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重力蓄電とは?

【図解】重力蓄電システムの仕組みとメリット・デメリット ~ソフトバンク投資先のEnergy Vault、GravityLightの特許を分析

重力エネルギーを使った蓄電技術である「重力蓄電(Gravity Storage)システム」は、シンプルな仕組みで大きな電力を貯蔵できる技術です。ソフトバンクのビジョンファンドも重力蓄電スタートアップのEnergy Vaultに投資しており、注目が集まっています。

本記事では、重力蓄電システムの基本的な仕組みとそのメリット・デメリットについて詳しく解説します。後半では、上記のEnergy Vaultと、途上国のインフラ不足の課題を解決するGravityLightの技術を特許から深掘りします。ぜひご参照ください。

重力蓄電の仕組みとメリット・デメリット

重力蓄電システムの仕組み

重力発電システムの仕組みの例(Elsayedら,2022, Sci Rep 12の図に追記して作成)

重力発電システムの仕組みの例(Elsayedら,2022, Sci Rep 12の図に追記して作成)


重力蓄電は、物体の重さを利用してエネルギーを貯蔵・放出し、蓄電や発電を行う技術です。

例えば上図の例では、重いピストンを上下することで、蓄電と発電を行います。ピストンが上に保持された状態では「落下するためのエネルギー(重力)」が蓄積されています。ピストンを上昇するための電力は、外部の発電所などから供給されます。

ピストンが落下すると、そのエネルギーが発電機の内部にある「タービン」と呼ばれるモーターのような構造に伝わり、タービンが回転して電力を生成します。この時に生成する電力を外部に供給できるので、電池のように利用することが可能です。

発電の原理としては、自転車を漕ぐ力でライトを点灯する仕組みと同様です(足の力がライトに接続されたタービンの回転に変換される)。物体が上下するだけのシンプルな構造なので、様々な規模で蓄電システムを構築することができます。

重力蓄電システムのメリット・デメリット

蓄電に使われるシステムとしてはリチウムイオン電池を使ったシステムが主流ですが、重力蓄電にもいくつかのアドバンテージがあります。以下に重力蓄電のメリットとデメリットを整理します。

<メリット>

  • シンプルな構造で、高度な技術を必要としないため、開発コストが低い
  • ブロックなどの構造物の上下を繰り返すだけなので、バッテリーのように「繰り返し利用による劣化」が生じにくく、耐久性がある
  • 有機溶媒など有毒な化学物質を使わずに製造できるので、環境への負荷が少ない

<デメリット>

  • 重量が大きくなると設備が大掛かりになるため、製造コストが大きい
  • 設備を建造するための土地が必要。一般的に蓄電用のタワーは100メートル以上の高さが必要で、地盤が安定していることも求められる(2023年6月のTycorun.comの記事参照

重力蓄電は、リチウムイオン電池に比べると「一定の空間に蓄えられるエネルギー」は劣るので、設備が大きくなるのが課題のようです。ただ、シンプルで耐久性が高いメリットを生かした成功事例も登場しています。次項では、重力蓄電システムを開発する海外企業の事例を紹介します。

※電動モビリティ分野で次世代の蓄電技術として注目される「フライホイール蓄電」については、以下の記事で解説しています。

【図解】フライホイール蓄電の仕組みとメリット・デメリット ~ZOOZ, TeraloopによるEV急速充電システムへの活用事例を解説

重力蓄電システムを開発する企業の開発事例 ~Energy Vaul、GravityLight

ソフトバンクが投資したEnergy Vaultの重力蓄電システム

Energy Vaultの重力発電システムの例(同社の特許US11555484B2の図に追記して作成)

Energy Vaultの重力発電システムの例(同社の特許US11555484B2の図に追記して作成)


Energy Vault はスイスのスタートアップで、安価なコンクリートブロックとクレーンを使った重力蓄電システムを開発しています。

Energy Vaultの最新の特許US11555484B2には、上図のような重力蓄電システムの機構が記載されています。重量物のブロックが、エレベータと呼ばれるユニットに積まれて上下に移動し、蓄電と発電を行います。ブロックを積んだエレベータが降下すると、ケーブルが引っ張られてスプール(糸巻き)が回転し、発電機で電力が生成されます。ミシンの糸を引っ張ると糸巻きが回転するのと似た仕組みです。

2019年8月のQuartzの記事によると、ソフトバンクのビジョンファンドがEnergy Vault に1億1000万ドルを投資しています。風力発電などの再生可能エネルギーを蓄える技術として期待されており、今後の進化が楽しみです。

途上国の電力インフラの課題を解決するDeciwattのGravityLight

DeciwattのGlavityLightの仕組み(同社の特許出願 US20160094107A1 の図に追記して作成)

DeciwattのGlavityLightの仕組み(同社の特許出願 US20160094107A1 の図に追記して作成)


一方、重力蓄電の仕組みを、家庭用の電力供給に使うスタートアップも登場しています。

英国のスタートアップであるDeciwatt社は、電力供給が不安定な地域の人々のために、小規模な重力蓄電システム「GlavityLight」を開発しています。上図のように、紐におもりを吊るすと歯車がゆっくりと回転しながら電力を生成し、LEDを点灯させる仕組みになっています。

おもりの重量は9キログラムていどで、人の手で持ち上げて作動させることができます。電力供給が無い地域の夜でも、人力でライトを使うことができるシンプルなソリューションと言えます。

ちなみにGlavityLightはビジネスとしては成功しなかったようで、Engineering for Changeの記事によると、Deciwatt社はユーザーの引っ張り運動の力で電力をつくるNowLightという商品を新たに開発しています。NowLightはIndiegogoのキャンペーンを通じて35カ国で1500台以上が販売されているようです。

ビジネスとしてスケールするのは難しい面がありそうですが、重力蓄電のシンプルさを生かして様々な発明が生み出せることを示す事例と言えます。小規模な新規事業開拓や、個人発明の参考になるかもしれません。

重力蓄電システムによる電力ビジネスの進化

以上、重力蓄電システムについて、仕組みとメリット・デメリット、Energy Vaultなど海外スタートアップの開発事例を紹介しました。原理がシンプルで開発ハードルが低く、様々な規模で蓄電システムをつくれるので、今後も重力蓄電を使った新たなビジネスのアイデアが生まれそうです。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。

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