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コマツのスマートコンストラクション戦略

コマツのスマートコンストラクション戦略とは? ~KomtraxからEARTHBRAINのオープンイノベーションへと広がるIoT技術

コマツは、建設機械の分野で国内ダントツトップ、世界でもキャタピラーに次ぐNo.2のシェアをもつグローバル企業で、IoT技術の先進企業としても知られています。コマツのIoT技術は「建設機器」のデータ管理(Komtrax)で大きな成功を納めましたが、近年では建設作業全体にIoT技術を展開する「スマートコンストラクション(Smart Construction)」へと進化しています。

本記事では、コマツのスマートコンストラクション戦略の全体像をつかんで頂くことを目標に、背景となる同社の経営戦略から具体的なイノベーションの事例まで詳しく解説します。

<参考:コマツ(登記名:株式会社 小松製作所) 基本情報>
証券コード:6301
創立年月日:1921年5月13日
資本金(連結):693億93百万円(2022年9月12日時点、米国会計基準による)

スマートコンストラクションの普及に向けたコマツの経営戦略 ~KomtraxからEARTHBRAINへ

Komtraxからスマートコンストラクションへの進化のイメージ(プロセスは簡略化したもので、イメージの参考として記載)

Komtraxからスマートコンストラクションへの進化のイメージ(プロセスは簡略化したもので、イメージの参考として記載)

 

IoTの先駆けであるKomtraxの強みを活かした建設機器事業がコマツの経営戦略の主軸

コマツの事業セグメントごとの売上高(2021年度、コマツレポート2022のデータを元に作成)

コマツの事業セグメントごとの売上高(2021年度、コマツレポート2022のデータを元に作成)

 

まず、コマツの経営戦略の概要を解説します。

コマツのセグメントごとの売上を見ると、グラフに示したように「建設機器・車両」セグメントが9割以上を占めており、経営の主軸になっています。コマツの建機事業の強みが「Komtrax」で、建設機器の稼働データをネットワーク経由で収集し、最適なタイミングで部品交換やメンテナンスを行うことを可能にする技術です。

要するに「建設機器のIoT化」を行う技術ですが、コマツは「IoT」という言葉が生まれるより前の1980年代からこの技術の開発に取り組んでおり、非常に先見性のある取り組みでした。コマツの2021年度 決算説明会資料の業績推移(p11)を見ると、Komtraxが標準装備になった2001年から2007年にかけて、売上は1兆358億円から2兆2430億円、売上高営業利益率は‐1.3%から14.8%へと急速に伸びており、Komtraxによっていかに強いビジネスモデルが構築されたかが分かります。

新会社EARTHBRAINを立ち上げ、オープンイノベーションで「スマートコンストラクション」を実現

Komtraxは「建設機器」という特定のハードウェアに限定したIoT技術ですが、コマツはそこにとどまらず、コンストラクション(建設)の作業全体をスマート化する「スマートコンストラクション」に手を広げています。

具体的には、例えば以下の工程のデータを全てクラウドサーバー経由で管理することができます(前出の図も参照)。

① ドローンにより地形データを測量し、シミュレーションにより施工計画を作成
② 施工計画に基づいた建設機械による施工の実施
③ 実施結果を再びドローンにより検査し、評価結果に基づいて次の計画を作成

全工程の自動化に踏み込んでおり、「施工と進捗管理をリモートで行う未来」に向かっていることがわかります。

2021年7月には「建設現場のデータ可視化」に特化した新会社のEARTHBRAINを、NTTドコモ、ソニーセミコンダクタソリューションズ、野村総合研究所と共同出資で設立しています。また、EARTHBRAINの前身である「株式会社ランドログ」は、NTTドコモ、SAP、オプティムと共同で設立されています(経緯の詳細はコマツのニュースルームの記事参照)。

NTTドコモは無線通信やデータ分析、オプティムはドローンによる計測技術などに優れており、コマツだけではカバーできない技術を協業により補っています。構想実現に向けてオープンイノベーションの体制を新たに構築していることからも、本気で変革を進めていることが伝わってきます。

※知財戦略に優れたスタートアップの代表格であるオプティムの戦略については、以下の記事で解説しています。

オプティムの特許戦略 ~スタートアップの知財戦略のニューノーマル

コマツのスマートコンストラクション戦略を支えるイノベーションの事例 ~先読み特許とオープンイノベーション

スマートコンストラクションへの流れを先読みしたKomtraxの特許網

Komtrax関連特許出願(特願2000-605983)の分割出願ツリー(J-PlatPatより)

Komtrax関連特許出願(特願2000-605983)の分割出願ツリー(J-PlatPatより)

先述した「KOMTRAX」特許戦略のセミナーで詳しく解説しますが、1997年ごろからKomtraxに関する特許出願が開始され、基礎となる特許が次々に権利化されています。

典型的な例が通信技術に関する「特願2000-605983」で、原出願(分割出願の元になる出願)を含めて国内だけで8件が出願され、そのうち7件が登録されています。
これらの特許により「電力消費を抑え、確実に通信を確立する技術」など、Komtraxのベースとなる技術の特許網が構築され、コマツの優位を揺るぎないものにしています。

また、後続の出願では、例えばJP4671317B2「地形形状計測装置およびガイダンス装置」に記載された「建設機械に取り付けた測定器による地形の計測」など、その後の「スマートコンストラクション」につながる技術思想も記載されています。コマツが20年以上前から先読みを行い、スマートコンストラクションの構想を地道に具現化してきたことが読み取れます。

※分割出願戦略については以下の記事でも解説しています。他社に付け入るスキを与えない強い特許網を構築したい方には必須の知識です。

【図解】分割出願テクニックと戦略 ~スタートアップ・起業家向けの戦略と、花王・コマツの事例に学ぶ周到な特許戦略を紹介

EARTHBRAINに関連した最新のイノベーション

次に、最新のイノベーションの動向として、EARTHBRAINの主要メンバーを発明者とする特許出願と、NTTドコモ(EARTHBRAINの共同設立者)の親会社であるNTTの特許出願を紹介します。

EARTHBRAINの代表取締役会長である四家千佳史氏の出願を見ると、施工現場の地形情報の把握や、施工管理システムなど、スマートコンストラクションに関連した技術に5年以上前から取り組んでいます。2020年に出願された JP2021059970A「施工管理システム」 は、「検出装置を持つ作業機械と持たない作業機械が混在する状況」での管理方法に関するもので、様々な状況に対応できる技術の開発を進めていることがわかります。

一方、NTTの最近の出願を見ると、例えば WO2022101997A1「状態推定システム、状態推定方法、状態推定装置、および、状態推定プログラム」ではドローンなどIoT機器の電波の伝わり方から周囲の環境を推定するシステムが記載されています。
また、
WO2022097314A1「破断確率推定方法」のように、鋼材の破損を予測するシミュレーション技術も出願されており、「通信技術だけでなく通信インフラについても積極的な技術開発をしており、ハードウェアの知見も持っている」というNTTの強みがわかります。

コマツの施工システムに関する強みと、NTTの通信やデータ分析に関する強みを組み合わせることで、スマートコンストラクションの強力なプラットフォーム構築が進みそうです。

子会社のギガフォトンは半導体分野で活躍

スマートコンストラクションからは脱線ですが、コマツの子会社であるギガフォトンは、半導体の製造に使われる露光装置用の光源メーカーで、「エキシマレーザー」と呼ばれる光源を製造・販売しています。近年、露光装置は「EUV光源」と呼ばれる波長の短い光源を使い、さらに微細化が進んでいますが、ギガフォトンはEUV光源を製造できる世界に2つのメーカーの1つとして知られています(もう一社はASML子会社のCymer)。

EUV光源を用いた露光技術は現在ASMLが独占していますが、今後ギガフォトンの技術がどのように活用されるかも注目が集まっています。

※半導体の微細化を主導するASMLの技術については以下の記事で詳しく解説しています。

【図解】ASMLのEUV露光技術と半導体微細化に向けた今後の戦略 ~技術の基礎から収益構造まで詳しく解説

IoTの先駆者であるコマツがつくるスマートコンストラクションの今後

以上、コマツのスマートコンストラクション戦略について、背景にあるコマツの経営戦略とEARTHBRAIN設立に至る流れ、スマートコンストラクションに関連したコマツの特許網、EARTHBRAINに関連した技術について簡単に紹介しました。構想を実現するために、異なる強みを持つ相手とオープンイノベーションを進めている点でも先進的な取り組みであり、応援したくなります。

コマツは海外の売上比率が高いグローバル企業なので、世界の建設事業を刷新するプラットフォームとして広がることを期待しています。

ちなみに弊社代表の楠浦は、コマツで「風車のIoT技術」に関する新規事業を手掛けた経験があり、そのあたりの話も先述した「KOMTRAX」特許戦略のセミナーで紹介させて頂きます。当時のIoTなど「これから普及する技術を先読みした新規事業のつくり方」としても参考にして頂けると思います。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
工場設備エンジニア、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。

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