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OpenAIとの協業で飛躍するMicrosoftのAI戦略

【FY23Q2最新】OpenAIを取り込みAI時代を主導するマイクロソフトの戦略 ~GPT-3開発をリードしたAzureの今後

前回のマイクロソフト4半期レポート(FY23Q1)では、MetaやNetflixとの連携によるメタバースや広告事業の進化について解説しました。本記事ではマイクロソフトのFY23Q2(2023会計年度、第2四半期;2022年10月~12月)の最新情報とともに、AI(人工知能)に関する同社の戦略を解説します。

マイクロソフトの最近の動向として、対話型AIチャットボットのChatGPTなどを開発するOpenAIとの協業に注目が集まっていますが、本記事ではChatGPTに使われる「GPT-3」の開発におけるマイクロソフトの貢献など、これまでの経緯も紐解きつつ、同社の壮大な構想を具体的に掘り下げます。

今後、マイクロソフトはAIを使った新サービスを次々にリリースすると思いますが、背景にある思考回路を把握し、次の一手を「仕掛ける側」になりたい方はぜひご一読下さい。

<参考:Microsoft Corporation基本情報>
ティッカーシンボル:MSFT
創立年:1975年
ウェブサイト:www.microsoft.com

マイクロソフトのFY23Q2概況とAI戦略

FY2023Q2概況 ~クラウドAzureが好調

FY23Q2のマイクロソフトの事業セグメントごとの売上の前年度比(FY23Q2のEarning Releaseのデータを元に作成)

FY23Q2のマイクロソフトの事業セグメントごとの売上の前年度比(FY23Q2のEarning Releaseのデータを元に作成)

グラフに示したように、FY23Q2のマイクロソフトの売上高(Revenue)は昨年同期と比較して2%増加しており、クラウドのAzureを含むクラウド関連のセグメント(Intelligent Cloudセグメント)の伸びが圧倒的です(前年度比+17.5%)。OpenAIの技術を使ったクラウドサービス「Azure OpenAI」もこのカテゴリーに含まれます(詳細は後述)。

一方、OfficeやTeamsなどが含まれる生産性・ビジネス(Productivity and Business Process)セグメントも伸びており(前年度比+6.9%)、Teamsの月間アクティブユーザー数は2億8千万人を超えたようです。また、業務用のアプリケーション作成サービスの「Power Platform」も好調で、特に「Power Automate」と呼ばれる業務フローの自動化サービスのユーザー数は前年から50%以上増加しています。

Power Automateのページによると、例えば添付ファイルのクラウドへの保存の自動化や、特定の人からのメール受信に対応したアラームの設定などが可能

パソコンの売上は大きく減少していますが、「Covid-19によるパソコンの需要増加の波」がいったん落ち着いたことが影響しているようです。

AI時代に向けて巨大なインフラをつくるマイクロソフトの戦略

FY23Q2の投資家向けConference Callでは、OpenAIへの投資などAIに関する話題が盛り上がっており、同社がAIの時代を先導する未来が語られています。マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏は、” I think every app is going to be an AI app.”(全てのアプリケーションはAIアプリケーションになるだろう)という発言をしており、同社が全てのサービスにAIを積極的に取り入れる構想があることが読み取れます。

AIをクラウド上で利用するには、データを高速処理するデータセンターが必要ですが、マイクロソフトはアマゾン、グーグルと比較しても圧倒的な数のデータセンターを保有しています。試算も含みますが、以下に関連情報を整理します。

・マイクロソフトは200以上のデータセンターを保有(2021年4月のZDNET記事より)
・アマゾンは125以上のデータセンターを保有(2022年6月のDgtl Infra記事より)
・Google Cloud Platform(GCP)は35のデータセンターを保有(2022年9月のDgtl Infra記事より)

マイクロソフトはすでにデータセンターの数でリードしていますが、2022年2月のB2BCHIEFの記事によると、同社はインドのテランガーナ州(Telangana)に合計6つのデータセンターを建設する計画を立てており、さらに設備を増強しています。

では、データセンターを増強したマイクロソフトは具体的に何をしようとしているのか、次項で読み解きます。

※マイクロソフトはデータセンターを電力供給のインフラとして使う事業も開拓しています。以下の記事で解説しています。

【FY22 Q4最新】マイクロソフトのクラウド成長戦略と、持続可能な電力供給技術のイノベーション

Open AI・GPT-3を活用したマイクロソフトの進化

マイクロソフトとOpen AIの協業の経緯

GPT-3がリリースされるまでの経緯とAzureの関係の概要

GPT-3がリリースされるまでの経緯とAzureの関係の概要

対話型AIチャットボットのChatGPTは、GPT-3と呼ばれる言語予測モデルが使われていますが、GPT-3が生まれるまでの経緯の概要を図にまとめました。

OpenAIが開発した「GPT(Generative Pre-trained Transformer)」は名前の通りTranformerというアーキテクチャをベースにつくられています。Transformerはグーグルの人工知能専門の研究部門であるGoogle Brainのチームにより開発され、Google翻訳などに利用されています。

GPTは「Pre-trained」というワードが示すように「事前トレーニング」段階があり、Web上から抽出したテキスト情報などの膨大なデータ(トレーニングデータと呼ばれるもの)を使って学習するプロセスをもつのが特徴です。適切なアウトプットを出すために、調節可能な多数の「パラメーター」があり、パラメータが多いほど精度が向上します(詳細はGPT-2のWiipediaなど参照)。

GPT-3では、パラメータ数が一気に100倍以上に跳ねあがっていますが、ここにマイクロソフトが深く関わっています。

マイクロソフトは2020年5月のニュースリリースで、OpenAI専用に構築された、「クラウドAzure上で動くスーパーコンピューター」を提供しており、OpenAIは世界最大級の処理能力をもつスーパーコンピューターを使った開発が可能になりました。マイクロソフトは2020年9月にGPT-3モデルの独占ライセンスを取得していますが、単にライセンスを買い取ったわけではなく、「開発の基盤を提供するので、成果となるGPT-3は独占で使わせてね」というWin-Winの関係を事前に築いていたことがわかります。

AI時代のプラットフォーマになるマイクロソフト

マイクロソフトは、2023年1月のニュースリリースで、クラウドAIサービスのAzure OpenAI Servidceの一般提供開始を発表しています。具体的なサービスの例として、例えば以下が紹介されています。

・開発者がより良いコードを書けるよう支援するGitHub Copilot
・GPT-3により数式を自動生成するPower BI
・クリエイターによるイラストや画像などのコンテンツ作成を支援するMicrosoft Designer

検索エンジンのBing上でChatGPTを使える機能なども話題になっていますが、ChatGPTは変化の一端で、プログラミングやデザインの分野にもAI活用が急速に広がりそうです。マイクロソフトのAzureが全てのAIサービスの基盤になるので、同社がAI時代のプラットフォーマーとしてさらに成長することが予想されます。

AI時代を見据えたマイクロソフトの知財戦略

マイクロソフトは、データセンターなどハードウェアだけでなく、特許などの「知財」の観点でもOpenAIと相性のよい仕組みを持っています。同社の「Shared innovation initiative(シェアードイノベーションイニシアティブ)」について、弊社書籍で解説した内容を引用します。

マイクロソフトの近年の知財戦略を端的に示すものとして、2018年に発表した「シェアードイノベーションイニシアティブ」というプログラムがあります。テクノロジーの共同開発のためのIPライセンスプログラムだとHPに書かれており、簡単に言えばアライアンスのための仕組みです。マイクロソフトが提供しているAI機能が組み込まれたクラウドプラットフォーム「MicrosoftAzure」(マイクロソフトアズール)を使った共同開発の研究成果を、Azureの機能向上に自由に利用できるというものです。このプログラムでマイクロソフトは、「新たに生まれた技術や特許権、意匠権を所有することを認めるし、もちろんお宅が開発したソフトウェアを外部に販売してもええよ。だからどんどんイノベーションしてね」と言っているので、かなり気前の良いプログラムです。

弊社書籍『新規事業を量産する知財戦略: 未来を預言するアイデアで市場を独占しよう!』より

つまり、OpenAIはマイクロソフトのAzureを使って開発を進めることで、マイクロソフトの保有する大量の特許技術にもアクセスできることになります。また、マイクロソフトは特許訴訟などのサポートも行うため、OpenAIは「知財に関するリスクを気にせず開発に専念できる」というメリットを享受することができます。

このあたりも、OpenAIがマイクロソフトを選定した理由の1つになっていると推測されます。データセンターなどのインフラだけでなく、オープンイノベーションの仕組みも構築しており、マイクロソフトの経営の巧みさがわかります。

AIの高度な演算と脱炭素化を両立する未来をつくるマイクロソフトの今後

以上、マイクロソフトの最新動向として、最新の四半期(FY23Q2)の概況を説明した後、AIに関する同社の戦略を解説しました。マイクロソフトはOpen AIに「Azureの圧倒的な計算能力」と「知財の観点でも安心して開発を進められる環境」を提供し、AIの進化を加速するプラットフォーマーとしての地位を確立しつつあります。

今後、マイクロソフト自身のサービスのAI活用に加え、顧客企業へのAzure OpenAIの提供も急速に進むことが予想されます。マイクロソフトのカーボンネガティブ戦略の記事に書いたように、「脱炭素」においても同社はリーディングカンパニーです。持続可能な未来に向けて、マイクロソフトが「AIの普及によるデータ量の増加」と「持続可能性」を両立しながら成長することが期待されます。

また、AzureのライバルであるアマゾンAWSも、自動運転や工場の自動化などの分野で新技術を開発することが予想されるので、そちらも調査する予定です。データを取得するデバイスの需要も増加するので、機器メーカーの新規事業のヒントになる情報を探りたいと思います。

弊社の無料メールマガジンでは、コラムではカバーできなかったマイクロソフトが開発する技術の詳細など、より深掘りした情報をお届けしております。コラムと合わせて読むと理解が深まる内容になっているので、ぜひご活用ください。

★本記事と関連した弊社サービス

①無料メールマガジン「e発明塾通信」
材料、医療、エネルギー、保険など幅広い業界の企業が取り組む、スジの良い新規事業をわかりやすく解説しています。弊社ではマイクロソフトを10年以上調査してるので、マイクロソフト関連情報も多数発信しています。
「各企業がどんな未来に向かって進んでいるか」を具体例で理解できるので、新規事業のアイデアを出したい技術者の方だけでなく、優れた企業を見極めたい投資家の方にもご利用いただいております。
四半期レポートの更新も含め、週2回配信で最新情報をお届けしています。ぜひご活用ください。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
IT / 半導体 / 脱炭素 / スマートホーム / メタバース / モビリティ / 医療 / ヘルスケア / フードテック / 航空宇宙 / スマートコンストラクション / 両利きの経営 / 知財戦略 / 知識創造理論 / アライアンス戦略

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