CAES(圧縮空気エネルギー貯蔵)とは、Compressed Air Energy Storageの略で、電気エネルギーを圧縮空気として貯蔵する技術です。大容量の電力を蓄積できる技術として注目されています。
本記事では、CAESの基本的な仕組みとメリット・デメリットを解説します。後半では、神戸製鋼が開発するコンパクトなCAESシステムや、中国の研究機関が開発する超臨界空気を利用した最新の蓄電技術を紹介します。電力インフラ革新の最前線を知りたい方は是非ご参照ください。
この記事の内容
CAES(圧縮空気エネルギー貯蔵)は、電気エネルギーを圧縮空気の形で保存し、後で再び電気エネルギーとして取り出す技術です。上図のように、発電設備から供給された電力を使って空気を圧縮し、地中などに保存します。保存した空気を放出する際に発電機のタービンを回すことで、電力を生成することができます。
CAESなどの蓄電技術が求められる背景には、風力や太陽光を使った「再生可能エネルギー」の電力供給が不安定であるという課題があります。例えば太陽光発電は昼間にピークを迎え、夜はほとんど発電しません。ピーク時に余った電力を蓄積できれば、安定した電力供給が可能になります。
CAESは空気の圧縮というシンプルな仕組みで、大きなエネルギーを貯蔵できる技術として期待されています。投資家にも注目されており、例えばカナダに拠点を置くCAES関連スタートアップのハイドロスター(Hydrostor)は、ゴールドマン・サックスから2億5千万ドルの投資を確保しています(2022年1月のEnergyShiftの記事参照)。
以下にCAESのメリットとデメリットを整理します。
<メリット>
<デメリット>
大規模で耐久性が高いので、電力供給のインフラとしては魅力がありますが、エネルギー効率や微調整などの面では課題があるようです。電気自動車の充電ステーションなどコンパクトさが求められる用途よりは、地域全体への電力供給など、大規模なシステムに適した技術と言えそうです。
次項では、CAESの実用化をリードする日本企業の神戸製鋼と、近年CAESシステムの開発に力を入れている中国の動向を紹介します。
※EV充電インフラの課題を解決するフライホイール蓄電については以下の記事で解説しています
【図解】フライホイール蓄電の仕組みとメリット・デメリット ~ZOOZ, TeraloopによるEV急速充電システムへの活用事例を解説
大手鉄鋼メーカーの神戸製鋼は、CAESシステムの開発に2014年頃から取り組んでおり、関連する特許も多数出願しています。例えば2020年に出願された JP2022011690A「圧縮空気貯蔵発電装置および圧縮空気貯蔵発電方法」では、上図のようにスクリュー式の圧縮機を使った空気圧縮システムが記載されています。
スクリューで圧縮された空気はタンクに保存され、空気を放出する際にもスクリューが使われます。スクリューが蓄電と発電の両方をコントロールできるので、シンプルかつコンパクトな構成でシステムをつくることができます。また、神戸製鋼のCAESシステムは放熱のロスを防ぐ断熱構造も使われており、エネルギー効率の課題を改善しています。
2020年の神戸製鋼技報によると、同社の北米における実証研究のプロジェクトがNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)に採択されています。米国の風力発電所との連携などが計画されており、海外展開が進むことが期待できます。
一方中国では、世界最大規模のCAESシステムの導入が進められています。例えば2022年10月のpv magazineの記事によると、中国の河北省で100MWのCAESシステムが稼働しています(それ以前は60MWが世界最大)。
このシステムに使われる技術は、中国の研究機関である中国科学院(Chinese Academy of Sciences;CAS)の研究所が開発しています。中国科学院の特許 JP5508540B2 によると、上図のように空気を高圧で圧縮した後、熱交換器で冷却し、「超臨界状態」と呼ばれる状態にして保存しています。超臨界状態の空気は液体に近い状態になり、エネルギーを高密度で保存できます。
中国科学院は、他にも蓄電システムに関する特許を次々に出願しており、例えば2022年に登録されたCN112234634Bには、CAESとフライホイール蓄電を組み合わせたシステムが記載されています。中国は電力インフラに多額の投資をしているので、蓄電技術の進歩も急速に進んでいるようです。
中国の開発動向は情報源が限られていますが、上記のように特許情報をうまく使うと有用な情報が効率よく入手できます。ぜひお試しください。
※海外特許の読み方は以下の記事で解説しています。中国特許にも応用可能です。
以上、圧縮空気でエネルギーを貯蔵するCAESシステムの仕組みとメリット・デメリット、神戸製鋼と中国科学院が開発する最新のシステムを紹介しました。中国ではすでに大規模な電力インフラとして活用され始めており、市場規模も拡大することが予想されます。再生可能エネルギーの普及と、脱炭素化を加速させる動向として今後の展開が楽しみです。
今回ご紹介した内容は、弊社の無料メールマガジンで代表の楠浦がお送りした内容の一部を抜粋し、再編集したものです。メルマガではより幅広い情報や、技術的に踏み込んだ内容をご紹介しております。
また、弊社の調査レポート「イノベーション四季報」では、テーマごとのイノベーション情報を総括した資料を提供しています。フライホイール蓄電やCAESなど、最新の蓄電技術を比較したレポートも後日リリース予定です。
コラムや調査レポートのリリース情報もメルマガで毎週お伝えしているので、最新情報を入手する無料ツールとして是非ご活用ください。
★セミナー動画リリースのご案内
発明塾®動画セミナー:儲かる脱炭素ビジネスはどうつくる?
~カーボンクレジット活用による収益化に成功する海外・国内企業の収益化戦略を特許・IRから分析!~
2024年4月26日(金)に開催したセミナーを収録した動画セミナーです。
脱炭素を収益化につなげるビジネスモデルを具体的な事例から解説します。脱炭素分野で新規事業を立ち上げたい方、特に「脱炭素ビジネスで儲ける」方法を具体例から理解したい方に向けたセミナーです!
自動車分野で脱炭素ビジネスの市場を開拓したテスラに加え、石油化学からの脱却を進める旭化成などの化学メーカー、Indigo Agなど農業・食品分野で脱炭素ビジネスモデルを構築する海外企業の事例を解説します。
既存技術を市場に適合させ、新たな用途や需要を創出する戦略「技術マーケティング」の第一人者である弊社代表の楠浦がわかりやすく解説します。具体的な事例をベースに脱炭素ビジネス立ち上げを検討したい方はぜひご活用ください!
★本記事と関連した弊社サービス
①無料メールマガジン「e発明塾通信」
材料、医療、エネルギー、保険など幅広い業界の企業が取り組む、スジの良い新規事業をわかりやすく解説しています。半導体関連の技術に関する情報も多数発信しています。
「各企業がどんな未来に向かって進んでいるか」を具体例で理解できるので、新規事業のアイデアを出したい技術者の方だけでなく、優れた企業を見極めたい投資家の方にもご利用いただいております。週2回配信で最新情報をお届けしています。ぜひご活用ください。
②書籍『マイクロソフトの経営戦略』(イノベーション四季報™【特別編】)
弊社は、15年ほど前からマイクロソフトに注目し、同社の戦略を分析する作業を地道に続けています。
IT企業のマイクロソフトですが、実は脱炭素分野でも最も注目される企業に成長しており、GAFAMの中でも突出した成果を上げています。
本書では、マイクロソフトという「進化し続ける巨大企業」の「圧倒的な強みの源泉」を明らかにし、「今後マイクロソフトがどのような世界をつくろうとしているか?」の具体的なヒントとなる情報を提供します。
★弊社書籍の紹介
弊社の新規事業創出に関するノウハウ・考え方を解説した書籍『新規事業を量産する知財戦略』を絶賛発売中です!新規事業や知財戦略の考え方と、実際に特許になる発明がどう生まれるかを詳しく解説しています。
※KindleはPCやスマートフォンでも閲覧可能です。ツールをお持ちでない方は以下、ご参照ください。
Windows用 Mac用 iPhone, iPad用 Android用
畑田康司
TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。
あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
IT / 半導体 / 脱炭素 / スマートホーム / メタバース / モビリティ / 医療 / ヘルスケア / フードテック / 航空宇宙 / スマートコンストラクション / 両利きの経営 / 知財戦略 / 知識創造理論 / アライアンス戦略
ここでしか読めない発明塾のノウハウの一部や最新情報を、無料で週2〜3回配信しております。
・あの会社はどうして不況にも強いのか?
・今、注目すべき狙い目の技術情報
・アイデア・発明を、「スジの良い」企画に仕上げる方法
・急成長企業のビジネスモデルと知財戦略