ソフトロボティクスは、ゴムやシリコーンなど柔軟性や伸縮性のある材料を利用したロボット技術です。特に医療や食品などの分野で活用が進んでおり、市場も拡大しています。
本記事では、ソフトロボティクスの概要と、市場拡大における課題、ブリヂストンやインテュイティブサージカルなどソフトロボティクスの実用化をリードする企業の事例を紹介します。金属材料が中心だったロボティクスの新たな展開としてご一読下さい。
ソフトロボティクスとは、ゴムやシリコーンなど柔らかい材料の「伸縮性」や「柔軟性」を利用してロボットのパーツを動かすロボット技術です。上図のように、空気の圧力や、内側に配置されたワイヤーを使って動作を制御します。他にも、熱や電圧、磁気を利用した仕組みが知られています。
金属のロボットと違って表面が柔らかく、接触する対象を傷付けにくいメリットがあるので、以下のように様々な用途で実用化が進んでいます。
上記のようなメリットがあるため、ソフトロボティクスの市場は急速に成長しています。2023年10月のMarket research Futureのレポートによると、ソフトロボティクスの市場規模は2022年の約3.3億ドルから、2032年には10倍以上の約38.9億ドルに成長することが予想されています。
一方、ソフトロボティクスの課題として、例えば以下が知られています。
様々な課題がありますが、最近は技術が進化し、実用化に成功する企業が多数現れています。次項では、ソフトロボティクスの開発をリードする企業の事例を紹介します。
タイヤメーカーのブリヂストンは、2023年1月に「ソフトロボティクス ベンチャーズ」という社内ベンチャーを設立しています。また、2023年2月にはAI画像認識ソフトウェアを開発する「アセントロボティクス」との資本業務提携を発表しており、ロボット開発を加速しています(2023年2月のCar Watchの記事参照)。
ブリヂストンは関連特許の出願を2019年頃から開始しており、例えば2021年に出願された WO2023119808A1「把持装置」では、上図のように対象物をすくい取る機構が記載されています。先端に容器となる構造をつけることで定量性を担保し、精度の課題を解決しています。計量スプーンを使って一定の量をすくい取るのと似たやり方です。
この例では、ロボットの手を動かす原理として、空気圧を利用し、ゴムなどの樹脂の伸び縮みで開閉を制御しています。タイヤに使われるゴムなどの素材の技術を生かしており、コア技術をベースに新規事業を創出した事例としても参考になります。
一方、「ダビンチ」などの手術ロボットのトップメーカーとして知られる米国のインテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)は、手術用のフレキシブルアームを開発しています。
上図のように、患者の腹部にあけた穴(ポート)から複数のフレキシブルアームを挿入することで手術を行います。細くて柔軟性のあるアームを使うことで、患者の体内に傷をつけず、最小限の負荷で手術を行うことが可能です。
手術には微細な制御が必要ですが、同社のアームは非常に細いワイヤーの伸縮を調節することで、安全かつ高精度な作業を可能にしています(※)。また、アームには圧力や位置を把握するためのセンサが搭載されており、正確に動作が行われていることを確認しながら作業を進めることができます。
インテュイティブサージカルは手術ロボットの市場成長をリードしており、同社の2022年度のAnnual Reportによると、すでに世界で7500台以上のダビンチが導入されています。今後も成長が続くことが予想されており、ソフトロボティクスの最先端をつくる企業としても今後が楽しみです。
※ワイヤー以外の制御方法が使われる場合もある
※手術ロボットの全体像は以下の記事で解説しています。
以上、ソフトロボティクスに使われる技術と主な用途、精度など現状の課題と、実用化をリードするブリヂストンやインテュイティブサージカルの開発動向を解説しました。柔らかい素材やフレキシブルなセンサ、細く耐久性のあるワイヤーなど、要素技術の新たな用途としても有望な分野です。本記事が新規事業や研究開発の参考になれば幸いです。
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畑田康司
TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
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