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空飛ぶクルマeVTOL実用化の最先端

【図解】空飛ぶクルマ「eVTOL」とは? ~ヘリコプターとの違いと現状の課題、デンソー・ハネウェルなどメーカーによる実用化の最前線

発明塾セミナー:電動化・自動運転普及に向けてデンソー・ボッシュはどう事業を変革するか?

eVTOL(Electric Vertical Take-off and Landing)とは、電気を動力源に、垂直に離着陸できる乗り物です。2025年頃に実用化がスタートすることが予想されており、「空飛ぶクルマ」のイメージを実現するイノベーションとして期待されています。

本記事では、eVTOLの仕組みや現状の課題に加え、主要メーカーの最新動向を紹介します。前半でeVTOLの特徴と主な機体メーカー、現状の課題を紹介した後、キープレイヤーであるデンソーとハネウェルの最新動向を紹介します。

※脱トヨタに向けて電動化を急速に進めるデンソーの戦略については以下の記事で解説しています。

【図解】デンソーの強みを生かした電動化戦略 ~トヨタ車で培った技術の新用途を開拓するマーケティング戦略を解説

空飛ぶクルマ「eVTOL」とは? ~ヘリコプターとの違い、主要メーカー、実用化の課題

eVTOLの仕組み ~従来のヘリコプターとの違いは?

従来のヘリコプターとeVTOLの違い(ヘリコプターの写真はWikipediaより、eVTOLの写真はLilium社の投資家向けプレゼン資料より)

従来のヘリコプターとeVTOLの違い(ヘリコプターの写真はWikipediaより、eVTOLの写真はLilium社の投資家向けプレゼン資料より)

 

eVTOLの特徴を理解するため、従来のヘリコプターとの違いを上図に整理しました。一番大きな違いは、機体を飛行させるためのローター(回転翼)の部分です。

ヘリコプターは大型のメインローターが回転し、機体を上昇させる力(揚力)を生み出します。また、後部に設置された小型のテールローターにより、機体の方向を調節します。これらのローターの動力として、一般的に「ターボシャフトエンジン」と呼ばれる燃料エンジンが使われています。

一方 eVTOLは、多数の小型のローターが左右の翼に設置されています。ローターの配置や数はメーカーによって異なりますが、図に示した「Lilium社」の eVTOLでは、前後の翼に合計30〜40程度のローターが設置されています。Liliumは後述する「株式会社デンソー」の電動モーターを採用しており、eVTOLの実用化において日本企業も重要な役割を果たしています。

空飛ぶクルマ「eVTOL」の実用化を進める機体メーカー

主なeVTOL機体メーカーの一覧

主なeVTOL機体メーカーの一覧

 

続いて、eVTOLの機体を開発するメーカーを上の表に整理しました。いずれも設立15年以内のスタートアップですが、多くがすでに上場しています。非常に成長スピードの速い分野であることがわかります。

実用化に向けた動きとして、例えば以下が報じられています。

  • 米国のJoby Avitationは、2023年4月のリリースで米軍との契約を発表。最初の2機は2024年初めまでにカリフォルニア州の空軍基地に引き渡される予定
  • 米国のBeta Technologiesは「物流」へのeVTOLの利用を進めており、アマゾンからも出資を受けている。2021年12月のForbesの記事によると、同社は2024年に物流会社のUPSに最初の10機を納入開始することを計画している
  • 英国のVertical Aerospaceは、丸紅と連携して日本のエアモビリティの実装を進めている。丸紅は最大200機までの予約発注の権利を取得しており、都市間の移動などに利用される予定(2022年11月のResponse記事参照)

各社が軍事・物流・旅客など様々な分野で受注を獲得しており、実用化が着実に進んでいます。

日本ではスタートアップのSkyDriveがeVTOLの機体を開発しており、2023年4月のリリースで大豊産業からのプレオーダー契約締結を発表しています。また、大手企業ではホンダもeVTOL開発を進めており、今後ますます競争が激しくなりそうです。

eVTOLのメリットと課題

上記のようにeVTOLの市場は急速に拡大しています。その背景にあるeVTOLのメリットとして、以下があげられます。

  • 多数のローターを個別に制御するため、細かい動きの調節が可能。自動運転システムの実装もしやすい
  • 化石燃料を使わないため、環境への負荷が少ない
  • 小型の電動モーターを使うことで、騒音公害を大幅に軽減できる

一方、以下の課題も存在します。

  • 機体の軽量化が必要。特に、搭載する数の多い「ローター」の軽量化が求められる
  • 安全に飛行できることを国が証明するための認証プロセスが複雑で、時間がかかる

最大の技術的課題である「ローターの軽量化」は日本企業のデンソーがリードしています。また、米国のハネウェルはさらに一歩先を見据え、eVTOLを「誰でも使える空飛ぶクルマ」にする技術を開発しています。次項で詳しく解説します。

eVTOL実用化のコア技術をつくるメーカー ~デンソーとハネウェル

日本企業デンソーのつくるeVTOL向け電動モーター

電動モーターの内部構造の例(デンソーの特許出願 WO2023048269A1 の図に追記して作成)

電動モーターの内部構造の例(デンソーの特許出願 WO2023048269A1 の図に追記して作成)

 

デンソーは自動車部品の日本最大手ですが、ハネウェルと提携してeVTOL向けの電動モーター開発にも力を入れています。2022年5月のリリースによると、デンソーが新規開発した電動モーターは前項で登場した「Lilium」のeVTOLに採用されています。

デンソーのHPによると、eVTOL用モーターのポイントとして以下が記載されています。

  • モーターと電気回路の軽量化
  • 回転する力(トルク)が大きい状態を維持して長時間駆動できる信頼性
  • 高速回転により発熱するモーターを冷却するシステムの効率化と軽量化

具体的なモーターの構造については、デンソーの特許出願 WO2023048269A1 に詳しく書かれています(上図参照)。円盤状の薄い構造になっており、厚み方向のサイズを減らし、軽量化しています。また、発熱するコイルを外側に配置しており、熱が内部にこもるのを防いで冷却効率を高めています。

また、デンソーはモーターの電気制御に使うパワー半導体も自社で開発し、軽量化と冷却効率の改善を進めています。モーターの周辺部まで自社でつくり込んでおり、開発の本気度が伝わってきます。

eVTOLの実用化と民主化を主導するハネウェル

ハネウェルのAnthemを使った操作のイメージ(同社の投資家向けプレゼン資料の図に赤字部を追記して作成)

ハネウェルのAnthemを使った操作のイメージ(同社の投資家向けプレゼン資料の図に赤字部を追記して作成)

 

ハネウェルは多業種の事業をてがける巨大企業(コングロマリット)で、「航空宇宙事業」の一環としてeVTOL関連の製品を販売しています。

代表的な製品が「Anthem(アンセム)」と呼ばれるシステムで、パイロットによるeVTOLの操縦や、運航計画の管理をサポートします。パイロットはコックピットでAnthemを利用し、上図のようにタッチパネルを使って手軽に操作できます。

飛行ルートの表示など、ガイドとなる情報がパネルに表示されるので、直感的に操作できます。ハネウェルの資料によると、パイロットの訓練時間を以前の1/10に削減することができるようです。

つまり、ハネウェルは「少し訓練すれば誰でも空飛ぶクルマ・eVTOLを運転できる世界」を実現する技術を開発しています。航空機の「民主化」をリードする企業と言えます。前項で登場した「Lilium」や「Vertical Aerospace」もハネウェルのシステムを採用しており、ハネウェルはeVTOL市場のキープレイヤーとして活躍しそうです。

eVTOLの実用化による今後の航空ビジネスの進化

以上、eVTOLについて、多数の小型ローターを使う設計的な特徴と、実用化の状況と課題に加え、モーターの進化をリードするデンソーや、誰でも運転できるシステムを開発するハネウェルの技術を解説しました。

機体メーカーが各国で立ち上がり、予約注文を獲得しており、数年後には一気にeVTOLの実用化が進みそうです。旅客・物流など航空ビジネスのあらゆる分野をeVTOLが変革することが予想されるので、今後の展開が楽しみです。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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