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FY2022Q2アマゾンイノベーション

【FY2022 Q2】Amazon最新動向 ~アイロボット買収の狙い、Rivian株下落の影響、AWS Snowcone宇宙利用

前回のアマゾン4半期レポート(FY2022 Q1)では、アマゾンのサステナビリティ戦略とAWS IoT TwinMakerなどデジタルツイン関連のイノベーションを紹介しました。本記事ではアマゾンのFY2022 Q2(2022会計年度、第2四半期;2022年4月~6月)の4半期決算報告の内容を中心に、アマゾンの最新情報を解説します。

まず、第2四半期のビジネスの概況を解説した後、Rivianの株価下落後の自動車事業の状況、アイロボット買収の狙いについて解説します。また、AWSの最新イノベーション事例として、AWS Snowconeの宇宙事業への展開について紹介します。

<参考:アマゾン・ドット・コム基本情報>
ティッカーシンボル:AMZN
創立年月日:1994年7月
ウェブサイト:www.amazon.com

AWS続伸による売上増加と、Rivian株下落等による損失

FY2021と比較したFY2022Q2の損益概況(FY2022Q2 Earnings Releaseを元に作成)

FY2021と比較したFY2022Q2の損益概況(FY2022Q2 のリリースを元に作成)

AWSが売上の伸びを牽引するが、全体としては減益

FY2022Q2の概況として、図に示したように全体の売上高は増加しており、特にAWSが前年同期比で約40%増加と非常に好調で、売上の伸びを牽引しています。

ただ、為替レート変動などの影響により営業経費(Operating expenses)も大きく増加し、全体としては減益となっています。また、出資したRivian(電気自動車関連のスタートアップで、2021年11月上場)の株価下落に伴う約39億ドルの評価損失なども重なり、今期はトータルで約20億ドルの純損失(Net loss)が出ています。

Rivianの株価は下落したが、自動車事業は堅実に成長

そもそもアマゾンのRivianへの出資は、電気自動車(Electronic Vehicle:EV)による配送システム構築の計画が背景にあり、2019年9月のCNBCの記事によると、アマゾンはRivianに10万台の配送用EVを発注しています。その後、計画の遅れなどに起因してRivian株は下落しましたが、2022年7月のアマゾンのニュースリリースによると、2022年の終わりまでに全米の100以上の都市で数千台の配送用EVを運用することが予定されています。すでに試作した車両で40万パッケージ以上を配達した実績があり、実用化へのステップは着実に進んでいるようです。

また、音声AIのAlexaを自動車に搭載する例も増加しており、Alexa対応車両のページを見ると、アウディ、BMW、日産、フォルクスワーゲンなどが紹介されています。Alexaによる音楽再生やニュースの確認などはもちろん、ドアの開閉やエンジンの始動や停止も可能になっており、今後も対応車種の増加と機能拡張が進みそうです。

今期は減益ですが、全体としてアマゾンのイノベーションの勢いは止まることはなく、企業の買収や新製品リリースも活発に行われています。次項では、最近話題になったアイロボット買収の狙いと、成長を続けるAWSの最前線を解説します。

※アマゾンのモビリティ事業の進化についてはFY2021Q4のレポートで解説しています

【FY2021 Q4】Amazon最新イノベーション ~スマートホーム戦略の全体像とモビリティ事業の動向を解説

【図解】アイロボット買収によるスマートホーム戦略の強化とAWS Snowconeの宇宙利用

アイロボット買収によるアマゾンのスマートホームデバイスの拡充(FY2021Q4のレポートで作成した図に、アイロボット関連の情報を追加)

アイロボット買収によるアマゾンのスマートホームデバイスの拡充(FY2021Q4のレポートで作成した図に、アイロボット関連の情報を追加)

アイロボット買収により各家庭の空間情報を手に入れる

アマゾンは2022年8月のプレスリリースで、アイロボット社(iRobot) を買収する契約の締結を発表しました。アイロボットはロボット掃除機のルンバを主力製品としており、最新のルンバは部屋のレイアウトをマッピングする機能を備えています。

アマゾンは以前から、家庭用ロボットのAmazon Astroなどで家庭内の状況を把握する技術を開発しています(FY2021Q3のレポートで紹介)。今回の買収により部屋のレイアウトを正確に把握するための「実証済みの技術」とルンバが持つ巨大な「顧客基盤」を同時に手にすることになります。スマートホーム戦略を強化する上で、大きな一手となりそうです。

ちなみに、アイロボットは掃除機だけでなく「芝刈り機」も開発しており、同社の小型芝刈り機「Terra」は自動で庭の境界を検知し、芝刈りを行います。この技術も特許化されており、例えばJP6679506B2「ロボット芝刈り境界線決定」には、自律型の芝刈りロボットが芝刈りすべきエリアを把握する技術などが記載されています。

今回の買収により、アマゾンは「屋内」だけでなく「庭」のデータも獲得できるようになるかもしれません。

AWS Snowconeの国際宇宙ステーションでの利用実験

2022年6月のアマゾンのニュースリリースによると、同社は宇宙航空関連スタートアップのAxiom Spaceと共同で、AWS Snowcone(アマゾンのエッジコンピューティング・データ転送デバイス)を宇宙ステーションで利用するための実証実験を行っています。例えば、宇宙ステーションに搭載されたSnowconeと遠隔で通信し、機械学習による写真の分析と結果出力などが可能であることを実証しています。

Snowconeが行う「エッジコンピューティング」とは、クラウドサーバーとユーザーの距離が遠い際に、ユーザー付近に別のサーバー(今回のケースではSnowconeで、これがエッジサーバーと呼ばれる)を置き、処理を分散させることで、遠距離のサーバーとの通信による遅延などの影響を軽減する手法です(※)。

(※)『現代用語の基礎知識(2019)』の「エッジコンピューティング/エッジサーバー」の項などを参考に記載

「宇宙ステーションとの通信」は「遠距離通信」の極端な例であり、特に火星探索など地球からの距離が膨大になるミッションを行う場合、よりハードルが上がります。

今回の実験により、AWS Snowconeが宇宙空間で利用するに足る耐久性があることが示され、宇宙でAWSの技術を利用するための準備が一歩進んだことになります。ちなみにアマゾンはUS11206078B1 ”System for low-latency satellite subbeam handover” など、低遅延(low-latency)の衛星通信に関する特許も取得しており、宇宙関連の技術と知財も徐々に蓄積しているようです。

 

※2022年11月9日追記
アマゾンのFY2022Q3のリリースによると、同社はSnowconeと同じSnowファミリーであるAWS Snowballデバイスを、ウクライナに提供したようです。宇宙利用も想定した堅牢なシステムを、戦地への支援として活用した事例と言えます。

 

多分野で強いプラットフォームを構築するアマゾンの今後

ここまで、アマゾンのFY2022Q2の概況と、Rivianの配送用EVなど自動車関連事業の動向、アイロボット買収による家庭の空間情報データの取得、AWS Snowconeの宇宙展開の実証実験について解説しました。特にアイロボットの買収は、アマゾンのスマートホーム戦略を強化する上で重要な一手であり、今後も関連するイノベーションが生まれる起点になりそうです。

今回紹介した情報を見るだけでも、アマゾンが「家庭」「クルマ」「宇宙」など様々な分野で、業界への影響力の大きいプラットフォームを構築し、拡大していることがわかります。今後も世界のイノベーションを主導する企業として、アマゾンの動向をウォッチしていきたいと思います。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
工場設備エンジニア、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。

 

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