オープンイノベーションにおける契約のポイント(事業会社向け)

オープンイノベーションにおける契約のポイント【事業会社向け】

2021.5.26

前回の記事では、特にスタートアップのオープンイノベーションにおける契約のポイントを解説しました。本記事では、既に事業で利益を出している事業会社の方を対象に、オープンイノベーションにおける契約のポイントを解説します。

まず、事業会社がオープンイノベーションを進める上での基本的な考え方を解説し、他社の技術を活用する際と、自社の技術をライセンスする際の契約のポイントを順に説明します。

 

事業会社がオープンイノベーションを進める際の基本的な考え方

お互いの成長に向けてWin-Winの関係を築く

一般的な契約の交渉では、自社に有利な条件を追及することが重視されますが、オープンイノベーションは他社を含むエコシステムの成長につながることが重要です。よって、お互いの利益が最大化されるように契約内容を調整することが求められます。

例えば、事業会社がスタートアップとの共同研究で成果を総取りしてしまった場合、短期的な利益につながっても信頼は損なわれるため、次の協業相手を探すのが困難になります。オープンイノベーションは巻き込む会社が増えるほど効果が大きくなるので、信頼できる会社という評価を得ることが、長期視点では大きな成功につながります。

研究開発部門と法務・知財部門がそれぞれ連携して契約を進める

部署間で役割分担ができるのも、ある程度の規模がある事業会社の強みです。共同研究の現場で中心となるのは主に研究開発部門のメンバーですが、契約プロセスは他部署と連携しながら慎重に進めることが大切です。

例えば、技術情報やサンプルの提供に関する契約は研究開発者の独断で進めず、法務部門に契約の内容をチェックしてもらいながら進めることで、後々のトラブルを防止できます。

また、契約の前に知財部門と連携して相手の特許情報を把握しておくと、相手の権利情報と技術情報を事前に把握できます。相手から情報を引き出す労力を削減できるので、効率的に交渉を進められます。

 

オープンイノベーションで他社技術を活用する際の契約の考え方と事例

技術探索の段階では、不用意に秘密情報を取得しない

利用する技術の候補を探している段階において、他社の秘密情報を取得する際には注意が必要です。例えば、自社が事業化しようとしている技術と近い技術を持つ相手と秘密保持契約を結んだ場合、事業を進める際にその契約がトラブルの原因になる可能性があります。

また、相手から情報を得る際に、予め秘密情報を含まないことを宣言してもらう、という手もあります。例えば、P&Gのウェブサイト 「コネクト + デベロップ」では、同社が探索するテーマに関するアイデアを募集していますが、アイデア提出における取引条件(Submission Terms & Conditions)において、秘密情報の提出ではないこと(Non-confidential Submission)への同意を要求しています。アイデアの公募を検討している方には参考になるかもしれません。

契約段階では相手に一方的な条件を押し付けず、適切な対価を支払う

また、共同研究などの契約を進める際には、一方的な要求を突きつけるのではなく、適切な対価を支払うことが信頼関係の構築につながります。特に、スタートアップなど資金や人材のリソースの少ない相手と契約を結ぶ場合は、段階的に相手に対価が支払われるマイルストーン契約の考えを取り入れるなど、相手の資金ショートを防ぐ配慮が必要です。

上記のマイルストーン契約は、バイオベンチャーのペプチドリームが実践しており、同社はドイツ・バイエル社との共同研究開発におけるマイルストーン収入の受領を発表するなど、既に複数の成果を上げています。スタートアップと事業会社が適切な契約を結ぶことで、スタートアップの成長と事業会社の開発効率向上が両立できることを示した例と言えます。

 

自社技術を他社にライセンスする際の契約の考え方と事例

自社技術が相手に与えるメリットをイメージして契約を進める

他社に技術を提供することで、自社がライセンス収入などの利益を得ることはもちろん重要ですが、相手に提供できるメリットも事前にイメージしておくと、適切な協業相手を見つけやすくなります。

例えば、自社で新規開発した材料に関する技術をライセンスする場合、その材料が適用できる製品を既に量産している企業をライセンス相手として選ぶことが考えられます。相手は新製品の開発コストを削減でき、自社は量産ライン立ち上げのコストを削減できるので、両社にメリットがあります。

また、ライセンスの範囲を特定用途に限定する分、ラインセンス料は低めにに設定するなど、双方が納得できる契約内容を調整することが、継続的な協力関係の構築につながります。

互いの強みを活かした東芝とマイクロソフトのクロスライセンス契約

事業会社どうしの協業の例として、東芝とマイクロソフトのクロスライセンス契約が知られており、2005年6月27日の東芝のプレスリリースにその内容が掲載されています。東芝は主にハードウェアに関する特許を、マイクロソフトはソフトウェアやPCに関する特許を保有しており、異なる強みを持つ両社の技術を持ち寄ることで、PCや家電に関するイノベーションを加速させました。

ちなみに、この契約に至るまでの交渉の経緯はMarshall Phelps・David Kline著『マイクロソフトを変革した知財戦略』(発明協会)の第3章に詳しく書かれています。マイクロソフトの担当者が東芝との良好な関係を築くために粘り強い交渉を進める様子が描かれており、契約に関する交渉も最後は人と人との関係であることがよく分かります。契約交渉で苦労されている方は是非ご参照下さい。

 

契約を活用して信頼関係をつくり、オープンイノベーションを成功させる

ここまで、事業会社がオープンイノベーションを進めるための契約のポイントとして、Win-Winの関係づくりや部署間の連携といった基本的な考え方、他社技術の活用や自社技術の提供における考え方や参考事例を紹介しました。

事業会社はスタートアップに比べてリソースが豊富で、協業相手の選択肢も多いぶん、契約に関するプロセスも複雑になります。部署間で調整しながら、協調して成長できる相手を注意深く選び、関係を構築する地道なプロセスが必要です。

ただ、お互いに成長できる関係を構築できれば、その後の仲間づくりと事業成長が加速度的に進み、イノベーションの成功につながります。本記事がその一助になれば幸いです。

また、弊社の教材、e発明塾「アライアンスと知的財産」では、法律の基礎に加え、共同研究や共同出願の契約を成功させるための知識を幅広く紹介しています。自社のオープンイノベーション成功に向けて、是非ご活用下さい。

また、クロスライセンスなどの契約交渉において、強い特許を大量に保有することで、相手と対等な関係の構築が容易になります。弊社の実働支援サービス「企業内発明塾」では、交渉材料になる特許の取得も支援しております。ご興味を持って頂けた方は、資料ダウンロードページにてサービス紹介資料を無料提供しておりますので、ぜひご参照下さい。

 

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