この記事の内容
オープンクローズ戦略とは、自社の技術を標準化して世の中に普及させ、かつ儲けが出るように、「多くの企業に共有する部分(オープン領域)」と「自社で独占する部分(クローズ領域)」を組み合わせる戦略です。
例えば、トヨタによる燃料電池自動車などの特許の無償提供が話題になりましたが、燃料電池自動車の市場に他社を参入させ、将来的な利益を拡大するための取り組みと言えます。
また、戦略づくりにおいて、特許や意匠(デザイン)、ノウハウなどの知財をどう使うか、という知財マネジメントが重要になります。例えば複数の技術を特許権として権利化しておけば、この技術は使ってもOK、この技術は使わせない、といったコントロールが可能になります。
※以下記事では具体的な事例として、グーグルのオープンクローズ戦略と、アップルとの戦略の違いを解説しています
グーグルのオープンクローズ戦略 ~ソフトウェア技術の強みを生かす知財戦略
自社技術を無条件でオープンにするだけでは、コピー品が世の中に出回り、世の中に技術が普及しても自社の利益にならない、という状況に陥ります。安価な後発メーカーにキャッチアップされる企業がこれに当たります。
一方、技術を完全クローズにすると、自社だけで市場をつくることが必要になり、市場拡大が困難になります。いわゆるガラパゴス化によりグローバル市場でシェアを拡大できない企業の失敗パターンと言えます。
そこで、標準化したオープン領域に他社を巻き込んで市場を拡大すること、クローズ領域で差別化して付加価値をつけること、を両立させるオープンクローズ戦略が有効な打ち手になります。自社製品を大量に普及させ、かつ高い利益率も維持できる、というのがこの戦略のメリットです。
例えばアップルのiPhoneはオープンクローズ戦略の代表的な成功事例と言えます。
iPhoneアプリの開発環境はオープン標準化されており、世界中の企業がアプリ開発に参入していますが、プラットフォームであるiOSのコア部分や製品デザインはアップルが独占し、大量普及・高収益を両立させています。
※PCやスマホのコア部品の側から巧みなオープンクローズ戦略を構築した企業の事例は以下で紹介しています
インテル・クアルコムのオープンクローズ戦略 〜成功事例から知るメリット
アップルの例では、知財は主にクローズ領域の独占に活用されており、特許によるiOSやハードウェアに関する技術の保護、商標によるブランド名の保護、意匠によるデザインの保護などを組み合わせています。
他社が模倣しても権利行使により即座に排除できる状況をつくり、iPhoneはアップルにしかつくれない、という状況を構築しました。例えば、特許第4743919号ではタッチスクリーンを使った画面のスクロールに関する技術を、意匠登録第1356982号では操作画面のデザインを権利化しています。
その一方で、知財をオープン領域として活用する場合もあります。例えばトヨタは、2015年に燃料電池関連、2019年に車両電動化関連の特許技術を実施する権利を無償で提供することを発表しました。
トヨタの例は、燃料電池自動車などの普及が進むことを意図したオープン化の戦略として特許権を活用しています。また、例えば2019年のトヨタ社プレスリリースでは、無償提供の条件として
・期限は、2030年末まで
・トヨタにお申し込みをいただき、具体的な実施条件等について協議の上で契約を締結
と記載されており、ある程度自社がコントロールできる余地も残しています。
上記の事例から分かるように、「どこをオープンにし、どこをクローズにするか」という戦略は、独自の優れた知財をもつことで初めて具体化できます。よって、他社に先駆けて重要な知財を確保することが、戦略を成功させるカギになります。
本記事のポイントを整理すると、以下のようにまとめられます。
・オープンクローズ戦略とは、自社の技術について、他社に共有する部分と独占する部分を組み合わせる戦略である。
・他社を巻き込むオープン領域と、自社で独占するクローズ領域を持つことで、大量普及と高い利益率の両立というメリットが得られる。
・優れた知財を持つことがオープンクローズ戦略を成功させるカギである。
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