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CAES(圧縮空気エネルギー貯蔵)とは?

【図解】CAES(圧縮空気エネルギー貯蔵)とは? ~神戸製鋼や中国科学院の最新技術を解説

CAES(圧縮空気エネルギー貯蔵)とは、Compressed Air Energy Storageの略で、電気エネルギーを圧縮空気として貯蔵する技術です。大容量の電力を蓄積できる技術として注目されています。

本記事では、CAESの基本的な仕組みとメリット・デメリットを解説します。後半では、神戸製鋼が開発するコンパクトなCAESシステムや、中国の研究機関が開発する超臨界空気を利用した最新の蓄電技術を紹介します。電力インフラ革新の最前線を知りたい方は是非ご参照ください。

CAES(圧縮空気エネルギー貯蔵)の仕組みとメリット・デメリット

CAESによる蓄電の仕組みと背景にある課題

CAESシステムの全体像(Rabiら, 2023 の図に追記して作成)

CAESシステムの全体像(Rabiら, 2023 の図に追記して作成)

CAES(圧縮空気エネルギー貯蔵)は、電気エネルギーを圧縮空気の形で保存し、後で再び電気エネルギーとして取り出す技術です。上図のように、発電設備から供給された電力を使って空気を圧縮し、地中などに保存します。保存した空気を放出する際に発電機のタービンを回すことで、電力を生成することができます。

CAESなどの蓄電技術が求められる背景には、風力や太陽光を使った「再生可能エネルギー」の電力供給が不安定であるという課題があります。例えば太陽光発電は昼間にピークを迎え、夜はほとんど発電しません。ピーク時に余った電力を蓄積できれば、安定した電力供給が可能になります。

CAESは空気の圧縮というシンプルな仕組みで、大きなエネルギーを貯蔵できる技術として期待されています。投資家にも注目されており、例えばカナダに拠点を置くCAES関連スタートアップのハイドロスター(Hydrostor)は、ゴールドマン・サックスから2億5千万ドルの投資を確保しています(2022年1月のEnergyShiftの記事参照)。

CAESのメリット・デメリット

以下にCAESのメリットとデメリットを整理します。

<メリット>

  • シンプルな機構であるため耐久性が高く、故障せずに長期間利用することが可能
  • 蓄積できるエネルギー量が大きく、大規模な電力の蓄積と供給が可能

<デメリット>

  • 空気の圧縮時に生じる熱などによるロスがあり、フライホイール蓄電などの蓄電方式に比べるとエネルギー効率が低い
  • 設備の規模が大きくなりやすく、建設のコストがかかる
  • 温度等による空気圧の変動があり、供給電力を細かく制御することは難しい

大規模で耐久性が高いので、電力供給のインフラとしては魅力がありますが、エネルギー効率や微調整などの面では課題があるようです。電気自動車の充電ステーションなどコンパクトさが求められる用途よりは、地域全体への電力供給など、大規模なシステムに適した技術と言えそうです。

次項では、CAESの実用化をリードする日本企業の神戸製鋼と、近年CAESシステムの開発に力を入れている中国の動向を紹介します。

※EV充電インフラの課題を解決するフライホイール蓄電については以下の記事で解説しています

【図解】フライホイール蓄電の仕組みとメリット・デメリット ~ZOOZ, TeraloopによるEV急速充電システムへの活用事例を解説

CAES(圧縮空気エネルギー貯蔵)の実用化を進める神戸製鋼や中国研究機関の動向

コンパクトなCAESシステムをつくる神戸製鋼

神戸製鋼の開発するCAESシステムの概要(同社の特許出願 JP2022011690A の図に追記して作成)

神戸製鋼の開発するCAESシステムの概要(同社の特許出願 JP2022011690A の図に追記して作成)

大手鉄鋼メーカーの神戸製鋼は、CAESシステムの開発に2014年頃から取り組んでおり、関連する特許も多数出願しています。例えば2020年に出願された JP2022011690A「圧縮空気貯蔵発電装置および圧縮空気貯蔵発電方法」では、上図のようにスクリュー式の圧縮機を使った空気圧縮システムが記載されています。

スクリューで圧縮された空気はタンクに保存され、空気を放出する際にもスクリューが使われます。スクリューが蓄電と発電の両方をコントロールできるので、シンプルかつコンパクトな構成でシステムをつくることができます。また、神戸製鋼のCAESシステムは放熱のロスを防ぐ断熱構造も使われており、エネルギー効率の課題を改善しています。

2020年の神戸製鋼技報によると、同社の北米における実証研究のプロジェクトがNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)に採択されています。米国の風力発電所との連携などが計画されており、海外展開が進むことが期待できます。

中国科学院が開発する超臨界空気による蓄電システム

超臨界空気による蓄電システムの概要(Institute of Engineering Thermophysics of CASの特許 JP5508540B2 の図に追記して作成)

超臨界空気による蓄電システムの概要(Institute of Engineering Thermophysics of CASの特許 JP5508540B2 の図に追記して作成)

一方中国では、世界最大規模のCAESシステムの導入が進められています。例えば2022年10月のpv magazineの記事によると、中国の河北省で100MWのCAESシステムが稼働しています(それ以前は60MWが世界最大)。

このシステムに使われる技術は、中国の研究機関である中国科学院(Chinese Academy of Sciences;CAS)の研究所が開発しています。中国科学院の特許 JP5508540B2 によると、上図のように空気を高圧で圧縮した後、熱交換器で冷却し、「超臨界状態」と呼ばれる状態にして保存しています。超臨界状態の空気は液体に近い状態になり、エネルギーを高密度で保存できます。

中国科学院は、他にも蓄電システムに関する特許を次々に出願しており、例えば2022年に登録されたCN112234634Bには、CAESとフライホイール蓄電を組み合わせたシステムが記載されています。中国は電力インフラに多額の投資をしているので、蓄電技術の進歩も急速に進んでいるようです。

中国の開発動向は情報源が限られていますが、上記のように特許情報をうまく使うと有用な情報が効率よく入手できます。ぜひお試しください。

※海外特許の読み方は以下の記事で解説しています。中国特許にも応用可能です。

英語が読めなくても米国特許を検索する方法 ~Google翻訳を活用して海外特許を読む

CAES(圧縮空気エネルギー貯蔵)による脱炭素化の加速

以上、圧縮空気でエネルギーを貯蔵するCAESシステムの仕組みとメリット・デメリット、神戸製鋼と中国科学院が開発する最新のシステムを紹介しました。中国ではすでに大規模な電力インフラとして活用され始めており、市場規模も拡大することが予想されます。再生可能エネルギーの普及と、脱炭素化を加速させる動向として今後の展開が楽しみです。

今回ご紹介した内容は、弊社の無料メールマガジンで代表の楠浦がお送りした内容の一部を抜粋し、再編集したものです。メルマガではより幅広い情報や、技術的に踏み込んだ内容をご紹介しております。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。

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