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ロボット支援手術の最前線_メリット・デメリット、ダビンチのインテュイティブサージカルなどメーカー最新動向

【図解】ロボット支援手術の最先端 ~ダビンチ手術のメリット・デメリットと手術ロボットメーカーの最新動向

遠隔操作のロボットを使って手術を行う「ロボット支援手術」は、人の手で行うよりも患者への負担が少なく、精度の高い手術を可能にする技術として日本でも急速に普及しています。米国のインテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)社の「ダビンチ(da Vinci)」が最も有名ですが、新規参入する企業も増えており、市場が急速に拡大しています。

本記事では、内視鏡を使った手術から「ロボット支援手術」に至るまでの進化の流れと、現状のロボット支援手術のメリットとデメリット、関連メーカーの動向をまとめて紹介します。ロボット技術の進化が手術の世界にどんな革命をもたらしたか、全体像を把握したい方はぜひご一読ください。

※インテュイティブサージカルの経営戦略については以下の記事で解説しています。

【詳説】インテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)の経営戦略 ~ビジネスモデルからダビンチSPの機構、特許戦略まで解説

1. 内視鏡からロボット支援手術への進化とダビンチ手術のメリット・デメリット

1-1. 内視鏡手術からロボット支援手術への進化

開腹手術から内視鏡手術・ロボット手術に至るまでの技術進化の流れ(ロボット支援手術の図は、インテュイティブサージカルの特許US10772689B2の図に追記して作成)

開腹手術から内視鏡手術・ロボット手術に至るまでの技術進化の流れ(ロボット支援手術の図は、インテュイティブサージカルの特許US10772689B2の図に追記して作成)

目視と手動で行う旧来の手術から、ロボット支援手術に至るまでの進化の流れを上図に整理しました。

腹部における旧来の手術は、患部が目視で見えるまで切開する必要があり、大きな傷や大量の出血など患者に大きな負担がかかっていました。その状況を打開したのが「内視鏡手術」と呼ばれる手法で、具体的には以下の流れで進みます。

・患者の腹部に直径5~10mm程度の穴をあける
・細長い内視鏡を挿し込み、体内の画像をモニタに表示
・追加の穴をあけ、細長い固定具やはさみを通して「手動」で手術を行う

患者の腹部にあける穴が小さくて済むため、患者へのダメージを少なくする「低侵襲化」に成功しました。内視鏡の開発では日本企業のオリンパスがトップ企業として有名です。

※内視鏡には様々なタイプがありますが、腹部に穴をあけて通す内視鏡は一般的に「腹腔鏡(ふくくうきょう)」と呼ばれ、内視鏡手術は「腹腔鏡手術」とも呼ばれます。

手術ロボットの外観とアーム部の構造の例(インテュイティブサージカルの出願US20210161529A1の図に追記して作成)

手術ロボットの外観とアーム部の構造の例(インテュイティブサージカルの出願US20210161529A1の図に追記して作成)

続いて登場したのがロボット支援手術で、内視鏡手術では「手動」で行っていた作業もロボットのアームによって遠隔で操作することが可能になりました。現在ダントツで普及しているのがインテュイティブサージカル社の「ダビンチ(da Vinci)」で、2021年の大津市民病院の資料によると、米国では3500台以上、日本でも400台以上のダビンチが稼働しています。

ダビンチのロボットは複数のアームを搭載しており、それぞれのアームに異なる作業をする手術器具を取り付けることができます。例えば上図の右側に示したアームは、先端に傷口をふさぐ「縫合」を行うホッチキスのような構造が搭載されています。他にも、患部の「切除」や「固定」などを行う様々な器具が利用可能です。

ロボットを使うことで手ブレなどの課題を解決できるだけでなく、人の手ではできない微細な作業も可能になります。また、遠隔で手術を行えるため、専門医のいない地域でも最先端の手術が可能になることが期待されています。

1-2. ロボット支援手術(ダビンチ手術)のメリットとデメリット

ロボット支援手術の主なメリットとデメリット

ロボット支援手術の主なメリットとデメリット

ここまでの内容を踏まえ、ロボット支援手術のメリットをまとめると以下が挙げられます。
・人間の手で生じる手ぶれなどの問題を回避できる
・人間の手ではできない作業も可能になるため、より患者へのダメージの少ない治療や、これまで不可能だった治療が可能になる
・遠隔で手術できるため、医師の足りない地域でも最先端の手術ができる可能性がある

一方、現時点では以下のデメリットも存在します。
・ロボット支援手術の導入・運用コストが病院経営を圧迫する
・ロボット手術のトレーニングに時間がかかるため、人材育成のハードルがある
・遠隔地から手術をする場合、「通信のトラブル」で問題が生じた際に「その問題の責任を誰が取るか」といった点が不明確なので、ルールづくりが必要

特に深刻なのが費用の課題で、手術ロボットの消耗品パーツが高額であるため、病院はロボットの「導入費用」に加えて多額の「メンテナンス費用」を負担する必要があります。2020年10月の日経BPの記事によると、日本ではダビンチの装置価格は数億円、購入後の維持費が1台あたり1000~2000万円/年かかるようです。

また、手術の内容によっては内視鏡手術と同程度の「保険点数」しかつかないため、病院が受け取る「診療報酬」を十分に受け取れない、という制度上の課題もあります。

※診療報酬は保険点数に応じて支払われるので、手術にかかるコストが高くても、保険点数が同じだと同額の診療報酬しか得られない

2. ダビンチ(da Vinci)のインテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)をはじめとする手術ロボットメーカーの最新動向

支援する手術の種類と対象疾患、主なロボットメーカー

支援する手術の種類と対象疾患、主な手術ロボットメーカーの一覧

続いて、手術ロボットを製造・販売する主要なメーカーの動向を紹介します。まず、内視鏡手術支援ロボットのトップメーカーであるインテュイティブサージカルの経営戦略と最新技術を紹介した後、他の主要メーカーの動向を解説します。

2-1. インテュイティブサージカルの経営戦略と最新動向

 2-1-1. 消耗品ビジネスを軸とした経営戦略

インテュイティブサージカルの主な収益源は器具やアクセサリーなど「消耗品」で、全体の約6割を占めています(同社のIR資料参照)。ロボット自体の収益は全体の約3割に過ぎません。同社が装置自体ではなく「繰り返し交換する消耗品」で継続的な収益を得るビジネスモデルで成功していることがわかります。

インクカートリッジで儲けるプリンタのビジネスモデルと似ていますが、医療機器は単価が高いので、1台あたりの儲けが大きいビジネスと言えます。

 2-1-2. 幅広い手術に対応し、低侵襲化も進める

ダビンチが利用できる内視鏡手術は、泌尿器科(前立腺がん治療など)、婦人科(子宮頸がんなど)、胃や肝臓の手術など多岐にわたります。インテュイティブサージカルのIR資料によると、すでに世界で7500台以上のダビンチが導入されており、2022年度中に約187万5千件の手術が行われています。

最近は患者への負荷がさらに少ないロボットの開発を進めており、2023年1月のPR Timesの記事によると、患者の腹部にあける穴(ポート)の数が1つですむ「ダビンチSP(シングルポート)」が、日本でも製造販売を開始しています。

また、肺の検査を行う「Ion(アイオン)」と呼ばれる新装置は2019年に米国で薬事承認を受け、既に300台以上が出荷されています。現時点ではほぼ米国内のみで販売されていますが、今後世界中で普及することが予想されます。

※Ionの機構の詳細については、弊社調査レポートのイノベーション四季報™【2023年・春号】 で解説しています

2-2. インテュイティブサージカル以外の手術ロボットメーカーの動向

 2-2-1. 内視鏡手術支援ロボットでインテュイティブサージカルを追うメーカー

CMR Surgical の手術ロボットのアームの構造(同社の特許JP6932130B2の図に追記して作成)

CMR Surgical の手術ロボットのアームの構造(同社の特許JP6932130B2の図に追記して作成)

続いて、インテュイティブサージカルと競合するメーカーの動向を紹介します。

先述したロボット支援手術の「コストの課題」の原因として、「インテュイティブサージカルの独占状態」により「価格競争が起こらず、値段が下がらない」ことがあげられます。最近はインテュイティブサージカル以外の手術ロボットも実用化されており、状況は変化しつつあります。

例えば英国のCMR Surgicalは2014年創業のスタートアップですが、2022年11月のMASS DEVICEの記事によると、同社の手術支援ロボットシステム「Vrsius」は既に全世界で100台以上が販売されています。

また、日本企業では川崎重工とシスメックスの合弁企業メディカロイドの「hinotori」が泌尿器科領域における製造販売承認を取得しています。2020年10月の日経BPの記事によると、hinotori はダビンチよりも安価でコンパクトに設計されており、コストの課題を解決する存在になることが期待されています。

 2-2-2. 整形外科・脳神経外科分野のロボットを開発するメーカー

人工関節の置換手術のイメージ(ストライカーの特許JP5964955B2の図に追記して作成)

人工関節の置換手術のイメージ(ストライカーの特許JP5964955B2の図に追記して作成)

一方、インテュイティブサージカルとは異なる分野の手術ロボットの開発も盛んに行われています。

米国のストライカー(Stryker)は「整形外科手術」の支援ロボットのトップメーカーで、人工関節への交換手術を支援する「Mako」と呼ばれるシステムを販売しています。同社の2019年6月のニュースリリースによると、Makoは日本でも股と膝の関節を人工関節に置換する手術について薬事承認を取得しています。上図のように、患者の関節の一部を削って人工関節を取り付ける作業の支援をロボットが行います。

また、アイルランドのメドトロニック(Medtronic)は、「脳神経外科手術」の支援ロボットのトップメーカーで、脳腫瘍など様々な疾患の手術に同社のシステムが利用されています。2021年2月の日経新聞の記事によると、同社の「ステルスAutoguide(TM)」と呼ばれるシステムが「てんかん」の治療で保険適用されています。

内臓だけでなく、骨や脳の疾患でもロボット支援手術の利用が広がっており、今後さらに市場が拡大することが予想されます。

3.外科治療の質と幅を広げるロボット支援手術の今後

以上、ロボット支援手術について、内視鏡手術からロボット支援手術に至る進化の流れと、主なメリット・デメリット、インテュイティブサージカルをはじめとするメーカーの動向について一気に解説しました。内臓の手術だけでなく骨や脳など幅広い分野でロボット化が進んでおり、これまでは治せなかった病気の治療も可能になることが期待できます。

インテュイティブサージカルが「消耗品ビジネス」で成功し、急成長したことからも分かるように、手術ロボットは「儲かる」ビジネスでもあります。手術ロボットの消耗品パーツは付加価値が高いので、部品メーカーや材料メーカーにとっても魅力的な市場と言えます。

本記事では全体像をつかめるよう、概要をお伝えしました。さらに具体的なロボットの機構や材料については弊社調査レポートのイノベーション四季報™【2023年・春号】 で解説しています。最新のロボット開発に関わりたい方はぜひご活用下さい。

また、弊社の無料メールマガジンでは、代表の楠浦による調査レポートを毎週お届けしています。楠浦はロボット関連の新規事業に関わった経験があり、インテュイティブサージカルの特許情報についても5年以上前に分析しています。尖った最新情報が欲しい方はぜひ併せてご利用ください。

 

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
IT / 半導体 / 脱炭素 / スマートホーム / メタバース / モビリティ / 医療 / ヘルスケア / フードテック / 航空宇宙 / スマートコンストラクション / 両利きの経営 / 知財戦略 / 知識創造理論 / アライアンス戦略

 

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