スーパーキャパシタ(ウルトラキャパシタ、電気二重層コンデンサとも呼ばれる)は、急速充電・放電が可能な蓄電デバイスです。近年、グラフェンやカーボンナノチューブ(CNT)などのカーボン材料を用いた電極の利用により、性能が急速に向上しています。
本記事では、カーボン電極を用いたスーパーキャパシタの仕組みと、メリット・デメリットを解説します。後半では、スーパーキャパシタの実用化に取り組む海外スタートアップの事例としてSkeleton TechnologiesとNAWA Technologiesを紹介し、開発の最前線をお伝えします。
この記事の内容
カーボン電極を使ったスーパーキャパシタ(電気二重層コンデンサ)の仕組み
まず、スーパーキャパシタ(電気二重層コンデンサ)の仕組みを上図にまとめました。
カーボン電極は金属板の表面に形成されており、電荷を保持する役割をもちます。充電器から電圧を加えると、内部の2つのカーボン電極の表面がそれぞれプラス・マイナスに帯電します。次に、内部に満たされた電解液中のマイナス・プラスイオンが引き寄せられ、電極の表面に集まります。
このとき、表面に保持できるイオンの量がスーパーキャパシタの容量を決めます。表面形状が複雑なほど表面積が広くなるので、多くのイオンを保持することができ、性能が向上します。
外部に電気を供給する給電時には、蓄積した電荷が開放され、電流が流れます。溜まっていた静電気が放電するのに似たメカニズムで、電気の供給が行われます。
中央のセパレータは、左右の電極の間でショートが起きてしまうことを防ぐ役割を持ちます。また、微細な穴があり、キャパシタ内でイオンが移動できる構造になっています。
グラフェンとカーボンナノチューブの構造(それぞれGrapheneのWikipedia、Carbon nanotubeのWikipediaより)
では、なぜ上記の電極の材料として、「カーボン」が最適と言えるのでしょうか?
電極材料としてのカーボンのメリットとして、以下があげられます。
「ナノレベルの隙間のある構造で、安定性は高くて繰り返し使える」というのがポイントです。現在、電極に使うカーボン材料として主流になっているのが、グラフェンとカーボンナノチューブです。それぞれ上図のようなナノ構造を持ち、いずれも物理的・化学的に安定しています。
電池ではありませんが、カーボン材料の「活性炭」が部屋の消臭剤に使われるのはよく知られています。活性炭は非常に複雑な立体構造をもつため表面積が広く、多くの匂い物質を吸着できます。スーパーキャパシタも、このようなカーボン材料の特性を活かしています。
カーボン材料を立体的に電極上に並べることで、安定性と電気容量に優れたスーパーキャパシタをつくることが可能です。
スーパーキャパシタのメリットとデメリット(リチウムイオンバッテリーとの比較)
続いて、スーパーキャパシタのメリットとデメリットを解説します。
リチウムイオンバッテリーと比較したスーパーキャパシタのメリットとして以下の内容があげられます。
多くのメリットがありますが、すべてのバッテリーをスーパーキャパシタに切り替えることはできません。理由として、以下のデメリットがあります。
例えばテスラのEV(Model3)に使われるメインバッテリーの容量は約80kWhですが、後述するNAWA Technologies社のスーパーキャパシタの容量はその1%以下の0.1 kWhです。現時点ではスーパーキャパシタを「長距離を走るEVのメインバッテリー」として使うのは難しそうです。
ただ、EVなどの「電動モビリティ」分野でも、スーパーキャパシタに適した用途を見つけて成功する企業が登場しています。次項では、スーパーキャパシタを実用化する海外スタートアップを紹介します。
※EVにとどまらず、クリーンエネルギー技術のプラットフォームをつくるテスラの特許戦略は以下の記事で解説しています。
Skeleton Technologiesのスーパーキャパシタ(同社の自動車関連の資料の図に追記して作成)
ドイツのバッテリー関連スタートアップである「Skeleton Technologies」は、電極にグラフェンを使ったスーパーキャパシタを製造・販売しています。電気自動車(EV)向けでは、12Vの電源供給を行う「鉛蓄電池」の代替品として使われるスーパーキャパシタを開発しています(上図参照)。
鉛蓄電池はテスラのEVにも搭載されており、カーナビやドライブレコーダーの電源として使われています。しかし、鉛蓄電池は毒性のある鉛を使うため、安全性の問題があること、充放電の繰り返しにより劣化しやすいことが課題となっています。
Skeleton Technologiesのスーパーキャパシタはカーボンを使うため安全性の問題がなく、充放電の繰り返しにも強いので、上記の課題を一挙に解決できます。鉛蓄電池は2年程度で交換が必要になるケースが多いようですが、Skeleton Technologiesの資料によるとスーパーキャパシタは15年以上使うことが可能です。
カーボンナノチューブを用いた電極の外観(NAWA Technologiesの特許出願JP2021535075A の図に追記して作成)
一方、フランスのスタートアップである「NAWA technologies」は、カーボンナノチューブを使ったスーパーキャパシタを製造しています。電極は上図のように、アルミニウムの支持電極の上に大量のカーボンナノチューブが垂直に並んだ構造をとっています。
グラフェンを使ったスーパーキャパシタは、「バインダー」と呼ばれる材料(※)をグラフェンと「混ぜて」から支持電極に「塗る」という工程が必要です。しかし、NAWA Technologiesの電極は、支持電極上にカーボンナノチューブを直接形成することで、バインダーを使わずに製造することができます(製造方法の詳細は同社の特許出願JP2021535075A 参照)。また、カーボンナノチューブが真っすぐ並んでいるので、電気を流す際のロスが少なく、非常に効率よく充電・給電を行うことができます。
※バインダー:炭素材料と混合して使う材料で、有機溶媒などを使う「有機系」と、チレン・ブタジエンゴムなどを使う「水系」の二種類がある。バインダーと炭素材料を混ぜたものは「スラリー」と呼ばれる
2019年12月のNew Atlasの記事によると、NAWA Technologiesのスーパーキャパシタを搭載した電動バイクがすでに実用化されています。電動バイクのメインバッテリーはリチウム電池ですが、ブレーキの減速で生じるエネルギーを回収し、再利用するバッテリーとしてスーパーキャパシタが活用されています。同社はこのシステムにより、電動バイクの走行距離を1.7倍程度まで伸ばすことに成功しています。
上記のように、EVの低電圧バッテリーや、バイクなど小型の電動モビリティではスーパーキャパシタの実用化が進んでいます。今後、さらに大容量化が進み、用途も広がることが期待できます。
※バッテリー容量の小さい超小型EVの普及については、以下の記事で解説しています。
ここまで、カーボン電極を使ったスーパーキャパシタの仕組みとメリット・デメリット、海外の事例を紹介しました。Skeleton Technologies、NAWA Technologiesなどのスタートアップにより、EVの12V電源や電動バイクの補助的なバッテリーとしてスーパーキャパシタが実用化されています。EVを始めとする電動モビリティの進化において、スーパーキャパシタは重要な役割を担うことになりそうです。
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畑田康司
TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。その経験を会社の仕事にも活かし、「起業家向け発明塾」では起業に向けた発明の創出と実用化・事業化を支援している。
あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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