「ソーシャルロボット」は、人々とのコミュニケーションやサポートを目的として使われるロボットで、飲食店のサービス提供や高齢者介護など様々な場面で普及が始まっています。
本記事では、ソーシャルロボットの具体例と用途、開発をリードするメーカーの最新動向を解説します。後半では、Intuition Robotics社の「ElliQ」や、アマゾンの「Astro」など、既に実績を上げている海外メーカーの事例を紹介するので、是非ご参照ください。
この記事の内容
ソーシャルロボットの具体例(Liuら,2022 の図に追記して作成)
ソーシャルロボットは、「対話のインターフェースを備え、人々とのコミュニケーションを行うロボット」の総称で、「コンパニオンロボット」と呼ばれる場合もあります。上図のように、多くのソーシャルロボットは擬人化された外観を持ち、音声やジェスチャーを使ったコミュニケーション機能を持っています。
日本ではソフトバンクが開発したNAOやPepper、海外で開発されたオランダ企業のフィリップスが開発したiCATや、英国企業のEngineered Artsが開発したSociBotなどのソーシャルロボットが知られています。ソーシャルロボットの主な用途として、例えば以下が知られています。
ソーシャルロボットの開発には、ロボットの「眼」になるカメラを使った画像解析や、ロボットの「脳」になる人工知能(AI)など高度な技術が求められるため、以前は参入にハードルがありました。ただ、近年はスマートフォンを使った画像解析や、ChatGPTのような生成AIが普及して技術的なハードルが下がり、多くの企業が参入しています。
例えば、以下の事例が知られています。
一般家庭におけるユーザーのサポートに加え、医療現場などでも普及が進んでいることがわかります。次項では、ソーシャルロボットを使ったビジネスで実績を上げる海外企業の事例を紹介します。
Intuition RoboticsのElliQのシステム概要(同社の特許出願 US20210151154A1 の図に追記して作成)
Intuition Roboticsが開発した「ElliQ」は高齢者とのコミュニケーションを目的に開発されたソーシャルロボットです。音声を使ってユーザーと対話でき、身心の健康状態のチェックなど介護のサポートを行います。
上図の左側がロボットとして動く部分で、胴体と頭部だけのシンプルなつくりになっています。ロボットの頭部にカメラが搭載されており、ユーザーの表情などを確認することができます。
右側のスタンドにも固定のカメラが設置されており、部屋の状況などを把握できます。また、スタンドにタブレットを置いてロボット連携させることで、映像を使ったコミュニケーションが可能になります。
必要最小限のハードウェアで構成されていますが、2台のカメラでユーザーの行動データを取得し、AIが学習できるのがポイントです。利用するほどユーザーに合ったコミュニケーションが提供できるようになるため、ユーザーは体験価値が向上し、Intuition Roboticsは製品の改善に必要なデータを取得できます。
2023年8月のMobiHealthNewsの記事によると、Intuition Roboticsはトヨタの成長ファンドであるWoven Capitalからも出資を受けており、社会インフラを改善するユニークな取り組みとしても期待されています。
アマゾンのスマートホームにおけるソーシャルロボット活用のイメージ
一方、米国の巨大企業であるアマゾンは、Amazon Astroと呼ばれるソーシャルロボットを販売しています(2021年10月のプレスリリース参照)。Astroは、ビデオモニタリングによる外出中の安全確認や、家庭内のモノの輸送などでユーザーをサポートします。高齢者の介護を支援するためのモニタリング機能も備えており、家族が安心して生活できる環境づくりに貢献しています。
アマゾンは上図のように、ユーザーの生活を支援する「スマートホーム」の仕組みを多数備えています。以下に例を記載します。
上記の動向を踏まえると、Astroは単なるソーシャルロボットではなく、ユーザーに便利さと安全を提供する「スマートホームのプラットフォーム」の一部として進化することが予想できます。複数のアプローチでユーザーを自社のプラットフォームに囲い込む戦略を取っており、巨大企業のアマゾンならではの戦略と言えます。
※アマゾンのスマートホーム戦略とアイロボット買収の狙いについては以下の記事で解説しています。
【FY2022 Q2】Amazon最新動向 ~アイロボット買収の狙い、Rivian株下落の影響、AWS Snowcone宇宙利用
以上、ソーシャルロボットについて、定義と具体例、国内外の企業の最新動向と、ElliQやAstroなどの最新事例を紹介しました。コミュニケーション不足に課題のある高齢者のケアや、安全管理など深い社会課題を解決するソリューションとしても注目されており、今後さらに進化することが期待されます。
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畑田康司
TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。
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