Ginkgo Bioworks Holdings(ギンコ・バイオワークス・ホールディングス)は、「生物学をよりエンジニアリングしやすく(Make biology easier to engineer)」をミッションに掲げる企業で、2021年にSPAC(特別目的買収会社)であるソアリング・イーグルとの合併を経て上場し、注目を集めました。
日本ではまだ認知度の低い会社ですが、Ginkgo Bioworksの技術プラットフォームはコロナワクチン開発など医療分野から農業・食品分野まで幅広く利用され始めています。
本記事では、Ginkgo Bioworksの技術とビジネスモデルの概要、同社の技術プラットフォームを活用した事例を図を使って簡単に解説します。
<参考:ギンコ・バイオワークス・ホールディングス基本情報>
ティッカーシンボル:DNA(ニューヨーク証券取引所)
設立:2008年(2021年9月17日にIPO)
HP:http://ginkgobioworks.com/
※設立の年は創業者Reshma Shetty氏のLinkedinの情報を参照した
※Ginkgo BioworksからスピンアウトしたフードテックスタートアップのMotif Food Worksについては、以下の記事で取り上げています。
この記事の内容
近年、遺伝子合成・編集などの技術が飛躍的に進歩し、新たな機能を備えた生物細胞(スマートセル)を創出し、医薬品や食品などの製造に活用されるケースが増えています。スマートセルを利用した製造は一般的に上図のような流れで進みますが、生き物を扱うため、開発段階では予想外のトラブルが数多く生じ、開発スピードのボトルネックとなっています。
Ginkgo Bioworksでは、スマートセルの設計・安定生産に必要な設備やソフトウェア、細胞管理のノウハウなどを開発プラットフォームのcell-development-kit(CDK)として顧客に提供し、上記のボトルネックを解消することを目指しています。企業の生産性を向上するプラットフォームの提供という点では、アマゾンAWSやGoogle Workspaceに近いサービスと言えます。
※アマゾンのイノベーションを軸にしたビジネスモデルについては以下の記事で解説しています。
先述の通り、Ginkgo Bioworksはメーカーではなく、スマートセル開発のプラットフォーマーであり、具体的にはロシュなど製薬企業の医薬品開発や、味の素など食品企業の微生物育種などで次々に実績を出しています。顧客企業との協業で得られた収益と知見はプラットフォーム改善に利用されるため、顧客が増えるほど自社のプラットフォームも成長する好循環が生まれます。
また、Gingkoはスタートアップへの投資も積極的に行っており、後述するバイエルとのジョイントベンチャーであるJoyn Bioなどの企業を次々に生み出しています。投資先のスタートアップもGInkgoのプラットフォームを利用するため、プラットフォームの成長がスタートアップの成長につながり、株価も向上する、という好循環がここでも生まれます。
つまり、「既存企業・新興企業とのアライアンスを通じ、開発プラットフォームの改善サイクルを回す戦略」がGinkgoの経営戦略のコアと言えます。
次項では、Ginkgoのプラットフォーム活用の具体例として、コロナワクチン開発、農業の事例を紹介します。
※アライアンス戦略の事例については以下の記事でも紹介しています。是非ご参照ください。
モデルナ社などが開発するmRNAワクチンは、上図のように、DNAプラスミドから合成されたmRNAに追加の処理を行い、製造されます。追加の処理の1つに、mRNAの端に「キャップ」と呼ばれる構造をつくる工程があります(キャップは、ヒトの体内におけるmRNAの分解を防止したり、タンパク質合成の開始を促進する機能をもつ)。
Aldevron社のプレスリリース(2021/08/10)によるとAldevron社は上記の工程に使われるキャップ化酵素(vaccinia capping enzyme;VCE)の製造を行っており、製造プロセスの効率化にGinkgoのプラットフォームを利用しているようです。
記事によると、Ginkgoとの協業により開発された製造プロセスは既存プロセスの10倍以上の効率化に成功しており、ワクチンの供給力向上などにつながることが期待されています。
一方、Joyn BioはGinkgoとバイエルが共同で出資して2017年に設立されたジョイントベンチャーです。最初の開発テーマとして、「空気中から窒素を取り込み、植物に供給できる微生物の創出」に取り組んでおり、成功すれば窒素肥料の使用量を大幅に低減することが可能になります。窒素肥料の製造と使用に関わる温室効果ガスは全体の約3%を占めると言われており、環境負荷を低減する技術として期待が集まっています。
また、Ginkgo BioworksのHPによると、Joyn BioはGinkgoのプラットフォームを利用することで、1回に何千種類もの微生物を自動で分析したり、遺伝子を編集した微生物の効率的な生産が可能になっています。Ginkgoが立上げに関わることで、ゼロからスタートするスタートアップに比べて大きなアドバンテージがあることがわかります。
一方、Joyn BioはGinkgoとバイエルが共同で出資して2017年に設立されたジョイントベンチャーです。最初の開発テーマとして、「空気中から窒素を取り込み、植物に供給できる微生物の創出」に取り組んでおり、成功すれば窒素肥料の使用量を大幅に低減することが可能になります。窒素肥料の製造と使用に関わる温室効果ガスは全体の約3%を占めると言われており、環境負荷を低減する技術として期待が集まっています。
また、Ginkgo BioworksのHPによると、Joyn BioはGinkgoのプラットフォームを利用することで、1回に何千種類もの微生物を自動で分析したり、遺伝子を編集した微生物の効率的な生産が可能になっています。Ginkgoが立上げに関わることで、ゼロからスタートするスタートアップに比べて大きなアドバンテージがあることがわかります。
※Joyn Bioを含む農業系スタートアップの技術については以下の記事で詳しく解説しています。
ここまで、Ginkgo Bioworksについて、スマートセル開発の効率化を目指すプラットフォームと、プラットフォームを継続的に成長させるアライアンス戦略、同社の技術を利用したコロナワクチン開発や農業技術革新の事例を紹介しました。
多数の分野にまたがるプラットフォームの構築、新旧の企業とのバランスの良い協業など、リスクを分散させる経営戦略の事例としても参考になります。
本記事では一部の事例しか紹介できませんでしたが、Ginkgoの2021年Q3のレポートによると、同社のプラットフォームから得られる収益、プラットフォームを利用したプロジェクトの数は2020年と比較して大きく増加しており、同社のプラットフォームを利用する企業のエコシステムが広がっていることがわかります。
いずれの関連企業も、コロナ対策や環境負荷の低減、循環型社会の実現など、重要な社会課題に取り組んでおり、今後の活躍が期待されます。
より詳細な情報を知りたい方は、同社のレポートやHPの情報をご覧ください。本記事が企業調査の一助になれば幸いです。
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畑田康司
TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。
あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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