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超小型EVの定義と市場動向

超小型EV(マイクロEV)とは? ~EVやマイクロモビリティとの違いと欧州市場における成功要因を考察

本記事では、電気を用いた自動車(電動車)の中で「超小型EV(マイクロEV)」にフォーカスし、定義と市場動向を解説します。日本ではあまり認知されていませんが、欧州ではすでに市場を急速に拡大しており、ガソリン車からEVへのシフトを牽引しています。

前半では、超小型EVの特徴と、欧州のEV市場における成功事例を紹介します。後半では、「なぜ日米ではなく、欧州で先に超小型EV市場が拡大したか?」について考察した後、日本で超小型EV市場が拡大するための条件を考察します。

超小型EV(マイクロEV)とは? ~EVやマイクロモビリティとの違い

超小型EV(マイクロEV)の定義

一般的なEVと超小型EV、マイクロモビリティの比較(写真はそれぞれの車種のWikipediaより)

一般的なEVと超小型EV、マイクロモビリティの比較(写真はそれぞれの車種のWikipediaより)
※他にも「小型モビリティ」など様々な呼び方があるが、厳密な定義は定まっていない

 

まず、「超小型EV(マイクロEV)」の定義を、他のカテゴリーと比較しながら整理します(上図参照)。EV、超小型EV、電動マイクロモビリティの3つのカテゴリーについて、以下のように定義できます。

①EV(電気自動車)
・速度や乗車人数などの点で一般的な乗用車と同程度の性能を持つ電気自動車(加速性能などでは優位性あり)
・代表例としてテスラの「Model3」、ボルボのPolestar 3 などが知られている

②超小型EV(IGI Globalの定義、Loustric & Matyas, 2020 参照)
・1 人乗りまたは 2 人乗りの小サイズの電気自動車で、100万円以下の安価なモデルが多い
・出力 4〜10 KWh のバッテリーを搭載
・一般のEVと比較して最高速度が制限される

③電動マイクロモビリティ(2019年のITDPのレポートより)
・低速度(自転車に相当)、小型、軽量で、通常は短距離移動に使われる電動交通手段
・1人乗りの電動アシスト付き自転車や、電動キックボードなどが含まれる

※ITDP:INSTITUTE FOR TRANSPORTATION & DEVELOPMENT POLICYの略。持続可能で公平な交通を促進する活動を行う米国の非営利団体

上記③に含まれる「電動キックボード」は日本でも話題になっており、自転車よりコンパクトな移動手段として、徐々に広がっています。

一方、②の超小型EVは、いわばEVとマイクロモビリティの「中間的な存在」で、「環境にやさしいミニカー」のようなクルマが含まれます。上図に示したシトロエン社の「AMI」などの超小型EVが、欧州では急速に普及しています。次項ではAMIの性能とメリットを掘り下げます。

※シトロエンは欧州の多国籍企業「ステランティス(Stellantis)」の子会社

欧州でヒットした超小型EV「AMI」の性能

テスラ「Model3」(RWD)とシトロエン「AMI」の仕様比較

テスラ「Model3」(RWD)とシトロエン「AMI」の仕様比較
Model3のHPAutoevolution.comのデータを元に作成(価格は2023年6月2日時点のレートを元に試算)
※航続距離は1回の充電あたりの最大走行距離

 

上図にテスラのEVである「Model3」と、シトロエンの超小型EV「AMI」の仕様を整理しました。Model3の最高速度は250 km/h 以上で、高速道路を使った長距離移動にも対応しています。一方、AMIの最高速度は45 km/h で、通勤や買い物など「自宅近郊での利用」にフォーカスした仕様になっています。「雨がしのげて、収納スペースもある原付」くらいの位置づけのようです。

2022年7月のステランティスのリリースによると、AMIはフランスで1万3千以上、欧州全体では2万2千台以上の受注を獲得しています。AMIの投入により、フランスの超小型EV市場は9.7%拡大したとされており、EVの普及を牽引する存在になっています。

また、AMIに限らず、欧州全体で超小型EVの市場が広がっています。Stella Market Researchのレポートによると、2021年には33億ドル程度だった欧州の超小型EV市場は、2027年には約2倍の67億ドル程度まで成長することが予想されています。

「EV」というと米国のテスラのイメージが強いですが、超小型EVについては米国よりも欧州で先に普及が広がっているようです。次項では、「そもそもなぜ超小型が欧州で先に普及したか?」について多面的に考察します。

超小型EV市場が欧州で先に普及したのはなぜか?日本で普及するには?

欧州は地理的に米国より超小型EV市場にフィットしている

各国の人口、面積、人口密度(Wikipediaのデータをもとに作成)

各国の人口、面積、人口密度(Wikipediaのデータをもとに作成)

 

まず、各国の地理的な条件を比較します。

上図に示したように、欧州の国々は米国に比べると面積が狭く、人口密度が高い傾向があります。米国は広大で長距離移動が必要な州が多いため、超小型EVの事業立ち上げには向かない面があると考えられます。

また、米国とフランスの通勤距離について調べたところ、以下のデータが得られました。
Zippaの記事によると、米国の1日当たりの通勤距離は往復で平均41マイル(約65㎞)
Statistaのデータによると、フランスの51%の人の「職場への往復の移動距離」は平均14㎞以下で、100㎞を超える人はわずか2%

先述の通り、AMIは1回の充電で最大75㎞走行可能です。上のデータをみると、フランスであれば職場への移動に十分な距離と言えます。

超小型EVは欧州の生活スタイルにフィットしていたため、米国より先に普及したと考えられます。

※欧州に匹敵するスピードで成長する「中国の超小型EV市場」については、イノベーション四季報の2023年夏号で解説する予定です。リリース時期は弊社メールマガジンでお伝えします

日本と欧州の法規制の違い

AMIを含む超小型EVに乗車できる条件の比較(日本の法規制についてはWikipediaのEuropean Driving Licenceとの項を参照)

AMIを含む超小型EVに乗車できる条件の比較(日本の法規制についてはWikipediaのEuropean Driving Licenceとの項を参照)

 

他方、日本は「AMI」がヒットしたフランスよりも人口密度が高く、超小型EVのニーズはありそうです。なぜ普及が遅れているのでしょうか?

様々な要因が考えられますが、法規制の違いによる影響は大きいと思われます。上図に示したように、フランスでは14歳以上であれば免許なしでAMIなどの超小型EVに乗車可能です。また、他の欧州の地域では基本的に16歳以上で、該当する区分のライセンスを取得すれば超小型EVに乗車可能です。

つまり、欧州では中高生でも超小型EVを使って通学することができるため、進学などのタイミングが超小型EVを購入する機会になります。家族が買い物に行く際にも使えるので、1台買ってもいいかな、と思うのは自然な流れでしょう。

一方、日本では道路交通法令により4輪の超小型EVも「普通自動車」として扱われるため、普通自動車免許を取得する必要があります。手間と費用を考えると、超小型EVに乗るためにわざわざ免許を取る、という人は少ないと思われます。

超小型EVの市場拡大におけるポイント

超小型モビリティの市場規模推定(国土交通省の2017年の資料に追記して作成)

超小型モビリティの市場規模推定(国土交通省の2017年の資料に追記して作成)

 

最後に、超小型EV市場を拡大するためのポイントを考察します。

上図は、国土交通省の資料における超小型モビリティ(原付なども含む)の市場規模を推定したものです。用途ごとに利用される台数を推定しており、「近距離の日常的な交通手段」を用途とする台数の合計が約1158万台で、観光や業務用など他の用途の約135万台を圧倒的に上回っています。

つまり、通勤や通学などで日常的に利用されるようにならないと、超小型EVの市場が大きく拡大することはなさそうです。2022年7月のResponse.jpの記事によると、先述のAMIも、顧客の83%は個人顧客のようです。

日本でも、法規制の緩和など、一般消費者が購入しやすい環境を整えることで、超小型EVの市場が広がるかもしれません。

超小型EV市場の今後

ここまで、超小型EVについて、一般的な定義と、欧州でヒットしたシトロエン「AMI」の特徴、米国や日本より先に欧州で普及した理由を考察しました。最後に考察したように、日本では法規制の課題がありますが、今後は法改正などにより状況が変化するかもしれません。

本記事では欧州の事例を中心に解説しましたが、中国でも上海などで超小型EVの市場が拡大しています。また、日本でもヤマハ発動機などの企業がニッチなマイクロモビリティの市場で活躍しています。そのあたりの動向は、イノベーション四季報の2023年夏号で解説する予定です。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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