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固体電解質の最先端_トヨタ・出光共同開発の背景

【図解】固体電解質とは? ~全固体電池をトヨタと共同開発する出光、QuantumScapeなど材料メーカーの最新動向も解説

発明塾セミナー:電動化・自動運転普及に向けてデンソー・ボッシュはどう事業を変革するか?

固体電解質は、電気自動車(EV)のバッテリーなどに使われる全固体電池の材料で、充電や放電の際にイオンを移動する媒体として使われています。全固体電池の開発は日本企業がリードしており、トヨタと出光興産の共同開発が話題になっています(2023年10月のトヨタリリース参照)。

本記事では、固体電解質の基本的な特性と、開発における課題、実用化をリードする材料メーカーの動向をまとめて紹介します。後半ではトヨタと出光の共同開発や、米国スタートアップ「QuantumScape」が開発する新型材料も紹介するので、全固体電池開発の最先端を知りたい方は是非ご一読ください。

※出光の全固体電池事業の戦略については、以下の記事で詳しく解説しています。

出光興産の全固体電池戦略 ~強みを生かした新規事業創出の戦略を特許から分析

固体電解質の概要と材料メーカーの動向

固体電解質の基本特性と全固体電池開発における課題

固体電解質の構造の例(Calaminusら, 2022の図に追記して作成)

固体電解質の構造の例(Calaminusら, 2022の図に追記して作成)


まず、固体電解質として利用される材料の基本的な特徴を解説します。上図のように、固体電解質にはリチウムを含む固体の材料が使われ、
固体の中をリチウムイオンが移動できる性質を持ちます。

イオンの移動しやすさ(伝導度)は固体の構造により変化し、例えば「アルジロダイト型」と呼ばれる結晶構造をもつ材料は伝導度が高いことが知られています。アルジロダイト型の固体電解質についてはトヨタや出光が開発をリードしています。本記事の後半で詳しく紹介します。

リチウムイオン電池と全固体電池の構造の比較

リチウムイオン電池と全固体電池の構造の比較


「リチウムイオンが移動できる」という固体電解質の特性を利用して開発されたのが全固体電池です。上図(右)のように、正極と負極の間に固体電解質が挟まれており、イオンの移動により充電・放電を行うことが可能です。

現在の主流であるリチウムイオン電池は、液体の電解質をセパレータが仕切ってショートを防いでいますが、全固体電池では固体電解質がセパレータの役割も兼ねています。リチウムイオン電池よりシンプルな構造で、耐久性も高いのが全固体電池のメリットです。

固体電解質の開発において最大の課題となるのが「リチウムイオンの伝導度を上げるのが難しい」ことです。充電・放電のスピードなど電池の性能に直結するため、各社が伝導度の高い固体電解質の開発に取り組んでいます。

固体電解質を開発する国内外の材料メーカーの動向

続いて、固体電解質の開発に取り組む材料メーカーの動向を簡単に解説します。固体電解質の開発では日本企業がリードしており、先述のトヨタ・出光の他にパナソニック、富士フイルム、住友化学などが開発を進めています。

海外企業も固体電解質の開発に参入しており、例えば以下の動きが知られています。

  • 韓国ではサムスンやヒュンダイ自動車が2027~2030年頃の全固体電池のリリースに向けて開発を加速2023年4月のBusiness Korea記事参照)
  • 米国ではIBMやスタートアップのQuantumScape(後述)などが全固体電池の材料開発に取り組んでいる。IBMは人工知能を使った材料探索技術を開発IBMのプロジェクト紹介ページ参照)
  • 中国では新興企業の全固体電池開発への参入が急増。例えば2021年に設立された藍固新能源(LionGo)は電解質製造を専門とする材料メーカーで、電解質の製造に関する特許を保有(2023年9月の日経クロステック記事参照)

各社が全固体電池の開発に力を入れており、特許出願件数も急速に増加しています。次項では、特許情報の分析を元に企業の開発動向を分析します。

固体電解質の開発をリードするトヨタと出光、QuantumScapeの動向を特許から分析

トヨタ・出光共同開発の狙いとアルジロダイト型の固体電解質の開発

IPC分類「H01M10/0562」の特許出願件数のバブルチャート(特許分析ツールTokkyo.Aiを用いて日本の特許出願上位5社を分析。バブルの大きさが特許出願件数の多さを示す)

IPC分類「H01M10/0562」の特許出願件数のバブルチャート(特許分析ツールTokkyo.Aiを用いて日本の特許出願上位5社を分析。バブルの大きさが特許出願件数の多さを示す)


まず、出光とトヨタの特許出願の動向から、両社の協業の狙いを考察します。

上図は、国際特許分類(IPC分類)の中で、全固体電池に関する区分の「H01M10/0562」に分類される特許出願の件数を表したものです。円形のバブルの大きさが出願件数の多さを示しています。

チャートには「日本における出願件数の上位5社」を示しており、トヨタと出光がいずれも全固体電池開発のトップ企業であることが分かります。両社ともに15年前の2007年の時点で既に特許出願を開始しており、全固体電池に関する長年の蓄積があることがわかります。

件数ではトヨタが圧倒的ですが、出光は材料メーカーとしての開発力に強みがあり、特に伝導度が高い固体電解質に関する特許を多数保有しています。先述の「アルジロダイト型」の固体電解質については、2015年頃から出願を開始しており、例えば2016年に出願された JPWO2016204255A1「固体電解質の製造方法」には、伝導度が高い結晶構造をつくるための方法に関する技術が記載されています。

トヨタは全固体電池の構造など幅広い技術を開発していますが、特に難易度の高い材料開発についてノウハウを持つ出光の技術を取り込みたかったと推測できます。両社が協業を発表したのは2023年ですが、2021年に出願されたJP2023077585A「全固体電池」は両社の共同出願になっており、以前から共同開発を進めていたことが分かります。

フォルクスワーゲンとビルゲイツが出資するQuantumScapeの材料技術

2010年に設立された「QuantumScape(クォンタムスケープ)」は、全固体電池を開発する米国スタートアップです。従来よりも充電速度などの性能が優れた全固体電池をつくる技術を持っており、フォルクスワーゲンやビルゲイツからも出資を受けています2021年3月の日経クロステック記事参照)。

同社は固体電解質に関する特許も多数保有しており、例えばJP6514690B2「Li二次電池用のガーネット材料」では、伝導性や耐久性に優れた固体電解質について記載されています。この特許に記載された「ガーネット型」と呼ばれる構造をもつ固体電解質は、先述のアルジロダイト型と同様に優れた伝導性をもつことが知られています。出光とは別方向のアプローチで固体電解質の開発を進めていることが分かります。

固体電解質の性能向上による全固体電池の普及とEVの進化

以上、固体電解質について、基本的な性質と全固体電池の開発における課題、材料メーカーの開発動向を解説しました。トヨタ・出光は固体電解質の開発において世界をリードしていますが、QuantumScapeなど別方向のアプローチで開発を進める企業も成長しています。全固体電池が実用化されれば、EVの性能も一気に向上することが期待できるので、今後の展開が楽しみです。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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