前回のマイクロソフト4半期レポート(FY22Q4)では、マイクロソフトの電力供給システムについて詳しく解説しました。本記事ではマイクロソフトのFY23Q1(2023会計年度、第1四半期;2022年7月~9月)のイノベーション関連情報について、背景にある戦略も含めて簡単に解説します。
まず、マイクロソフトの各セグメントの成長に関連した動向を紹介した後、Meta(旧Facebook)やNetflixとの提携について解説します。メタバース・広告関連で業界全体に影響する動きがあったので、関連分野の方はぜひご一読下さい。
<参考:Microsoft Corporation基本情報>
ティッカーシンボル:MSFT
創立年:1975年
ウェブサイト:www.microsoft.com
この記事の内容
グラフに示したように、FY23Q1のマイクロソフトの売上高(Revenue)は昨年同期と比較して11%増加しており、AzureやGitHubなどを含むクラウド関連のセグメント(Intelligent Cloudセグメント)が成長をけん引しています。
また、FY23Q1の投資家向けConference Callによると医療ビジネスも記録的な成長を遂げており、2021年に買収したNuanceが提供するNuance DAX(医師と患者の会話を自動的に正確なドキュメントにするシステム)などが好調のようです。Nuance DAXのページによると、会話を正確に書き起こし、要約するまでのプロセスにAzureの技術が活用されており、MicrosoftとNuanceの技術を組み合わせたサービスが普及し始めています。
一方、OfficeやTeams、LinkedInなどが含まれる生産性・ビジネス(Productivity and Business Process)セグメントも伸びており、OfficeやビジネスソーシャルメディアのLinkedInが好調のようです。LinkedInは2022年6月のニュースリリースで、専門資格の認定等に関するプラットフォームのEduBriteの買収を発表しており、採用だけでなく企業のスキルアップのサービスとしても成長しています。
※Nuance買収の狙いについては以下の記事で詳しく解説しています。
パソコンやゲームなどのデバイスが含まれるPC(Personal Computing)セグメントは、全体としては売上がわずかに落ちていますが、FY23Q1の投資家向けConference Callによると拡張現実デバイスであるHoloLensの売上は伸びているようです。
2021年3月のCNBCの記事によると、マイクロソフトはアメリカ陸軍(U.S. Army)に特注のHoloLensを供給する契約を締結しており、陸軍向けの受注による収益も売上増加の要因になっていると考えられます。
ちなみに関連特許は10年以上前から出願されており、例えば2010年に出願されたUS9134534B2では、ヘッドマウント型の拡張現実デバイスの用途として、「兵士のバイタルサインに基づく警告の表示」や「軍隊ドローンの制御画面の表示」、「兵士同士や基地との通信」(上図参照)などが記載されています。戦地での様々な状況における利用方法を予め想定していることがわかります。
※HoloLensの技術については以下の記事で解説しています。
【FY22 Q2最新】マイクロソフトのメタバース戦略とカーボンネガティブ戦略 ~Activision Blizzard買収、Cloud for Sustainability公開
一方、2022年7月のマイクロソフトのニュースレターによると、同社はオーストラリア最大の通信会社であるTelstraと5年間のパートナーシップ契約を結んでおり、脱炭素を含めたサステナビリティ関連のデータ解析にMicrosoft Cloud for Sustainabilityを利用しています。
Tesltraは光ファイバーや5G回線等によるオーストラリアの通信ネットワークのインフラを構築しており、持続可能かつ高速な通信インフラの整備をマイクロソフトが継続的に支援することになりそうです。
※マイクロソフトの脱炭素戦略については以下の記事で詳しく解説しています。
マイクロソフトのカーボンネガティブ経営戦略【図解あり】 ~Azure, Climate innovation Fundの最新情報
マイクロソフトは、2022年10月のニュースリリースでMeta(旧Facebook)とのパートナーシップを発表しており、Meta Questデバイス上でマイクロソフトのTeamsやOffice(エクセルやパワーポイントなど)を利用できるプラットフォームを構築するようです。
要するに「仕事で使うWindowsパソコンのメタバース版」に近いものが提供されるようです。イメージの参考として、仮想空間でのキーボード生成に関するマイクロソフトの特許US11029845B2の内容を上図に示しました。ユーザーの動きのセンシングにより意図を予想することも考えられており、慣れれば効率的でミスの少ない文章入力ができるかもしれません。
他にも、XboxなどマイクロソフトのゲームをMeta Quest上でプレイできる仕組みの構築も準備しているようです。マイクロソフトとFacebookにより、「仕事」と「遊び」の両面でメタバースのプラットフォームが構築されそうです。
ちなみに前記のような仮想現実で使われる入力デバイスは、特許のCPC(Cooperative Patent Classification)で G06F3/04886 という区分に分類され、マイクロソフトはこの区分の特許を1872件出願していますが、Meta(Facebook)の出願件数は150件でした。
(特許分析ツールLENS.ORGで調査した結果。2022/11/08現在)
今回の提携によりマイクロソフトの特許網を活用できるなら、Metaには大きなメリットがあります。また、マイクロソフトのHoloLensは軍用など専門的な用途で実用化され始めていますが、一般ユーザー向けのデバイスをMetaが実用化すれば、マイクロソフトにとっても足りない技術を補うメリットがあります。
GAFAMの比較記事では、両社を比較して「メタバース事業を急速に拡大させるFacebookと、堅実に足場を固めるマイクロソフト」と記載しましたが、それぞれの強みを生かして協業する戦略に出たようで、今後メタバースの進化スピードがますます上がりそうです。
※ヘルスケアやメタバース分野におけるGAFAMの戦略の違いは以下の記事で解説しています。
【詳説】GAFA・マイクロソフト(GAFAM)の比較分析 ~イノベーション投資戦略とヘルスケア・メタバース分野における今後の展開
マイクロソフトは広告のイメージは強くありませんが、検索広告やLikedIn上で表示される「B2B向けの広告」などが既に大きな収益源になっています。また、2021年12月のブログでデジタル広告プラットフォームのXandrの買収を発表するなど、買収による強化も進めています。
2022年7月のマイクロソフトのブログによると、同社はNetflixの「広告サポート型サブスクリプションサービス」を強化するためのパートナーに選定されており、Netflixで配信される広告は全てマイクロソフトのプラットフォームを経由するようです。急成長しているNetflixの広告プラットフォームを牛耳ることになるので、マイクロソフトの広告事業も急成長することが予想されます。
以上、マイクロソフトのFY23Q1の動向として、各セグメントの収益増加の要因や脱炭素関連サービスの普及、MetaやNetflixなど巨大企業との提携によるメタバース事業と広告事業の拡大について解説しました。
また、HoloLensの軍事利用やMetaとの提携について関連する特許を読むと、マイクロソフトが先読みで強い特許網をつくった上で受注や提携への準備を進めていることがわかります。メタバースの普及において、企業・一般消費者向けの両方でマイクロソフトが大きな役割を果たすことになりそうです。引き続き今後の動向をウォッチしていく予定です。
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畑田康司
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