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Direct Air Capture(ダイレクト・エア・キャプチャー)とは

【図解】Direct Air Capture(ダイレクト・エア・キャプチャー)とは? ~実用化の課題とHeirloom Carbon・マイクロソフトの成功事例を解説

2023.9.22

「ダイレクト・エア・キャプチャー(Direct Air Capture: DAC)」は、その名の通り、大気から二酸化炭素をダイレクトに取り除く取り組みです。温室効果ガスを削減する「脱炭素化」の技術として注目されています。

本記事では、ダイレクト・エア・キャプチャーの仕組みと、実用化における課題を解説します。後半では、ダイレクト・エア・キャプチャーの実用化をリードする米国スタートアップHeirloom Carbon(Heirloom)の技術と、マイクロソフトとの協業によるビジネス戦略を解説します。脱炭素ビジネスが当たり前になる未来を具体的にイメージしたい方は、是非ご一読ください。

Direct Air Capture(ダイレクト・エア・キャプチャー)の概要と実用化の課題

ダイレクト・エア・キャプチャーによる炭素除去の仕組み

ダイレクト・エア・キャプチャーを使った炭素除去システムの概要(マイクロソフトの炭素除去レポート2021の図に追記して作成)

ダイレクト・エア・キャプチャーを使った炭素除去システムの概要(マイクロソフトの炭素除去レポート2021の図に追記して作成)


まず、ダイレクト・エア・キャプチャーによる二酸化炭素(CO2)回収の仕組みを解説します。上図のように、装置に搭載されたファンが内部に空気を送り、装置内の吸着剤がCO2を吸着することで、大気中のCO2を回収します。

吸着したCO2は加熱により分離され、圧縮して地中や海底などに永続的に貯蔵されます(※)。CO2を分離した後、吸着剤は再利用できるため、上記のプロセスを繰り返し実施することで、大量のCO2を回収できます。

ダイレクト・エア・キャプチャーはファンを使って大量の空気を集めるため、植林などの方法よりも効率よくCO2を回収できるメリットがあります。日本企業では、川崎重工業などの企業がダイレクト・エア・キャプチャー技術の開発に取り組んでいます(同社の2022年12月の資料参照)。

※CO2を岩石や水と反応させて固定し、安定的に貯留する技術はCCS(Carbon dioxide Capture and Storage;二酸化炭素回収・貯留)と呼ばれる。アイスランドのスタートアップ「Carbfix」等が開発(地球環境産業技術研究機構の2021年の資料参照)

ダイレクト・エア・キャプチャー実用化の課題

上記の理由で、ダイレクト・エア・キャプチャーは有望な炭素除去技術として期待されていますが、実用化においては以下のように複数の課題があります。

  • ファンの駆動や、吸着剤を加熱してCO2を分離する際のエネルギー消費が大きい
  • 吸着材の生産に必要な費用やエネルギー消費が大きい
  • 回収したCO2を貯蔵する際に、吸着剤などの化学物質により周囲の環境が汚染されるリスクがある

これらの課題により、多くのダイレクト・エア・キャプチャー技術は、CO2除去により得られる価値よりも、運用コストの方が大きくなっているのが現状です。ただ、これらの課題をブレークスルーする企業も登場し始めています。

次項では、ダイレクト・エア・キャプチャー技術開発をリードする米国スタートアップ「Heirloom」の技術戦略を解説します。

米スタートアップ「Heirloom」のダイレクト・エア・キャプチャー技術とビジネス戦略

Heirloom Carbon Technologiesの技術の概要

Heirloomのダイレクト・エア・キャプチャー技術の原理(同社資料の図に追記して作成)

Heirloomのダイレクト・エア・キャプチャー技術の原理(同社資料の図に追記して作成)


Heirloom Carbon Technologies(Heirloom)は2020年に設立された米国のスタートアップで、2022年3月に5300万ドルの資金調達を行っています(
PR Newswireの記事参照、マイクロソフトのファンドも出資)。

Heirloomのダイレクト・エア・キャプチャー技術は、合成した吸着剤ではなく、石灰石(炭酸カルシウム)などの自然物を使ってCO2を吸着するのが特徴です。上図のように、水酸化カルシウムに空気を流し込むことでCO2を吸着し、石灰石(CaCO3)を生成します。石灰石を加熱するとCO2を分離し、回収することができます。

酸化カルシウムや石灰石は自然に広く存在する安全な物質なので、先述の化学汚染の課題を解決できます。また、反応条件を最適化することで効率よくCO2の吸着と分離を行うことができ、エネルギー消費量も削減できます。

Heirloomとマイクロソフトによる脱炭素ビジネスの最前線

上記の技術により、Heirloomはダイレクト・エア・キャプチャーの安全性とコストの課題を解決しています。2021年5月のMIT Technology Reviewの記事によると、Heirloomは、1トンのCO2回収にかかるコストを50ドル程度に抑えることを目標としています。2022年12月のBloombergの記事のグラフによると、1トンのCO2排出削減に対して支払われる「カーボンクレジット」の相場は、50~100ユーロ程度です。コストを50ドルまで抑えることができれば、ダイレクト・エア・キャプチャーを使った脱炭素ビジネスの収益化が実現できそうです。

Heirloomの技術はマイクロソフトにも高く評価されており、2023年9月のBusiness Wireの記事によると、両社は最大31万5000トンのCO2除去に関する複数年契約を締結しています。これは、炭素除去取引の規模としては過去最大の規模で、Heirloomの技術に対する期待の大きさが伺えます。Heirloomは将来的には10億トン規模のCO2除去を目標としており、今後の活躍が楽しみです。

※WindowsやAIのイメージが強いマイクロソフトですが、実は脱炭素ビジネスでも他社を圧倒する成果を上げています。以下の記事で詳しく解説しています。

マイクロソフトのカーボンネガティブ経営戦略【図解あり】 ~Azure, Climate innovation Fundの最新情報

ダイレクト・エア・キャプチャー実用化による脱炭素ビジネスの加速

以上、ダイレクト・エア・キャプチャーの技術の概要と、コストや化学汚染などの課題、それらの課題を解決するHeirloomの技術とビジネス戦略を解説しました。マイクロソフトなど巨大企業も積極的に投資を行っており、脱炭素ビジネスの市場は急速に拡大しています。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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