2003年にTesla Motors Inc. としてスタートしたテスラは自動運転やクリーンテックの先進企業として注目されていますが、同社が具体的にどんな技術を、どんな戦略に基づいて開発
しているのか、私自身はよく知りませんでした。そこで、まずはテスラの特許について簡単な調査を行い、同社の動向と戦略を考察することにしました。
調査の流れとして、まずテスラの特許の技術分野について概要を把握し、続いて特許開放の宣言に関連した同社の戦略を読み解きます。最後に、テスラが権利化した技術の具体例を紹介し、同社の技術戦略の全体像を浮き彫りにします。
Google Patentsの出願人検索で、テスラが出願している特許を検索したところ、ヒット件数は約1176件(2021/08/24現在)でした。技術分野を見ると、温室効果ガスの排出削減、気候変動の影響緩和、半導体、発電、データ処理など幅広い分野で出願されていました。
前述した技術分野ランキングを見ると、テスラ全体としては「車」に限定せず、太陽電池など「クリーンエネルギー」に関連した技術開発に力を入れていることが分かりました。
技術の内容について少し理解が深まったので、次に戦略的な側面から考察を進めてみます。
※特許調査について具体的な方法が知りたい方は以下記事もご参照ください
テスラは2014年に特許開放を宣言しており、HPには”誠意を持って私たちの技術を使いたいという人たちに対し、テスラが特許訴訟を起こすことはありません”と書かれています。特許取得に対する否定的な内容も記載されていたので、この宣言以降は特許取得を中断しているのかが気になります。
そこで、出願時期が2015年以降で、特許登録されたものに絞り込んだところ、約291件がヒットし(2021/08/24現在、Google Patents使用)、宣言後も特許取得を積極的に進めていることがわかりました。
なぜ開放するのに特許の取得を続けるのかを調べるため、同社の2019年のAnnual Report(p14)を確認したところ、特許取得の目的について ” to enable our freedom to operate our innovations (イノベーションを活用する自由を獲得するため)” と書かれていました。
つまり、自社で押さえることで他社の独占を防ぎ、クリーンエネルギーに関する共有の技術プラットフォームをつくることが、特許取得と開放の目的のようです。
※ひたすらオープンではなく、クローズにする部分も組み合わせた戦略の考え方は以下記事をご参照ください
続いて、同社の特許ポートフォリオに含まれる出願の具体的な内容を読み解いてみます。
電気自動車関連では、心臓部と言えるバッテリー関連の技術分野Y02E60/10(電池を用いるエネルギー貯蔵)の特許が約88件登録されています(2021/08/24時点)。例えばJP2020514991Aでは、複数のバッテリセルから構成されるバッテリーパックの構造と組立方法が記載されています。
また、Y02E10/50(光起電力エネルギー)の特許は約175件登録されています(2021/08/24時点)。例えば、US10606678B2では屋根をソーラーパネル化する技術が記載されており、テスラのSolar Roof(自宅の屋根で発電できる製品)に関する出願のようです。
一方、G06F(電気的デジタルデータ処理)の特許は約30件登録されており(2021/08/24時点)、自動車の制御プログラムが中心になっています。例えばUS20190332390A1には、自動運転のセキュリティを強化するための並列処理技術が記載されています。
ここまで挙げた特許を見ると、テスラが電気運転車に使われる機構だけでなく、発電システムや自動運転制御など、クリーンテックの普及に必要な技術を多面的に権利化していることがわかります。実際の特許の内容からも、同社がクリーンエネルギーに関する技術プラットフォームをつくろうとしていることがわかります。
以上、テスラの調査から、同社がクリーンエネルギー関連の特許を積極的に取得していること、特許開放により共有の技術プラットフォームを構築しようとしていること、実際の出願内容を見ても、プラットフォーム構築に必要な技術を広く権利化していることがわかりました。新技術を世の中に普及させ、未来をつくるための取り組みとして参考になります。
また、テスラは特許をオープンにする一方で、同社の特許技術を使う条件として「テスラに特許訴訟を行わないこと」などの制約を設定しています(同社ホームページ参照)。つまり、特許の利用者をコントロールするための仕組みも構築しており、知財戦略としても参考になります。
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畑田康司
TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
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