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リジェネラティブ農業(環境再生型農業)の最新動向

【図解】リジェネラティブ農業(環境再生型農業)の本質と企業の事例 ~Indigo Agなど海外スタートアップの戦略を紹介

近年、温室効果ガスの削減はあらゆる産業で重要な課題になっており、農業分野でも大きなテーマになっています。そんな中、「持続可能な農業」を実現するアプローチとして注目されているのがリジェネラティブ農業(環境再生型農業)で、欧米を中心に普及し始めています。

本稿では、そもそもリジェネラティブ農業がなぜ必要で、どのような原理で環境の「再生」につながるのか、という本質的なところを図を用いて簡単に解説します。次に、リジェネラティブ農業の普及につながる事業を創出したスタートアップとして、Indigo AgとJoyn Bio、Pivot Bioの事例を紹介します。

※リジェネラティブ農業に積極的に取り組む企業の代表であるダノンの事例については以下の記事で解説しています。

【徹底解説】ダノンのSDGs達成に向けた経営戦略 ~環境再生型農業への転換と、特許から読み解くイノベーション事例の紹介

リジェネラティブ(環境再生型)農業の背景にある課題と具体的なアプローチ

近代農業は温室効果ガス排出の元凶になっている

近代農業が温室効果ガス排出の原因になる仕組みの例(農研機構の資料を参考に作成。畜産関連の排出等については割愛)

近代農業が温室効果ガス排出の原因になる仕組みの例(農研機構の資料を参考に作成。畜産関連の排出等については割愛)


リジェネラティブ農業への転換が求められる背景には、従来の農業による大量の温室効果ガス排出の課題があります。

具体的な要因として、例えば以下があげられます。

  • 化学肥料に含まれる窒素に起因する一酸化二窒素(N2O)の排出
  • 単一作物の連作により特定の栄養素が消費され、土壌栄養バランスが悪化し、さらに化学肥料が必要になる
  • 土を掘り起こす耕起により土壌中の有機炭素が分解され、CO2やメタンが発生する

これらの要因が複合的に組み合わさり、大量の温室効果ガスが排出されます。農研機構の資料によると、世界全体の温室効果ガス排出の10%は農業分野から排出されています(家畜由来の温室効果ガスを含む)。

炭素と窒素を土に戻すリジェネラティブ農業

リジェネラティブ農業のアプローチの例(Regenerative Organic AllianceのHPなどを参考に作成)

リジェネラティブ農業のアプローチの例(Regenerative Organic AllianceのHPなどを参考に作成)


上記の課題に対するシンプルな解決手段として、「空気中に排出された炭素や窒素を土に戻す」というアプローチが考えられます。それを実現するのがリジェネラティブ(Regenerative;再生)農業と呼ばれる方法で、複数のアプローチを組み合わせて土壌、水、生態系の健康状態を回復することを目標としています。

具体的なアプローチとして、例えば以下の方法が知られています。

  • 化学肥料の使用量を削減し、N2Oの排出を減らす
  • 輪作により土壌栄養バランスを改善(例えばマメ科植物を植えると土壌中の窒素が増加)
  • 不耕起栽培や省耕起栽培により土壌の構造と微生物バランスを保持
  • カバークロップ(マメ科植物など)を植えて土壌侵食の防止や土壌中の有機物増加

これらのアプローチにより、大気中の炭素や窒素を土壌中に戻すことが可能になり、「農業をするほど土壌が豊かになり、温室効果ガスも削減できる」という理想状態に近づきます。

大手食品企業もリジェネラティブ農業への転換を進めており、前出のダノンの他に、ネスレも「炭素排出ゼロの酪農場」の創出プロジェクトを進めています。

※ネスレの取り組みについては、以下の記事の後半で紹介しています。

【詳説】ネスレのSDGs戦略 ~ヘルスケア、リサイクル、酪農関連のイノベーション事例を紹介

リジェネラティブ(環境再生型)農業の普及を目指す海外スタートアップの事例 ~Indigo AgとJoyn Bio、Pivot Bioの取り組み

ただ、農家の側からすると、リジェネラティブ農業を実施するための技術を身につけるコストや、化学肥料削減による収量低下などのハードルがあります。それらのハードルを乗り越える仕組みを生み出したスタートアップの事例として、Indigo AgとJoyn Bio、Pivot Bioの取り組みを紹介します。

リジェネラティブ農業を「儲かる農業」に変革するIndigo Agのビジネスモデル

Indigo Agが構築したシステムの概要

Indigo Agが構築したシステムの概要


Indigo Agは2013年に創業した米国のスタートアップで、「植物と共生する微生物」を活用する技術を開発するバイオテック企業として事業を開始しました。同社は微生物でコーティングした種子を製品化しており、それらの種子を使うと、微生物の働きにより作物の成長スピードや耐病性が向上するため、化学肥料や農薬の使用を低減できます。

これだけでも価値のある事業ですが、Indigo Agはさらに「衛星により、輪作やカバークロップの利用などをモニタリングする技術」を用いて「土壌に吸収された炭素の量」を推定する技術を開発しました。

推定された「炭素吸収量」は、「カーボンクレジット」として取引され、得られた収益を農家に還元します。

(※カーボンクレジット:温室効果ガスの削減効果をクレジットとして発行し、取引できるようにする仕組み)

手間のかかるリジェネラティブ農業に投資した農家が「カーボンクレジット取引からの収益」を受け取ることで、投資を回収できる仕組みを構築したわけです。

「環境を回復する農業を実施した農家」がきちんと「儲かる」ためのプラットフォームを提供する優れたビジネスモデルであり、三方よしの新規事業のお手本としても参考になります。

※優れた新規事業企画のつくり方について知りたい方は、以下の記事もご参照ください。

新規事業企画書の書き方と成功事例【見本あり】 ~3つの視点で事業の魅力を伝える

新たな窒素固定細菌を創出するJoyn BioとPivot Bio

Joyn BioとPivot Bioのアプローチの概要

Joyn BioとPivot Bioのアプローチの概要


一方、空気から窒素を取り込む「窒素固定」と呼ばれる微生物の働きを利用し、化学肥料の削減を目指す企業が知られています。

Joyn Bioは、合成生物学のプラットフォーマーであるGinkgo Bioworksとバイエルが共同で出資して2017年に設立されたジョイントベンチャーで、最初の開発テーマとして「空気中から窒素を取り込み、植物に供給できる微生物の創出」に取り組んでいます。

もともと、マメ科植物は根に共生する根粒菌が窒素固定を行いますが、Joyn Bioは他の植物にも窒素を供給できる微生物を遺伝子改変により創出することを目指しています。

2022年8月のESG Journalの記事によると、Ginkgoはバイエルが所有する生物製剤研の究開発施設、チームや探索プラットフォームなどを約8300万USドルで取得することを発表しており、Joyn Bioの開発も加速しそうです。

一方Pivot Bioも、窒素固定を行う微生物の創出に取り組んでおり、こちらは土壌中から選抜した「窒素固定能力を持つ細菌」を選抜するところから開発をスタートしています。本来、それらの細菌が窒素固定を行う条件は限られていますが、同社は遺伝子組み換えにより様々な環境で窒素固定を行う微生物を開発し、その技術を特許化しています。

例えばJP2020506681A「植物形質を改善するための方法および組成物」では、土中にアンモニアなどの窒素源がある条件でも窒素固定を行う微生物の創出方法について記載されており、小麦やコメ、トウモロコシなどイネ科植物への利用が想定されています。

Pivot Bioは、ビルゲイツらが設立したBreakthrough Energy Venturesなどから累計で6億ドル以上の出資を受けており、今後の活躍が期待されています。

※Ginkgo Bioworksの経営戦略については以下の記事で解説しています。バイオ分野の事業に取り組む方はマークしておくべき企業です。

Ginkgo Bioworksの技術と経営戦略【徹底図解】~ワクチンから農業まで革新するDNA・細胞編集プラットフォーム

よりスマートなリジェネラティブ(環境再生型)農業が普及する未来に向けて

以上、リジェネラティブ農業が求められる背景にある近代農業の課題と、輪作などの具体的なアプローチ、リジェネラティブ農業の普及を加速するスタートアップの事例を紹介しました。特にIndigo Agは単なる「技術的なソリューション」だけでなく、カーボンクレジット取引を組み合わせたビジネスモデル構築にも成功しており、プラットフォーマーとしての活躍が期待できます。

また、切り口を変えれば新規参入の余地もありそうです。例えば「輪作やカバークロップ植え付け作業を自動化・省力化する」というアプローチも考えられ、「地べたのGAFAを目指す企業」として過去に紹介したクボタなど、機械系の企業にもチャンスがありそうです。

農業分野は「成功すれば世の中が良くなり、自社も成長する事業」を立ち上げる余地の多い分野なので、弊社の情報を活用しつつ、新規事業創出や、有望な企業の探索にチャレンジして頂けたら幸いです。

また、本稿で紹介し切れなかったIndigo Agの取り組みの詳細や、ネスレ・ダノンの取り組みについても、2022年秋号のイノベーション四季報でご紹介する予定です。また、弊社の無料メールマガジンでは、コラムの一歩先を行く調査や考察を毎週お届けしていますので、そちらも是非ご活用ください。

 

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
工場設備エンジニア、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。

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