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アライアンスの考え方とP&G, Microsoftの成功事例

アライアンス戦略の考え方と成功事例 ~P&G・マイクロソフトに学ぶ契約のコツ

前回の記事では、特にスタートアップのオープンイノベーションにおける契約のポイントを解説しました。本記事では、大企業がアライアンスを成功させる際に必要な契約の考え方と成功事例を紹介します。

まず、大企業がアライアンスを進める上での基本的な考え方を解説し、他社技術の活用、自社技術の提供によるアライアンスを成功させるための考え方とP&Gやマイクロソフトの成功事例を解説します。

 

大企業のアライアンス・事業提携における契約の基本的な考え方と事例

契約によるアライアンス相手の過剰な負荷を防ぎ、Win-Winの関係を築く

一般的な契約の交渉では、自社に有利な条件を追及することが重視されますが、アライアンス戦略では他社を含むエコシステムの成長につながることが重要です。よって、特に大企業がスタートアップと提携する際は、自社の考えを押し付けず、相手の事情に配慮した契約を結ぶことが重要です。

例えば、経済産業省の「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の 連携のための手引き(初版)」には大企業とスタートアップの連携の失敗事例が記載されており、大企業側の社内調整による時間のロス(p19)や、ライセンスの長期独占によるスタートアップの機会損失(p21)などが失敗要因となることが分かります。お互いにWin-Winの関係が築けるよう、契約プロセスの効率化や、相手に配慮した契約内容の作りこみが必要です。

研究開発部門と法務・知財部門がそれぞれ連携して契約を進め、トラブルを防ぐ

上記のように、スタートアップとの契約には効率が求められますが、必要なチェックを省くのは後々のトラブルと連携の失敗につながります。共同研究の現場で中心となるのは主に研究開発部門のメンバーですが、契約プロセスは他部署と連携しながら進めることが重要です。

例えば、特許庁の「オープンイノベーションのための知財ベストプラクティス集」では、知財・法務部門を含む専門チームを組成し、効率とリスク回避のバランスの良い体制をつくることが推奨されています(p22, 24)。

※スタートアップの側から見たアライアンスの考え方を知りたい方は以下記事をご参照ください。

オープンイノベーションにおける契約のポイント【スタートアップ向け】

他社技術活用に向けたアライアンス契約の考え方とP&G・バイエルの成功事例

技術探索段階における秘密情報管理の工夫とP&Gの事例

利用する技術の候補を探す段階において、他社の秘密情報を取得する際には注意が必要です。例えば、自社が事業化しようとしている技術と近い技術を持つ相手と秘密保持契約を結んだ場合、事業を進める際にその契約がトラブルの原因になる可能性があります。


また、相手から情報を得る際に、予め秘密情報を含まないことを宣言してもらう、という手もあります。例えば、P&Gのウェブサイト 「コネクト + デベロップ」では、同社が探索するテーマに関するアイデアを募集していますが、アイデア提出における取引条件(Submission Terms & Conditions)において、秘密情報の提出ではないこと(Non-confidential Submission)への同意を要求しています。アイデアの公募を検討している方には参考になるかもしれません。

スタートアップに配慮した契約の考え方とバイエルの成功事例

また、共同研究などの契約を進める際には、一方的な要求を突きつけるのではなく、適切な対価を支払うことが信頼関係の構築につながります。特に、スタートアップなど資金や人材のリソースの少ない相手と契約を結ぶ場合は、段階的に相手に対価が支払われるマイルストーン契約の考えを取り入れるなど、相手の資金ショートを防ぐ配慮が必要です。

例えば、2017年に締結されたバイエルAG社とペプチドリーム社(日本のバイオ系スタートアップ)の創薬共同研究開発契約においては、前記のマイルストーン契約が取り入れられています(ペプチドリーム社のブログ記事など参照)。また、ペプチドリーム社は、バイエル社以外にもメルク社からのマイルストーンフィーの受領など、複数の成果を発表しており、大企業とスタートアップの契約における優れたモデルとして参考になります。

※P&Gの戦略の詳細については以下記事でも解説しています。

P&Gのオープンイノベーション ~戦略の概要と成功事例~

自社技術の提供によるアライアンスの考え方とマイクロソフト・東芝の成功事例

自社技術が相手に与えるメリットをイメージして契約を進める

他社に技術を提供することで、自社がライセンス収入などの利益を得ることはもちろん重要ですが、相手に提供できるメリットも事前にイメージしておくと、適切な協業相手を見つけやすくなります。

例えば、経済産業省の「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver1.0」で紹介されている自動車部品メーカーと樹脂素材のスタートアップのアライアンスでは、メーカー側は新製品開発コストの削減、スタートアップ側は量産ライン立ち上げのコストを削減などのメリットがあり、双方に利益のある提携になっています。

互いの強みを活かした東芝とマイクロソフトのクロスライセンス契約

大企業どうしの協業の例として、東芝とマイクロソフトのクロスライセンス契約が知られており、2005年6月27日の東芝のプレスリリースにその内容が掲載されています。東芝は主にハードウェアに関する特許を、マイクロソフトはソフトウェアやPCに関する特許を保有しており、異なる強みを持つ両社の技術を持ち寄ることで、PCや家電に関するイノベーションを加速させました。

ちなみに、この契約に至るまでの交渉の経緯はMarshall Phelps・David Kline著『マイクロソフトを変革した知財戦略』(発明協会)の第3章に詳しく書かれています。マイクロソフトの担当者が東芝との良好な関係を築くために粘り強い交渉を進める様子が描かれており、契約に関する交渉も最後は人と人との関係であることがよく分かります。契約交渉で苦労されている方は是非ご参照下さい。

※アライアンスによるマイクロソフトの巧みな戦略については以下記事で解説しています。

マイクロソフト特許ポートフォリオの具体例とAuzreクラウドの知財戦略

契約のポイントを押さえ、アライアンスを成功させる

ここまで、大企業がアライアンスを進めるための契約のポイントとして、Win-Winの関係づくりや部署間の連携といった基本的な考え方、他社技術の活用における情報管理や契約のポイント、提携先に利益のある自社技術提供の考え方を、具体的な事例を交えて紹介しました。

大企業はスタートアップに比べてリソースが豊富で、提携先の選択肢も多いぶん、契約に関するプロセスも複雑になります。部署間で調整しながら、提携すべき相手を注意深く選び、関係を構築する地道なプロセスが必要です。

ただ、お互いに成長できる関係を構築できれば、その後の仲間づくりと事業成長が加速度的に進み、イノベーションの成功につながります。本記事がその一助になれば幸いです。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
工場設備エンジニア、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。

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