味します。

そこでフェルプス氏は、社内弁理士を採用し、戦略的妥当性のある特許明細書を大量に作成できる環境を整えるなど、特許を量産できる体制をつくり、特許ポートフォリオを構築しました。また、5~10年後に必要になる技術を予測し、発明を創出する「発明先取会議」も導入し、新たなビジネスにつながる特許を常に前倒しで取得できる仕組みをつくりました。

これらの努力により、同社は質の高い特許ポートフォリオを構築し、東芝、富士通などの日本企業を含む多くの企業との相互ライセンス契約など、協調的な特許活用を進めることに成功しました。

 

マイクロソフト特許ポートフォリオの具体的な内容 

Microsoftの特許出願の技術分類トップ5

Microsoftの特許出願の技術分類トップ5(Google Patentsより)

ソフトウェアの演算処理に関する特許がポートフォリオの中心

先述した特許ポートフォリオの構築は継続的に行われ、マイクロソフトのAnnual Report 2020 (p20) によると、同社の保有する米国特許は63000件以上に達しています。

どのような分野で特許出願がされているかを大枠で把握するため、Google Patentsの出願人検索で、Microsoftが出願している特許を検索し、共通特許分類(CPC分類)のランキングを確認したところ、7割近くがG06F(電気的デジタルデータ処理)に関する出願でした。例えば、JP2018055707A「仮想マシンプールにおけるリソースの割り当て」のようにクラウドコンピューティングに関するものや、JP5049280B2「ローカリゼーションデータの拡張可能xmlフォーマットおよびオブジェクトモデル」のようにデータのローカライゼーション(現地の言語への対応)に関するものが含まれます。

同社のもつOSやクラウドサービスなど主力製品の機能をより向上させるための技術を中心に、特許出願を進めていることが伺えます。

HoloLensなどハードウェア関連の特許も積極的に出願

一方で、マイクロソフトはハードウェアの分野でも積極的に開発を行っています。例えば、上阪徹 著『マイクロソフト 再始動する最強企業』では、MR(Mixed Reality/複合現実)デバイスのHoloLensについて紹介されています。HoloLensは現実世界とデジタル世界を複合的に融合する装置で、HoloLensにより生成された人体模型のグラフィックを医学部向けのトレーニング教材として利用する取り組みなどが始まっているようです。

試しにHoloLensの開発者であるAlex Aben-Athar Kipman氏を発明者とする特許を調べたところ、約75件の出願(2021/05/18現在)がヒットしました。仮想世界と現実世界の融合につながる技術が多く含まれており、例えば US20140002492A1 ”Propagation of real world properties into augmented reality images” では、「センサーから得られた現実世界のデータを元に、仮想イメージを変化させる」という、HoloLensのベースになるアイデアが記載されています。

紹介したのはMicrosoftの出願のごく一部ですが、現在の主力製品に関する追加の出願を中心に置きつつ、先進的な技術の開発と特許出願も積極的に進めていることがわかります。次に、同社の持つ強みをさらに広げる新たな仕組みとして、Microsoft Azureの知財戦略を紹介します。

 

クラウドサービスMicrosoft Azureの巧妙な知財戦略

Shared innovation Initiativeに沿った知的財産の運用

Microsoft Azure は、2010年に開始したマイクロソフトのクラウドサービスで、ソフトウェアの開発と運用を支援するプラットフォームを提供しています。Azureを使った共同開発から生まれた知的財産については、マイクロソフトが2018年に発表したShared Innovation Initiativeの考え方が適用され、利用者はその知的財産の所有と他のプラットフォームへの移植を自由に行うことができます。また、出願手続きやオープンソース化に関するマイクロソフトからのサポートも受けることができます。

一方、Shared innovation Initiativeにはマイクロソフトへのライセンスバックの条項が記載されており、マイクロソフトは得られた知的財産をAzure, Office, Windowsなどの機能改善に限り活用することができます。利用者は自社の権利を失うことなくマイクロソフトからのサポートを享受でき、マイクロソフトはプラットフォームの開発を加速できる、というWin-Winの関係を築く仕組みと言えます。

共同開発が進むほどマイクロソフトが有利になる仕組み

上記のように知的財産が運用された結果何が起こるかについては、弊社書籍『新規事業を量産する知財戦略: 未来を預言するアイデアで市場を独占しよう! 』で解説しています。以下に記載の一部を引用します。

マイクロソフトからすると、共同研究した成果を取り込めば取り込むほど、プラットフォームの機能が向上するので、競争力は飛躍的に高まります。もし、顧客企業が共同研究成果物を別のところに持って行ったとしても、元になるプラットフォームをもっているのは自分たちなので、顧客企業が使える範囲は限定的で、自分たちはいろいろなメーカーに無限に新たな機能を提供できる状態になる。マイクロソフトが一方的に有利になっていくわけで、あとはもう使わせればいいだけ、共同開発すればいいだけという仕組みになっているんですね。「うちと共同開発するとこんなメリットありますよ、皆さん入りませんか」って言っていますが、最終的には自分たちにもかなり大きなメリットがある、というわけです。

『新規事業を量産する知財戦略: 未来を預言するアイデアで市場を独占しよう! 』 第2章より

つまり、顧客企業が増えるほど加速度的にプラットフォームが成長し、マイクロソフトが有利になる状況がつくられています。マイクロソフトに依存しない体制を構築したい企業は、自社技術に関するベースの特許はAzureを利用せずに取得するなど、独自の知財戦略を検討すると良いかもしれません。

 

プラットフォーマーの知財戦略を知り、自社の知財戦略を構築しよう

ここまで、マイクロソフトの知財戦略について、オープンイノベーションに向けた協調的な知財戦略への転換、それに伴って構築された特許ポートフォリオの具体的な内容、強みをさらに広げるMicrosoft Azure の巧妙な知財戦略の順に解説しました。

同社は、2003年に知財戦略の方針を転換した時点でWindowsやOfficeのプラットフォームをすでに構築していた巨大企業であり、その戦略をそのまま模倣することは困難ですが、仕組みを提供するプラットフォーマーの考え方を理解することは、自社の戦略を立てる上で重要です。自社の強みを活かした知財戦略を構築する上で、本記事が参考になれば幸いです。

また、マイクロソフトやクアルコムの巧妙な知財戦略については、弊社動画セミナーの ”優れた知財戦略で世界を変えたクアルコムに学ぶ「知財戦略」の基礎” でも解説しています。その他、弊社サービスに関する情報は資料ダウンロードページにて無料で入手して頂けます。是非ご活用ください。

 

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
工場設備エンジニア、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。

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