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インテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)の経営戦略

【詳説】インテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)の経営戦略 ~ビジネスモデルからダビンチSPの機構、特許戦略まで解説

米国のインテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)は、「ダビンチ」と呼ばれる手術ロボットを開発した企業で、ロボット支援手術の分野で圧倒的なトップシェアを持っています。すでに時価総額1000億ドルを超える企業に成長していますが(2023年5月26日現在)、同社の経営戦略についてはあまり知られていません。

本記事では、インテュイティブサージカルのIR資料のデータを元に、同社の収益構造とビジネスモデルを分析します。また、特許情報分析を元に、同社の最新ロボット「ダビンチSP」の機構と、特許戦略を解説します。

<参考:インテュイティブサージカル基本情報>
ティッカーシンボル:ISRG
創立年:1995年
ウェブサイト:https://www.intuitive.com/en-us

※ロボット支援手術を手掛ける企業の全体像については以下の記事で詳しく解説しています。

【徹底図解】ロボット支援手術の最先端 ~ダビンチ手術のメリット・デメリットとメーカー最新動向

インテュイティブサージカルの消耗品ビジネスモデル

収益の中心は「消耗品」

インテュイティブサージカルの2022年の製品区分・地域ごとの総売上(同社のIR資料を元に作成)

インテュイティブサージカルの2022年の製品区分・地域ごとの総売上(同社のIR資料を元に作成)


まず、インテュイティブサージカルの収益構造を上図に整理しました。

左のグラフに示したように、最も売上が大きいのは器具やアクセサリーなどの「消耗品」です。同社が装置自体ではなく「繰り返し交換する消耗品」で継続的な収益を得るビジネスモデルで成功していることがわかります。

インクカートリッジで儲けるプリンタのビジネスモデルと似ていますが、医療機器は単価が高いので、1台あたりの儲けが大きいビジネスと言えます。

参考に、日本におけるダビンチの価格を記載します(2020年10月の日経BPの記事参照)。
装置価格:1台あたり数億円(米国では1~1.5億円)
購入後の維持費:1台あたり1000~2000万円/年

売上の中心は米国

右のグラフに示したように、地域は米国が中心です。これは、米国がインテュイティブサージカルの本拠地であることの他に、各国で「薬事承認」を受けるタイミングが異なることも影響しています。例えば、同社の主力装置である「ダビンチ」が米国で販売開始されたのは2000年ですが、日本で薬事承認されたのは2009年で、10年近いタイムラグがあります。

ダビンチが利用できる手術は、泌尿器科(前立腺がん治療など)、婦人科(子宮頸がんなど)、胃がんや肝臓がんなど多岐にわたります。インテュイティブサージカルのIR資料によると、すでに世界で7500台以上のダビンチが導入されており、2022年度中に約187万5千件の手術が行われています。

インテュイティブサージカルの最新技術と特許戦略

シングルポートによる低侵襲化

シングルポート手術のイメージ(JP5833204B2 の図に追記して作成)

シングルポート手術のイメージ(JP5833204B2 の図に追記して作成)


現在、ロボット手術は「シングルポート化」と呼ばれる進化が進んでいます。
以前は患者の腹部に複数の穴(ポート)をあけ、それぞれの穴に手術器具を挿入する「マルチポート(多孔式)が主流でしたが、シングルポート(単孔式)はフレキシブルな手術器具を用いることで、1つの穴だけで手術を可能にしています。

インテュイティブサージカルの最新ロボット「ダビンチSP(シングルポート)」は、名前の通りシングルポートの手術ロボットです。2023年1月のPR Timesの記事によると、日本でも製造販売を開始しています。

シングルポートで手術を行う様子は、インテュイティブサージカルの特許 JP5833204B2 に記載されています。上図のように、1つのポートから内視鏡と手術器具を挿し込み、内視鏡で体内を観察しながら手術を進めます。

ダビンチSP以外では、肺の検査を行う「Ion(アイオン)」という装置も新たにリリースされています。Ionは2019年に米国で薬事承認を受け、既に300台以上が出荷されています(インテュイティブサージカルのIR資料参照)。

特許網でも他社を圧倒するインテュイティブサージカル

CPC分類「A61B34/30」の出願件数トップ10(LENS.ORGで分析, 2023/05/12現在)

CPC分類「A61B34/30」の出願件数トップ10(LENS.ORGで分析, 2023/05/12現在)


続いて、インテュイティブサージカルの特許網を分析します。

特許の分類である Cooperative Patent Classification(CPC)の中で、手術ロボットは「A61B34/30」という区分に含まれています。A61B34/30 区分の出願件数が多い企業のTop10(上図)を見ると、インテュイティブサージカルがダントツのトップになっています。同社が特許網の構築でも他社を圧倒していることがわかります。

ダビンチ手術に関する特許が大半を占めていますが、先述の検査装置「Ion」に関する特許も多数出願されています。例えば2020年に公開された US20200078096A1 には、Ionを使って肺がんなどの検査を行う仕組みが記載されています。新装置に関する特許網も着実に構築し始めているようです。

一方で、手術ロボット関連の特許出願は世界的に増加する傾向にあり、新規参入する企業も増えています。今後は競争により技術の進化も加速することが予想されます。

インテュイティブサージカルがつくるロボット支援手術の未来

ここまで、消耗品を中心としたインテュイティブサージカルのビジネスモデルと、ダビンチSPなど最新のロボットの機構、他社を圧倒する特許戦略について解説しました。儲かるビジネスモデルを構築し、収益を開発や特許に投資する戦略を見事に成功させており、新規事業のお手本としても参考になる企業です。

本記事で紹介し切れなかったインテュイティブサージカルの最新ロボット「Ion」の構造や、同社を追い越す勢いで成長する「ジョンソン&ジョンソンの手術ロボット事業」については、弊社の調査レポート、イノベーション四季報【2023年・春号】で詳しく解説します。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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