前回のアマゾン4半期レポート(FY2021 Q4)では、スマートホームとモビリティ関連のイノベーションを紹介しました。本記事ではアマゾンのFY2022 Q1(2022会計年度、第1四半期;2022年1月〜3月)の4半期決算報告からイノベーション関連情報を抜粋し、背景にある戦略の考察も含めて簡単に解説します。
具体例として、AmazonAwareやゼロカーボン認証を目指す食品ストアなどサステナビリティに貢献する取り組みと、デジタルツインにより製造プロセスのデジタル化を促進するAWS IoT TwinMakerについて紹介します。
<参考:アマゾン・ドット・コム基本情報>
ティッカーシンボル:AMZN
創立年月日:1994年7月
ウェブサイト:www.amazon.com
※アマゾンの経営戦略の全体像については以下の記事で解説しています。
この記事の内容
アマゾンが2022年3月のニュースリリースで紹介したAmazonAwareは、アパレルや家庭用品などを扱う販売ラインで、サステナビリティに貢献する商品だけを扱っています。
アマゾンは2020年から、利用者がサステナブルな商品を簡単に見つけられるようにするためのプログラム「Climate Pledge Friendly」を開始しており、プログラムの対象となる商品は、アマゾン独自のCompact by Designという認証を含む、1つ以上の認証を受けています。
AmazonAwareの商品もClimate Pledge Friendlyプログラムに含まれており、AmazonAwareのWebページから、認証を受けた商品を選んで購入することができます。サステナブルな商品販売のWebプラットフォームを拡大する戦略と考えられます。
一方、リアルな食料品店であるAmazonフレッシュストアでも、脱炭素化に向けた取り組みが進んでいます。2022年3月のアマゾンのニュースリリースによると、シアトルにオープンした最新のアマゾンフレッシュストアでは、CO2排出の少ない冷凍システム、製造や設置に要するCO2排出量を削減した建築材料、再生可能エネルギーなどの利用により年に185トン近いCO2削減効果が見込まれています。
シアトルのフレッシュストアはInternational Living Future Institute(ILFI:国際リビング・フューチャー協会)からのゼロカーボン認証を求めており、食料品店としては世界初の認証になる可能性があります。
以上の事例からわかるように、アマゾンはeコマースとリアル店舗の両方で脱炭素化の取り組みを進めており、「サステナブルな商品を売買するならアマゾン」という流れをつくろうとしているようです。
リアル店舗についてはウォルマートなどの企業が先行していますが、アマゾンは「建物を含めたサステイナビリティ」という新たな切り口で攻めており、後発参入の強みを生かした戦略といえます。
※脱炭素分野のトップ企業であるマイクロソフトの戦略については以下の記事で解説しています。
マイクロソフトのカーボンネガティブ経営戦略【図解あり】 ~Azure, Climate innovation Fundの最新情報
アマゾンは2022年4月のニュースリリースで、「デジタルツイン」を作成するサービスであるAWS IoT TwinMakerの一般提供開始を発表しました。デジタルツインとは、実際の空間(物理空間)にあるモノを仮想空間にコピーしたもので、例えば建物や工場、生産ラインなどを仮想空間に再現することができます。
具体的な用途として、例えばセンサによる工場の状況モニタリングが考えられます。IoTセンサから得られたグラフだけを見るのではなく、デジタルツインを参照しながらグラフを見ることで、「実際にどこで何が起こっているか」を把握しやすくなり、トラブルの防止や、対策の検討などが容易になります。
2022年3月のAWSブログでは、TwinMakerを使って自分の部屋の中の状況を3次元・リアルタイムで可視化した例を紹介しています。自分の部屋で使う人はなかなかいないと思いますが、詳しい使い方と、他のAWSサービスとどう連携しているかが詳しく書かれているので参考になります。
(ちなみに、社内で話題にしたところ、代表の楠浦からは「AmazonCareがあるので、介護・見守り・病院・遠隔医療には活用されるかも」という意見が出ました。自宅でデジタルツイン、という時代も来るかもしれません。)
連携するサービスの代表例が、FY2021Q3のレポートでも紹介した可視化ツールのAmazon Managed Grafanaで、デジタルツインやグラフの表示に対応しています。上記の例では、TwinMakerにより3Dデータを取り込み、デジタルツインを作成した後に、Grafanaを使ってデジタルツインやグラフデータを並べて表示する画面を作成しています。
また、工場における利用方法の例については、TwinMakerの紹介動画の後半で詳しく説明されているので、興味がある方はご参照ください。
仮想空間の利用、という点でメタバース関連の技術と言えますが、FacebookやマイクロソフトのようにVRデバイスやMRデバイスを使わない点でシンプルなシステムと言えます。既存の技術をうまく組み合わせたサービス設計としても参考になるのではないでしょうか。
※Facebookのメタバース戦略については以下の記事で解説しています。
ここまで、FY2022Q1のアマゾンの動きとして、AmazonAwareやカーボンゼロ認証のAmazonフレッシュストアなどサステナビリティ関連の取り組みと、製造プロセスのデジタル化を促進するAWS IoT TwinMakerについて解説しました。
サステナビリティ関連の取り組みは主にBtoC分野の小売サービスですが、TwinMakerは工場などBtoB分野のサービスであり、いずれも今後成長する見込みのある分野です。BtoC, BtoBの両分野で巨大プラットフォームを構築しているアマゾンの動向を見ることで、イノベーションの大きな流れが見えてきます。
弊社ではアマゾンの特許情報など「ミクロ」で「最先端」の知見(エッジ情報)を掘り下げることで、「アマゾンの開発者が何を考えているか」まで見通す手法を構築しています。情報活用の手法を体系的に身につけたい、という方は、無料メールマガジンにて調査の例や関連サービスを紹介していますので、ぜひご活用ください。
★セミナー動画リリースのご案内
発明塾®動画セミナー:事業転換のための新規事業マーケティング™
~ 既存市場がなくなっても生き残れる事業の生み出し方を富士フイルム・出光興産の事例から解説!
2024年7月26日(金)に開催したセミナーを収録した動画セミナーです。
単なる新商品ではなく「会社の新たな柱となる新規事業」をつくりたい方に向けて、新規事業ならではのマーケティングの進め方を、具体的な企業の事例を元に解説するセミナーです!
技術マーケティングの中でも特にハードルの高い「新規事業マーケティング」にフォーカスします。特に参考になる企業としてフィルム事業の衰退を乗り越えた富士フイルムと、全固体電池開発で石油依存からの脱却を進める出光興産の事例を紹介し、事業創出のプロセスを明らかにします。現状を打破したい方は是非ご活用ください!
★本記事と関連した弊社サービス
①無料メールマガジン「e発明塾通信」
材料、医療、エネルギー、保険など幅広い業界の企業が取り組む、スジの良い新規事業をわかりやすく解説しています。アマゾンのイノベーションについても多数取り上げており、例えば本記事ではカバーできなかった、Ringのネットワーク監視機能の調査結果なども紹介しています。
「各企業がどんな未来に向かって進んでいるか」を具体例で理解できるので、新規事業のアイデアを出したい技術者の方だけでなく、優れた企業を見極めたい投資家の方にもご利用いただいております。
四半期レポートの更新も含め、週2回配信で最新情報をお届けしています。ぜひご活用ください。
②【新規事業・起業・投資の羅針盤 イノベーション四季報™】
イノベーションには「流れ」がありますが、「感覚」では捉えられません。
実際の企業の分析結果を元に「具体的な事例」を読み解いた最新情報を、今後を見通す「羅針盤」として4半期ごとに提供します。創刊号ではGAFAMの分析に正面から取り組みました。巨大企業の戦略を読み解き、その先を攻略したい方はぜひ!
★弊社書籍の紹介
弊社の新規事業創出に関するノウハウ・考え方を解説した書籍『新規事業を量産する知財戦略』を絶賛発売中です!新規事業や知財戦略の考え方と、実際に特許になる発明がどう生まれるかを詳しく解説しています。
※KindleはPCやスマートフォンでも閲覧可能です。ツールをお持ちでない方は以下、ご参照ください。
Windows用 Mac用 iPhone, iPad用 Android用
畑田康司
TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
工場設備エンジニア、スタートアップでの事業開発を経て現職。現在は企業内発明塾®における発明創出支援、教材作成に従事。個人でも発明を創出し、権利化を行う。発明塾東京一期生。
ここでしか読めない発明塾のノウハウの一部や最新情報を、無料で週2〜3回配信しております。
・あの会社はどうして不況にも強いのか?
・今、注目すべき狙い目の技術情報
・アイデア・発明を、「スジの良い」企画に仕上げる方法
・急成長企業のビジネスモデルと知財戦略