ディア・アンド・カンパニー(Deere & Company)は、農業、建設、林業機械の製造を中心とする多国籍企業です。同社は、トラクターなど農業機械の分野で特に知名度が高く、「ジョン・ディア」というブランド名で世界的に知られています。
本記事では、ディア・アンド・カンパニーの強みと収益構造、IoTを活用したビジネスモデルを解説します。後半では、特許情報を元に同社のトラクターに搭載された最新技術を紹介します。Blue Riverなどスタートアップの買収戦略についても紹介するので、農業機械メーカーの最先端を知りたい方は是非ご一読ください。
<参考:Deere & Company基本情報>
ティッカーシンボル:DE
設立年:1837年
ウェブサイト:https://www.deere.com/
※乗員を必要としない最新のトラクターについては以下の記事で詳しく解説しています。
この記事の内容
まず、ディア・アンド・カンパニーの経営戦略を理解する基本情報として、同社の収益構造を整理します。上図のように収益の中心はトラクターなど農業機械関連のセグメントで、全体の3分の2程度を占めています。以下に各セグメントの概要を記載します。
ディアのコア技術は1900年代から開発しているトラクターやコンバインなどの農業機械です。ディアが開発した「ジョンディア」ブランドのトラクターは、日本では農業機械メーカーのヤンマーから販売されています。
上のグラフで示したように、農業機械の収益は近年も拡大し続けており、技術の強みを活かして成長していることがわかります。
上記の通りディアは農業機械の機構など「ハードウェア」を強みとする企業です。ただ、近年は通信機能を持つカメラなどのIoTデバイスが農業機械に搭載され、デバイスが取得した「データ」を活用したビジネスモデルを進化させています。
例えばトラクターなどの農業機械の稼働状況をモニタリングすることで、ディアは顧客が消耗品を必要とするタイミングや、トラブルの発生を把握できます。顧客は消耗品の管理やトラブル対応の手間を削減でき、ディアは消耗品やメンテナンスサービスを継続的に販売できるので、お互いにメリットがあります。
また、カメラを使った画像処理などの技術が進化することで、作物の生育状況など更に詳しいデータを取得し、サービスを高度化することが可能です。次項では、ディアの最新技術を紹介します。
※建設機械のデータビジネスの「元祖」としては、コマツのKomtraxが有名です。以下の記事で解説しています。
コマツのスマートコンストラクション戦略とは? ~KomtraxからEARTHBRAINのオープンイノベーションへと広がるIoT技術
ディアの最新の農業機械には、画像センサーを使ったモニタリングシステムが搭載されており、関連特許も幅広く出願されています。
例えばディアが2019年に出願した特許 US11381785B2 には、画像データを使って播種(種まき)を管理する技術が記載されています。トラクターを使って種をまく場合、図のように貯蔵容器から1列に並んだユニットにタネが供給され、播種が行われます。タネまき用のユニットにはセンサーが搭載されており、タネの落下をセンサーが検知したタイミングでカメラが画像を撮影し、計画通りに播種が行われているかどうかを確認します。
この技術により、播種の状況をリアルタイムで把握し、適切な間隔でタネをまくための微調整ができます。また、通信機能により遠隔で画像を確認できるので、乗員のいないトラクター(無人トラクター)を遠隔で操作する場合でも、状況を正確に把握できます。
ディアは上記のような技術開発を進めると同時に、スタートアップの買収も積極的に進めています。
例えば2017年にディアが3億5千万ドルで買収した米国スタートアップのBlue River Technologyは、画像データの機械学習(AI)に関する技術を開発しています。例えばBlue Riverの特許 US9756771B2 には、農地にある雑草の位置を画像から特定し、雑草のある場所だけに除草剤を散布する技術が記載されています。この技術を獲得することで、ディアは作物の生育だけでなく、雑草の管理も自動化することが可能になります。
他にも、代表的な買収として以下が知られています。
AI・自動運転・ロボット・環境負荷の低減など、農業機械の進化に必要な技術を次々に獲得していることがわかります。AIやセンシング技術を活用して作業の精度を上げる農業は「精密農業」と呼ばれ、ディアはその最先端をリードする農業機械メーカーと言えます。
※ちなみに弊社では5年以上前にBlue Riverの技術に注目した記事を公開しています。特許も紹介しているので、ご興味のある方は是非ご覧ください。
以上、農業機械を中心とするディア・アンド・カンパニーの収益構造とIoTを活用したビジネスモデルの革新、AI画像解析を使った最新技術を解説しました。最後に紹介したように、同社は精密農業の普及に向けたスタートアップ買収も積極的に行っており、農業技術の進化をリードする存在としてさらに活躍しそうです。
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畑田康司
TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。
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