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ナノインプリント実用化の最前線

【図解】ナノインプリント実用化の最前線 ~用途ごとの装置メーカーの動向と、打倒EUVに向けて限界を超えるキヤノン・キオクシアの技術

ナノインプリントは、ナノメートル単位の非常に微細なパターンが刻まれた「型」を押し付け、対象物に微細なパターンを形成する加工方法です。ASMLのコラムで紹介したEUV露光などの方法に比べてシンプルで安価に微細加工ができる技術として注目されています。

本記事では、実用化が進むナノインプリント技術の概要と主な用途について、関連する装置メーカーの動向も含めて詳しく解説します。また、後半では最もホットな話題としてキヤノン・キオクシアが開発するナノインプリントによる半導体製造プロセスを解説します。

ナノインプリント実用化の概況 ~主な用途と装置メーカーの動向

ナノインプリント技術の概要と主な方式

ナノインプリントの主な方式の概要

ナノインプリントの主な方式の概要


まず、ナノインプリントの原理と、一般的に使われる方式を解説します。
図に示したように、ナノインプリントの方式は主に以下の2つに分かれます。
 ①加熱方式:型を加熱して押し付け、冷却して固めてから離型(型を引き抜く)
 ②光(UV)方式:透過性のある型を押し付けた状態でUV光(紫外光)を照射し、樹脂(UV硬化剤)を固めてから離型

加熱方式は冷却の待ち時間があり、熱による変形などの課題もあるため、半導体材料の加工では主に光方式が利用されています。

ナノインプリントの主な用途と装置メーカー

ナノインプリントの用途と主な装置メーカー

ナノインプリントの用途と主な装置メーカー
(※資本提携など企業ごとの動向をまとめたデータは、2023年2月に出版予定のイノベーション四季報で提供します)


続いて、ナノインプリントの主な用途と、関連する装置メーカーをまとめます(上図参照)。

光学系デバイスの製造におけるナノインプリントの利用

現在、ナノインプリントの用途として最も普及しているのが光学系の分野で、具体的にはLEDやレーザーの発光部の表面構造や、光学系フィルム、微細なレンズなどにナノインプリントが使われています。ナノインプリントは「型」を使うため、「レンズの球面」「光のロスが少ないフラットな端面」など、他の方法では難しい構造が形成できることが強みになっています。

近年急速に開発が進んでいるのがAR/MRグラス用の製品(回折光学素子)で、現実空間に浮かぶように映像を表示するための光の屈折を制御するために使われます。例えば2020年6月のoptics.orgの記事によると、ナノインプリント装置メーカーのSUSS Micro Tecは、材料メーカーのMicro Resist Technology (MRT)と合弁会社を設立し、ARグラス用の回折光学素子の製造を進めています。

※AR/MRグラスが活用されるメタバース関連企業の最新動向は、以下の記事で解説しています。

【FY23Q1最新】マイクロソフトのメタバース・広告事業戦略 ~Facebook(Meta)との提携、Netflix向けで拡大する広告事業

バイオテクノロジーにおけるナノインプリントの利用

ナノインプリントにより「細胞を1つずつトラップする溝」や「一部のサイズの分子のみを通過させるフィルタ」などの微細構造を形成できるため、バイオテクノロジー分野への活用も進んでいます。

例えば装置メーカーのEV Groupが製造するナノインプリント装置は、DNAやタンパク質を解析するチップに利用されています(同社のバイオメディカル技術ソリューション資料参照)。

また、弊社代表の楠浦がCTOとして在籍していたスタートアップのSCIVAXでは、ナノインプリントにより形成した構造を細胞の三次元培養の足場として利用する技術を開発しました。SCIVAXから独立したSCIVAXライフサイエンス株式会社は、2016年にORGANOGENIX株式会社に社名変更し、JSR株式会社の100%子会社となっています(2016年12月のMedtec記事参照)。

※LED・細胞培養分野でナノインプリント技術の顧客を開拓した「技術マーケティング」の事例については以下の記事で解説しています。

技術マーケティングとは? ~ 考え方と事例を簡単に解説 ~

集積回路(IC)の製造におけるナノインプリントの利用

以前から最も期待されている用途が、メモリやロジック半導体など「集積回路(IC)」の回路パターン形成です。ただ、求められる精度や品質のハードルが他の用途よりも高く、なかなか実用化されませんでした。

例えばライトやソーラーパネルの表面にわずかな傷が入っても、全体としての機能に致命的な影響は出ませんが、集積回路の場合、回路の一部が断線すると機能しなくなることを考えると、ハードルの高さがイメージできると思います。

そのハードルを、20年近い開発期間をかけて突破しようとしているのがキヤノンで、最初の用途としてキオクシアのNANDフラッシュメモリ製造への利用が計画されています。次項で詳細を解説します。

※キヤノンが構築した「攻め」と「守り」の知財戦略については、以下の記事で解説しています。

知財戦略とは? ~考え方と成功企業の事例を簡単に解説~

ナノインプリントの限界を突破し、打倒EUVを目指すキヤノン・キオクシアの開発動向

EUVと比較したナノインプリントのメリット

ASMLのEUV露光装置とキヤノンのナノインプリント装置の構造比較(2社のHPを参考に作成)

ASMLのEUV露光装置とキヤノンのナノインプリント装置の構造比較(2社のHPを参考に作成)
※いずれの装置も検査ユニット等は省略しているので、実際はもっと複雑な機構を持つ


技術の詳細に入る前に、「そもそも、ナノインプリントを使うとどんなメリットがあるか」を整理します。

端的に言うと、ナノインプリントの最大のメリットは「EUV露光装置よりもシンプルで安い」ことです。

2022年5月のYahooファイナンスの記事によると、ASMLの次世代チップ向けのEUV露光装置の価格は約4億ドル(2023/01/16のレートで500億円以上)、重量は200トンを超えるとされ、その大きな原因が図に示したように「ナノレベルの精度が必要な多数のパーツ」が必要とされることです。また、一般的な装置では使われない「EUV(極端紫外線)光」を使うため、専用の光源と反射鏡が必要になることも、コスト増加の要因になります。

ナノインプリント装置も精度が必要な点では同様ですが、型を直接押し付けるシンプルな構造であるため、ナノレベルの精度が必要な領域は型の部分に集約されており、比較的安価に装置をつくることができます。また、装置の製造や使用に必要なコストが低いため、省エネや脱炭素化の観点でもメリットがあります。

実用化に向けた課題とキヤノンの解決手段

高精度なナノインプリントの実用化に向けてキヤノンが乗り越えた課題は、同社のHPにまとめられており、例えば以下の内容が記載されています。

  • UV硬化剤をウェハーに塗布する際の塗布分布の最適化
  • 型の微細構造に速やかに入り、かつ硬化したあとに離型しやすい材料の開発
  • 微細な異物を除去するクリーニング技術の開発
  • ナノレベルの位置ずれを補正する技術の開発

「位置ずれを補正する技術」の中で特にポイントになるのが、「型とウェハーの形状のズレを補正する技術」です。

型を押し付ける基板(ウェハー)は、前工程の熱処理などでわずかに変形しているため、型と基板を合わせる際に微妙なズレが生じます。キヤノンの特許JP5686779B2にはその解決手段として「光照射によりあえてウェハーにひずみを起こし、重ね合わせの位置ずれを補正する技術」が記載されています。

※キヤノンの特許の詳細については2023年2月に発売予定のイノベーション四季報で解説します。

これらの技術により、「1nm以下の精度で計測・補正」を行うことができ、これまで不可能だった15nm以下の線幅のパターン形成が可能になるようです。2021年9月の日経新聞記事によると、キヤノンはキオクシア、大日本印刷と共同で開発を進め、2025年にも実用化することを目指しており、今後の展開が楽しみです。

低コストで省エネルギーの製造プロセスを実現するナノインプリントの今後

以上、光学系やバイオなどナノインプリントの主な用途と装置メーカーの動向、ナノインプリントの最前線であるキヤノンの技術について解説しました。

「露光技術ではつくるのが難しい形状」を形成できる強みを活かし、光学系の用途でナノインプリント技術の普及が進みましたが、今後はバイオや集積回路の分野でも普及しそうです。今後もキヤノンとキオクシアの動向を中心に展開をウォッチしたいと思います。

また、弊社の無料メールマガジンでは、ナノインプリント技術の開発と事業化にスタートアップのCTOとして携わった楠浦の経験談など他では聞けない情報も含め、最先端の情報を毎週お届けします。教科書的な話よりも実際のビジネスで使える生々しい話を知りたい方は是非ご登録ください。

 

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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