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マルチビーム描画装置とは?

マルチビーム描画装置とは? 日本電子と提携したIMS、東芝傘下のニューフレアなどメーカーの最新動向を解説

2023.11.22

マルチビーム描画装置は、多数の電子ビームを使うことで、複雑かつ微細なパターンを短時間で描くことができる装置です。半導体チップの微細化においてコアになる技術として重視されています。

本記事では、マルチビーム描画装置の基本構造を解説した後、日本電子やIMS、ニューフレアなど開発をリードするメーカーの最新動向を紹介します。TSMCなど半導体製造のトップ企業によるマルチビーム描画装置への投資の動向も紹介するので、マルチビーム描画装置に関わるビジネスの全体像を把握したい方は是非ご一読ください。

※マルチビーム描画装置でつくられたパーツをフル活用しているEUV露光装置については、以下の記事で解説しています。

【図解】ASMLのEUV露光技術と半導体微細化に向けた今後の戦略 ~技術の基礎から収益構造まで詳しく解説

マルチビーム描画装置の概要と主要メーカー

マルチビーム描画装置の仕組みとメリット

マルチビーム描画装置の構造の概要(D2S Inc. の特許出願US20140158916の図に追記して作成)

マルチビーム描画装置の構造の概要(D2S Inc. の特許出願US20140158916の図に追記して作成)


まず、マルチビーム描画装置の仕組みを簡単に紹介します。

マルチビーム描画装置は、多数の電子ビームを個別に制御して対象物に照射し、加工を行います。以下の流れで工程が進みます(上図参照)。

  • 電子ビーム源から複数のビームが照射され、多数の絞りを通過したビームが下部に向かう
  • それぞれのビームはコントローラにより個別にON/OFF制御される。この制御により、電子ビームを照射する位置を調節できる
  • コントローラを通過した電子ビームは、電磁レンズ(※)と呼ばれるパーツにより屈折し、対象物に照射される

多数の電子ビームを制御して一気に対象物を加工できるので、加工に要する時間を大幅に短縮できるのがマルチビーム描画装置のメリットです。日本電子の記事によると、マルチビーム描画装置は26万本のビームを一気に照射することができるようです。

電子ビームによる加工対象となるのは、主に半導体チップの微細な回路パターンを描画する「露光装置」のパーツです。露光装置に使われる「マスク」と呼ばれるパーツには、チップに投影するための微細なパターンが刻み込まれており、その細かさが半導体チップの複雑さを左右します。

つまり、電子ビームによる加工を行う装置の精度が、半導体チップの性能を左右することになるので、非常に重要な技術分野です。マルチビーム描画は、電子ビームによる加工のスピードを一気に向上できる技術として期待されています。

※電磁レンズ:電磁気学的な作用により電子の軌道を変えることができる機構。ガラス等でできた一般的なレンズは電子ビームを通さないため、電磁レンズが利用される

マルチビーム描画装置を開発する主要メーカーの動向

続いて、マルチビーム描画装置を開発する主なメーカーを紹介します。この分野のトップメーカーはオーストリアの装置メーカーであるIMS(※)で、マルチビーム描画装置の市場で90%を超えるシェアを持っています2023年11月のShiftedの記事参照)。

IMSは精密機器メーカーの日本電子と提携しており、加工対象を乗せるステージの位置をナノレベルで制御する機構などに日本電子の技術が活用されています(日本電子の記事参照)。マルチビームの技術を持つIMSと、微細な位置制御の技術をもつ日本電子が協力することで、マルチビーム描画装置の実用化が進んだようです。

一方、日本の半導体装置メーカーのニューフレアも、マルチビーム描画装置の開発を進めています。同社は電子ビーム技術を活用して描画装置や検査装置を開発する企業として2002年に設立され、2020年に東芝の子会社になっています。2022年2月のEE Timesの記事によると、東芝はニューフレアによるマルチビーム描画装置を成長事業と位置づけており、新たな装置をリリースする準備を進めているようです。

ニューフレアの今後の動向も気になりますが、現時点ではIMSが圧倒的にリードしています。次項では、IMSの最新技術と、IMSへの投資を行うTSMCの動向を紹介します。

※正式名称はIMS Nanofabrication GmbHで、インテルの子会社

マルチビーム描画装置開発をリードするIMSの特許技術と関連企業の動向

さらなる微細化に向けて開発を進めるIMSの特許技術

電子ビームの熱に起因するズレを補正するIMSの技術(同社の特許出願JP2023138912Aの図に追記して作成)

電子ビームの熱に起因するズレを補正するIMSの技術(同社の特許出願JP2023138912Aの図に追記して作成)


IMSは
マルチビーム描画装置の加工精度をさらに向上させるための開発を進めており、関連特許も多数出願しています。例えば2023年に出願されたJP2023138912A「リソグラフィ描画法における熱膨張の補正」では、電子ビームを照射した際の熱によるズレを補正する技術が記載されています。

上図のように、電子ビームを照射すると対象物が加熱されて膨張し、歪みが生じます。IMSの技術は、熱膨張により生じるズレの量をあらかじめ予測し、対象物を乗せるステージの移動により補正を行うことで精度の向上を可能にしています

この特許はIMSから出願されていますが、実際の装置でナノレベルのステージ位置調整を行う際は、先述した日本電子の技術も活用されていることが推測できます。

IMSに投資するTSMCの狙い

2023年9月のジェトロのニュース記事によると、半導体製造の最大手である台湾のTSMCは、IMSの株式の約10%を取得しています。IMSの株式の過半数は親会社のインテルが保有していますが、今回の取引によりTSMCとIMSの連携が強化されたようです。

TSMCは次世代の半導体プロセスである「2nmプロセス」を2025年にリリースすることを計画しており、製造に必要な技術への投資を積極的に行っています。2nmプロセスでは「EUV露光装置」と呼ばれる最新の露光装置が使われる見込みですが、EUV露光装置のパーツ製造においてマルチビーム描画装置は重要なツールです。

TSMCがIMSの株式の取得に投じた費用は最大で4億3280万ドルとされており、2nmプロセスの実現においてIMSの技術を重視していることが推測できます。

マルチビーム描画装置の進化による半導体微細化の加速

以上、マルチビーム描画装置の仕組みと、メリット、主要メーカーの動向を紹介した後、IMSの技術とTSMCの投資戦略を分析しました。半導体チップの進化をリードするTSMCがIMSへの投資を強化していることから、マルチビーム描画装置のニーズが高まっていることがわかります。今後、マルチビーム描画装置の技術がさらに進化することで、半導体チップの性能がさらに向上しそうです。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
IT / 半導体 / 脱炭素 / スマートホーム / メタバース / モビリティ / 医療 / ヘルスケア / フードテック / 航空宇宙 / スマートコンストラクション / 両利きの経営 / 知財戦略 / 知識創造理論 / アライアンス戦略

 

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