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フライホイール蓄電によるEV急速充電

【図解】フライホイール蓄電の仕組みとメリット・デメリット ~ZOOZ, TeraloopによるEV急速充電システムへの活用事例を解説

発明塾セミナー:電動化・自動運転普及に向けてデンソー・ボッシュはどう事業を変革するか?

各国で電気自動車(EV)の普及が進んでいますが、「充電の待ち時間」が大きな課題となっており、「急速充電」の技術に対するニーズが高まっています。

本記事では、EVの急速充電に最適な技術として注目されている「フライホイール蓄電」について、仕組みと、他の技術と比較したメリット・デメリット、ZOOZ PowerやTeraloopなどのスタートアップによる具体的な開発の事例を解説します。

※EVの市場を切り開いたテスラの知財戦略については、以下の記事で解説しています。

テスラの特許と知財戦略を調べてみた

フライホイール蓄電の仕組みとメリット・デメリット

フライホイール蓄電の仕組み

フライホイールの構造の概要(Pullen, 2019 の図に追記して作成)

フライホイールの構造の概要(Pullen, 2019 の図に追記して作成)

 

フライホイール蓄電とは、電力を物理的な「回転運動」に変換することで保存する蓄電方法です。まず、フライホイールの具体的な構造を説明します。

フライホイールは、簡単に言うと「摩擦抵抗を限りなく小さくしたモーター」をケースに入れたような構造を持っています(上図参照)。回転軸の支えになるベアリングは磁石の浮力などを使って摩擦抵抗をゼロ付近まで下げています。また、ケースの内部は真空状態にし、空気抵抗の影響をゼロに近づけています。

図の上部に示した「コンバーター」が、モータージェネレータ(MG、緑の部分)とケーブルで接続されており、充電と放電の制御を行います。

充電の際は、外部からの電力をMGに供給し、MGの回転数が増加します。ここまでは、電力を供給してモーターが回るのと同様の動きです。ただ、モーターと違ってフライホイールは摩擦抵抗が極めて小さいので、「充電を止めても減速せずに回転し続ける」ことができます。つまり、電力を「高速回転」に変換してとどめる(蓄電する)ことができます。

放電の際は、コンバータが逆に電力を放出するように制御を行い、MGの回転数を減少させます。回転速度の減少に応じて放出された電力が外部に供給されるため、電気自動車のバッテリーなどの充電に使うことができます。

放出される電力は回転速度の2乗に比例するため、回転速度の最大値を大きくできれば、非常に大きな電力を短時間で取りだすことができます。

※コンバータにも使われている「パワー半導体」については以下の記事で詳しく解説しています。

【詳説】次世代SiC(シリコンカーバイド)パワー半導体メーカー比較分析 ~電気自動車(EV)市場拡大に向けた技術・特許戦略とは?

フライホイール蓄電のメリット・デメリット

リチウムイオンバッテリーとフライホイール蓄電の比較

リチウムイオンバッテリーとフライホイール蓄電の比較

 

現時点では、電気自動車(EV)の充電システムなどで使われる蓄電池はリチウムイオンバッテリーが主流です。ただ、上図のようにフライホイール蓄電には複数の観点でアドバンテージがあります。以下にフライホイール蓄電のメリットとデメリットを整理します。

<メリット>
・低温、高温などの環境耐性や、長期間の使用に対する耐久性が高い
・エネルギー効率が90%程度で、リチウムイオンバッテリー(一般的に約80%)より優れている
・短時間で大きな電力を供給でき、急速充電に適している(リチウムイオンの化学エネルギーは化学反応のスピードによる制限がある)

<デメリット>
・リチウムイオンバッテリーに比べて量産化が進んでいないため、製造コストの課題がある
・サイズの大きいローターを高速回転させるため、安全面で対策が必要
・ローターの軽量化、摩擦抵抗の低減などの技術的な課題をクリアする必要がある

フライホイールは急速充電に加え、エネルギー効率や耐久性など、EVの急速充電システムに必要な特徴を兼ね備えていることがわかります。

デメリットもありますが、耐久性が高いため、製造コストの課題は長期利用でクリアすることが可能です。また、安全面や他の技術的課題も、企業の技術革新により解決されつつあります。

次項では具体例として、フライホイール蓄電によるEVの急速充電システムを実用化する海外スタートアップの動向を解説します。

フライホイール蓄電によるEVの急速充電システム構築に挑む海外スタートアップの事例

上場したフライホイール蓄電スタートアップ「ZOOZ Power」の技術

ZOOZ Powerのフライホイール蓄電システムの概要(同社の投資家向けプレゼン資料の図に追記して作成)

ZOOZ Powerのフライホイール蓄電システムの概要(同社の投資家向けプレゼン資料の図に追記して作成)

 

イスラエルのZOOZ Power(旧Chakratec)は、イスラエルと米国・欧州でフライホイール蓄電によるEV充電システム構築に取り組んでいます。2013年に創業したスタートアップですが、2021年にイスラエルのテルアビブ証券取引所に上場しています。

同社のフライホイール蓄電システム(ZOOZTER™-100)は、上図のように8個のフライホイールをボックスに格納したコンパクトな構造です。ボックスから充電ユニットに電力を供給し、EVの充電を15分程度の短時間で完了できます。

2022年12月のNasdaqの記事によると、ZOOZは米国のEV充電装置会社であるBlink Chargingと販売契約を結んでいます。2023年の第2四半期からパイロットサイトの運用が開始される見込みです。ZOOZの2023年の投資家向けプレゼン資料によると欧州での導入も開始しており、フライホイール蓄電システム普及の先駆けになりそうです。

埋め込み型のフライホイール蓄電ユニットを開発する「Teraloop」

Teraloopのフライホイール蓄電システムの概要(同社資料の図に追記して作成)

Teraloopのフライホイール蓄電システムの概要(同社資料の図に追記して作成)

 

一方、フィンランドのスタートアップ「Teraloop」は、地下に保管できるフライホイール蓄電システムを開発しています。2017年には、日本の安川電機からも出資を受けています(安川電機レポート参照)。Teraloopのフライホイールは、上図のようにドーナツ状のハウジングの円周に沿ってローターが回転する構造になっています(構造の詳細は同社の特許出願US20170149279A1参照)。

フライホイールのドーナツ形状を大きくすることで大量の電力を蓄積することができます。また、地中に埋め込むことができるので、スペースの無駄が少ない急速充電システムが構築できます。

ZOOZのシステムに比べると複雑で、開発に時間がかかりそうですが、拡張性のあるシステムとして期待が集まっています。

フライホイール蓄電によるEV市場成長の加速

以上、電力を回転エネルギーとして蓄積するフライホイール蓄電システムの仕組みと、メリット・デメリット、実用化をリードするZOOZ Powerや、拡張性のある技術を開拓するTeraloopなどのスタートアップの事例を紹介しました。

フライホイール蓄電は古くからある技術ですが、EVの普及が急速に進む中で、「急速充電システム」としての価値が再認識されています。クルマの進化によりインフラに必要な技術も変化し、新たな市場が生まれる事例としても参考になります。EVの普及に関連した最新動向は弊社調査レポート「イノベーション四季報」の2023年夏号で解説する予定です。

また、弊社の無料メールマガジンでは、代表の楠浦による調査結果を毎週配信しています。同メールマガジンでは先んじて、フライホイール蓄電の情報をお伝えしておりました。

楠浦はカワサキでバイク設計を統括した経験もあり、モビリティの進化についてより踏み込んだ情報を提供しています。イノベーション四季報の出版情報や、コラムの更新情報もメルマガでお知らせするので、最新情報キャッチアップのツールとしてぜひご活用ください。

 

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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