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マジックリープの経営戦略と技術戦略、特許網

マジックリープ(Magic Leap)の経営戦略 ~資金調達、AR技術開発、特許戦略をまとめて解説

米国のマジックリープ(Magic Leap)は2010年にRony Abovitz氏が設立したスタートアップで、現実世界に3D画像を重ね合わせるAR(Augumented Reality:拡張現実)技術を開発しています。AR技術の開発をリードする企業ですが、同社の実態はあまり知られていません。

本記事では、マジックリープに関する情報を整理し、同社の全体像を浮き彫りにします。まず、マジックリープ設立の経緯と経営戦略の変遷を紹介した後、同社の技術と特許戦略について解説します。

マジックリープ設立の背景と経営戦略の変遷

マジックリープ設立の背景と目標

ARグラスによるアプリ操作のイメージ

ARグラスによるアプリ操作のイメージ

マジックリープ創業者のAbovitz氏は複数のスタートアップを立ち上げた「シリアルアントレプレナー」で、マジックリープ創業より前の2004年に、手術ロボット関連スタートアップの「Mako Surgical」を立ち上げています。Mako は2013年に米国のストライカーに買収されており、Aboviz氏は買収で得た資金を使ってマジックリープの設立とデバイス開発を進めたようです(2016年11月のForbes記事参照)。

マジックリープ設立当初の目標は、AR技術により「従来のメディアに束縛されない視覚体験を提供すること」でした。ARは現実世界に仮想の映像を重ねて表示できるので、例えばスマートフォンのディスプレイを見なくても、空間でアプリを操作することが可能です(上図参照)。

上記の構想は投資家からも注目を集め、マジックリープは初期の段階から、グーグルなどの大企業から多額の出資を受けることに成功しています。

マジックリープの資金調達と経営戦略の変遷

マジックリープの資金調達一覧(企業データベースのCrunchbaseのデータを元に作成)

マジックリープの資金調達一覧(企業データベースのCrunchbaseのデータを元に作成)

続いて、マジックリープの資金調達に関する情報を整理します。同社は2014年以降、上図に示したように大型の資金調達を繰り返し成功させています。

先述したグーグルの他にも、アリババや政府系の投資ファンドなど様々な企業から出資を受けて開発を進め、2018年に最初のARデバイス「Magic Leap One」をリリースしています。Magic Leap One は一般消費者向けのデバイスとして発売されましたが、売上は期待ほど伸びず、2019年の出荷台数は法人向けを合わせても10万台程度だったようです(2021年3月のWired記事参照)

上記の失敗を踏まえ、マジックリープは2021年10月のリリースで、エンタープライズ向け(BtoB)領域にフォーカスする方針を打ち出しています。注力する分野として「医療、トレーニング、製造、防衛、公共部門」をあげています。

特に医療向けの開発が積極的に進められており、マジックリープの2023年1月のリリースによると、同社の最新のARデバイス「Magic Leap 2」は医療機器の規格である「IEC 60601」を取得しています。

マジックリープの技術と特許戦略

マジックリープのデバイスの構造

Magic Leap Oneの外観とアイトラッキング用のパーツ(全体の外観は通販サイトaniwaaより。右側の内部構造は IFIXIT.com の分解レポートより)

Magic Leap Oneの外観とアイトラッキング用のパーツ(全体の外観は通販サイトaniwaaより。右側の内部構造は IFIXIT.com の分解レポートより)

続いて、マジックリープのデバイスの具体的な構造を見ていきます。

上図に、Magic Leap One の概要を示しました。メガネのレンズにあたる部分の周辺に赤外線LEDが、下側に赤外線カメラが搭載されています。赤外線LEDをユーザーの眼に照射し、赤外線カメラで眼の動きを観察することで、視線をトラッキング(追跡)できます。可視光を使わないので、ユーザーの視覚に影響を与えないのがポイントです。

レンズの側面の部分に映像を表示する液晶や、レンズなどの光学系パーツが搭載されています。ユーザーの網膜に直接映像を投影することで、ユーザーに仮想の映像を視認させることができます。

マジックリープの特許網とライセンス戦略

マジックリープの特許出願件数(LENS.ORGで解析, 2023/05/17現在)

マジックリープの特許出願件数(LENS.ORGで解析, 2023/05/17現在)

マジックリープは特許網の構築も徹底的に進めています。同社の特許出願件数を見ると、上図のように2017年ごろから増加を続けています。

内容はARデバイスの構造に関するものが中心ですが、特定の用途に絞った利用方法に関する特許も多数出願されています。例えば、2020年に出願した JP2023502927A には、外科手術にARデバイスを利用する方法が記載されており、医療分野に特化した技術の権利化も積極的に進めていることがわかります。

また、マジックリープは2020年に創業者のAbovitz氏がCEOを退き、マイクロソフト出身のPeggy Johnson氏が新CEOに就任しています。2022年12月のリリースで、Peggy氏は他社に知的財産をライセンス供与する計画に言及しています。Peggy氏の所属していたマイクロソフトは、知財戦略のトップ企業として知られており、マジックリープにおける特許網の活用も進むことが予想されます。

関連するニュースとして、2023年5月のGadget Gateの記事で、Meta(旧Facebook)がマジックリープと契約を結ぶ交渉を進めていることが報じられています。マジックリープはMetaより長期にわたりメタバース機器を開発しているので、技術や特許の面で優位性があります。メタバース市場において、マジックリープはGAFAMに並ぶキープレーヤーになるかもしれません。

※※マイクロソフトの知財戦略については以下の記事で解説しています。

マイクロソフト特許ポートフォリオの具体例と、クラウドAuzreの知財戦略

メタバースの未来をつくるマジックリープの今後

ここまで、マジックリープの創業から現在に至る経営戦略の変遷と、同社のARデバイスの概要、重厚な特許網を活用したライセンス戦略について解説しました。地道な開発と特許網構築を進めた成果として、医療機器認証の取得や他社への技術供与などが進んでおり、今後のマジックリープの活躍が楽しみです。

本記事で紹介し切れなかった「マジックリープの入念な分割出願戦略」や、マイクロソフトのHoloLensの最新動向については、弊社の調査レポート「イノベーション四季報【2023年・春号】」で詳しく解説しています。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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