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マイクロソフトの脱炭素に向けた経営戦略~クラウド・投資戦略も解説

マイクロソフトのカーボンネガティブ経営戦略【図解あり】 ~Azure, Climate innovation Fundの最新情報

マイクロソフトは、2020年1月に同社のブログで、「2030年までにカーボンネガティブ(毎年のCO2の除去量が排出量を上回る状態)を実現する」という目標を発表しました。

目標達成に向け、自社事業のカーボンネガティブだけでなく、顧客のカーボンネガティブ実現を支援するクラウドサービスの提供、投資ファンドの Climate innovation Fund(気候イノベーションファンド) によるスタートアップ支援など、様々な取り組みが進められています。

本記事では、カーボンネガティブに向けたマイクロソフトの具体的な戦略と打ち手を図表に整理しながら解説します。また、今後も4半期ごとの動向をウォッチし、情報を更新していくので、カーボンネガティブ関連の事業機会のネタ探しなどにご活用ください。

<参考:Microsoft Corporation基本情報>
ティッカーシンボル:MSFT
創立年:1975年
ウェブサイト:www.microsoft.com

※以下の記事ではマイクロソフトの秀逸な知財戦略を解説しています。こちらもぜひご参照下さい。

マイクロソフト特許ポートフォリオの具体例と、クラウドAuzreの知財戦略

 

マイクロソフトのカーボンネガティブに向けた取り組みの全体像と、クラウドを主軸とする経営戦略

脱炭素に関連したマイクロソフトの取り組みの全体像

カーボンネガティブに関連したマイクロソフトの取り組みの全体像

 

まず、カーボンネガティブに関連したマイクロソフトの取り組みの全体像を図にまとめてみました。
①に示した自社事業の脱炭素化が取り組みの基本になりますが、②③に示した顧客企業やスタートアップとの関わりを通じた「エコシステムづくり」が、自社にとどまらない地球規模の課題解決を可能にします。

以下、「そもそもマイクロソフトは現在どんな事業に取り組んでいるか」という背景情報と、それらの事業の脱炭素化に向けた取り組みを紹介します。

自社事業の収益の主軸はAzureなどのクラウドサービス

マイクロソフトのセグメントごとの営業利益 (Microsoft Annual Report 2021のデータを元に作成)

マイクロソフトのセグメントごとの営業利益 (Microsoft Annual Report 2021のデータを元に作成)

基本情報として、現在のマイクロソフトがどんな事業を展開しているかを確認するため、セグメントごとの営業利益(Operating Income)を表にまとめてみました。

2021年度(2020年7月〜2021年6月)の結果を見ると、Azureなどのクラウドサービスが利益額、成長率ともに最大であることが分かります。また、他のセグメントも、ハードウェアや組み込みのソフトウェアとして提供する製品はごく一部で、多くの製品がWeb経由で提供されています。

マイクロソフトはWindowsやOfficeのイメージが強いですが、現在はAzureを中心とするクラウドサービスを主体とするビジネス戦略を進めていることがわかります。

※クラウドサービスで世界トップのAWSを運営するアマゾンの戦略は以下の記事で解説しています。

アマゾンのイノベーション経営戦略とは?【最新事例解説】キャッシュフローを新規事業に再投資するビジネスモデルの今後

データサーバーを中心とする、自社事業のカーボンネガティブ達成に向けた取り組み

名称

内容

サーバーのエネルギー効率改善

サーバーの冷却方法や、チップのパフォーマンス向上のための技術開発。例えばMicrosoft Innovation Storiesの報告によると、液浸冷却技術により、5~15%の消費電力削減に成功。

100/100/0 コミットメント

2025年までに再生可能エネルギーの供給を100パーセントにすること、2030年までに電力消費量の100パーセントを二酸化炭素を排出しないエネルギーの購入で賄うこと、に対する公約。

Project Zerix

生分解性プラスチックなどの技術活用により、データセンターや他の建築物の内包二酸化炭素量・廃棄物量のネットゼロを目標としたプロジェクト。

生態系の維持・回復に配慮したデータセンター

生態系保全に配慮したデータセンターのデザインと建設。例えば、2021年のAzure Blogによると、アリゾナのデータセンターは水を使わないサーバー冷却技術を活用し、水資源の保護にも配慮して運用。

データセンターの電力供給のクリーン化戦略についてはFY22Q4のレポートで詳しく解説。

Microsoft Circular Center

サーバーのライフサイクル延長と廃棄物の削減を目標に、パーツのリサイクル等を行う施設。

炭素除去クレジットの購入

(purchases of carbon removal)

炭素を除去してから安定して貯蔵できる期間をもとに「~100年の短期(Short-term)」、「100~1000年の中期(Medium-term)」、「1000年以上の長期(Long-term)」の3つのプロジェクトに分類し、管理した上で購入。詳細はCarbon Removal Report 2021参照(p12~)

表. 自社事業のカーボンネガティブ達成に関連したマイクロソフトの主な取り組み

 

続いて、マイクロソフトがカーボンネガティブ達成に向けて具体的にどんな取り組みを行っているか、表にまとめました。データセンターの運用や建設に関するものが多く、クラウドサービスの基盤となるデータセンターがマイクロソフトの事業のコアであることがわかります。

例えば2021年4月にマイクロソフトのHPで報告されたデータサーバーの冷却技術は、低温で沸騰する液体にサーバーを沈め、気化した液体を回収・再利用することで冷却を行う技術で、従来の冷却方法に比べ5~15%の電力削減に成功しています。

他にも、データセンターの建築材料の脱炭素化や、データセンター周辺の生態系保全など、多面的な取り組みが進められています。

※材料の脱炭素化は、データセンターに限らず、持続可能な社会をつくる基盤技術として重要です。国内では三井化学が先進的な取り組みを行っており、以下の記事で紹介しています。

三井化学のSDGs戦略 ~化学の力の強みを活かした新規事業の創出事例

 

マイクロソフトのカーボンネガティブエコシステム ~クラウドサービスとClimate innovation Fund

顧客のカーボンネガティブ達成を支援するクラウドサービス、 Sustainability Calculator とCloud for Sustainability

一方、持続可能なビジネスを継続するには、顧客や関連企業の脱炭素化も進むことが不可欠です。

顧客のカーボンネガティブ支援については、クラウドサービスの提供が主な施策となっています。

例えばMicrosoft Sustainability Calculatorは、企業活動により排出される温室効果ガスの量を、製造だけでなくサプライチェーンも含めて正確に計測するクラウドサービスで、世界最大の食品加工企業であるBühler Groupなどで導入されています。

また、Microsoft Cloud for Sustainabilityは、排出量データの記録に加え、取り組みの進捗状況をリアルタイムでレポートする機能、削減に向けた取り組みの促進など様々な機能を提供しています。

アマゾンの経営戦略に関する記事では、医療や金融などの分野に機能を拡張するAmazon AWSの進化を紹介しましたが、カーボンネガティブ関連の分野ではマイクロソフトがリードしているようです。

※Cloud for Sustainabilityの最新情報や、マイクロソフトのメタバース戦略については以下の4半期レポートで解説しています

【2022Q2最新】マイクロソフトのメタバース戦略とカーボンネガティブ戦略

Climate innovation Fundによる脱炭素スタートアップへの投資

社名

事業内容

Aclima

地域ごとの大気の質と温室効果ガスの測定・分析し、環境の評価と改善を支援

AutoGrid

AIによるエネルギー関連のビッグデータ解析によりエネルギーネットワークのモニタリングや予測、最適化を行う

CarbonCure

コンクリート建材へのCO2の注入による炭素除去技術を開発するカナダのスタートアップ。2021年1月に三菱商事との業務提携に合意したことも知られている(三菱商事プレスリリースより)。

Climeworks

空気中の二酸化炭素を回収し、炭素除去する技術を開発。世界初の商業規模の再生可能な炭素回収・貯留プラントをアイスランドに建設

LanzaJet

排気ガスを捕集し、細菌を使った技術により材料や燃料を生成する技術を開発。2014年に三井物産からも出資を受けている。
FY22Q3のレポートで紹介。

NCX(Natural Capital Exchange)

あらゆる規模の土地所有者とカーボンクレジット購入者とをつなぎ、炭素マーケットプレイスへの参加を容易にするプロジェクトを手掛ける

Rheaply

使用していない装置など、活用されていない資源を再利用するためのソフトウェアを提供。

SustainCERT

カーボンクレジットの評価と認証のためのプラットフォームを提供し、炭素取引の信頼性を向上させる仕組みを開発

Twelve

空気中の二酸化炭素から燃料やレンズなどの製品をつくる技術の開発

BlocPower

老朽化した都市の建物の改装の際に、電気式ヒートポンプやソーラーパネルなど、CO2排出を低減できる設備に置き換え、エネルギー消費量の少ない生活を可能にするリフォームビジネスを行う。 FY22Q3のレポートで紹介。

表. Climate innovation Fundが投資するスタートアップの具体例

 

上記のサービスは顧客企業の支援で、主に既存の大企業を対象にしていますが、カーボンネガティブの達成には技術革新が不可欠であり、スタートアップ支援も重要な打ち手になります。

Climate innovation Fundは、炭素削減・除去技術に関連したスタートアップを支援する10億ドル規模のファンドで、多数のスタートアップに投資を行っています。

表に示したように、大気中の二酸化炭素を利用した材料や燃料の合成など脱炭素に直結する技術だけでなく、炭素取引の信頼性向上や資源利用のためのプラットフォームなど、脱炭素の市場を拡大するための仕組みづくりにも投資しています。

カーボンネガティブを実現するために必要な技術をもつ企業を次々にエコシステムに取り込んでおり、マイクロソフトの取り組みの本気度がうかがえます。

 

カーボンネガティブに向けてマイクロソフトがつくる未来と新規事業機会 ~4半期ごとの継続ウォッチ

ここまで、クラウドサービスを中心とするマイクロソフトの経営戦略と、カーボンネガティブに向けた社内外の取り組みを紹介しました。自社のデータセンターの脱炭素化と並行し、クラウドサービスによる顧客企業の脱炭素化、資金援助によるスタートアップ支援を進め、脱炭素化のエコシステムづくりをリードするマイクロソフトの戦略の全体像が見えてきたのではないかと思います。

マイクロソフトによる脱炭素化の取り組みは2020年にスタートしたばかりであり、これから10年で様々な技術革新と、市場創出が進むことが予想されます。例えば、本コラムで紹介した「液浸冷却技術」は「サーバー冷却用の液体」という材料の急速な需要拡大につながっており、3M社がその分野をリードしています。

新規事業のネタになる情報が次々にアップデートされることが予想されるので、今後も4半期ごとの動向をチェックし、記事化していく予定です。本記事では取り上げられませんでしたが、メタバースなどの分野への展開も取り上げる予定です。

コラムの更新情報は弊社の無料メールマガジンにてお知らせしますので、マイクロソフトがつくる脱炭素化の未来を把握し、新規事業創出や投資機会探索に活用したい方はぜひご登録ください。

★4半期レポート更新情報

※マイクロソフトFY22Q2のレポートを作成しました!本記事ではカバーできなかった同社のメタバース戦略についても詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。

【FY22Q2最新】マイクロソフトのメタバース戦略とカーボンネガティブ戦略

 

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★本記事と関連した弊社サービス

①無料メールマガジン「e発明塾通信」
材料、医療、エネルギー、保険など幅広い業界の企業が取り組む、スジの良い新規事業をわかりやすく解説しています。マイクロソフトの取り組みや脱炭素関連スタートアップ情報も過去に多数取り上げており、今後もアップデートしていく予定です。各社の4半期レポートの更新情報もお伝えしますので、ぜひご活用ください。
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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
工場設備エンジニア、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。

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