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インテル・クアルコムのオープンクローズ戦略

インテル・クアルコムのオープンクローズ戦略 〜成功事例から知るメリット

インテルは主にパソコン向けの半導体チップを製造する部品メーカーであり、「インテル・インサイド」の標語は多くの方がご存知だと思います。一方、クアルコムは、第3世代移動通信(3G)方式で標準規格となったCDMA方式の技術を世界に先駆けて確立した企業であり、無線通信の分野で圧倒的な技術力を持っています。近年では5G対応のチップセットの発表などで話題を集めています。

いずれの企業も、演算や通信など、パソコンやスマートフォンの重要な機能を担うチップを独占的に供給していますが、両社が巧みなオープンクローズ戦略によりその地位を獲得したことは、あまり知られていません。

本記事では、特にインテルとクアルコムのオープンクローズ戦略の成功事例について詳しく解説します。

インテルのオープンクローズ戦略

インテル

インテルのオープン領域 ~独自規格のオープン化~

全てのパソコンにはマザーボードと呼ばれる制御基板が入っており、インテルのチップもマザーボード上に搭載されています。インテルはマザーボードの規格を独自に策定しており、レイアウトなどの仕様をオープンにしています(例:1995年に策定されたATX規格)。

仕様がわかれば製造のハードルも下がるので、台湾企業を中心とする製造メーカーがマザーボード生産の市場に参入し、価格競争によるパーツ価格の下落が進みました。結果、パソコンの価格も低下し、パソコンの生産台数は急増しました。規格によるオープン化が、大量普及の実現につながったことになります。

インテルのクローズ領域 ~マイクロプロセッサのクローズ化~

一方、インテルはチップのコア領域であるマイクロプロセッサ(MPU)の設計や製造に関する技術は完全にクローズ化しており、自社でしかチップをつくれない状況を確保しています。さらに、チップをマザーボードに搭載するための結合部の情報(ピン配置など)は公開するものの、関連する知的財産権は独占し、許可なくマザーボードを生産することは禁止しました。

つまり、インテルの許可を得れば高性能のチップを搭載した規格品のマザーボードを安価に製造できる、という状況が生まれ、インテルがパソコン市場をコントロールできる環境が整ったことになります。

オープンクローズ戦略による高収益の実現

インテルがパソコン市場で圧倒的に優位な立場にあったことはパーツ価格に表れています。例えば、東京大学 COE ものづくり経営研究センターの論文(立本,2007) によると1995年~2003年の8年間で、ハードディスク(HDD)の価格が6割以上下落したのに対し、インテルのチップ価格は下落していません。自社のコア領域は独占し、周辺の領域では価格競争を促進させた結果と言えます。

このようなパソコン市場の拡大においてインテルが圧倒的に高い収益率を維持することが可能になり、得られた収益をコア領域のMPU関連技術に投資することで、チップの性能がさらに向上するという好循環が生まれました。インテルがパソコン市場における不動の地位を確立した背景には、オープンクローズ戦略の成功があったのです。

クアルコムのオープンクローズ戦略

クアルコム

クアルコムのオープン領域 ~ライセンスと技術支援による市場拡大~

クアルコムは自前の半導体工場を持たないファブレス型の企業であるため、自社ではチップを製造せず、他社に製造を委託しています。2014年に発表されたクアルコムジャパンの特別顧問(当時)の山田氏の記事では、クアルコムのビジネスモデルについて以下のように記載されています。

クアルコムは現在の自社のビジネスモデルを,イネーブラー(Enabler)と称している。つまり,得られたアイディアを可能な限り標準化し,半導体の形にしてできるだけ多くの人に使ってもらい,それらの人々が新たに何かをできるようにする,ということである。具体的には,無線通信関係の研究開発をベースにして,その成果を知的財産のライセンス,半導体,アプリケーションサービスとして,業界に幅広く提供する。

つまり、研究開発を通して得た知財を使いやすい形でまとめ、「クアルコムから許可(ライセンス)を受ければスマートフォンがつくれる(Enableになる)」という状況をつくり、ライセンスの対価として支払われる料金(ロイヤリティ)を収入源としています。

さらに、2011年より始めたQualcomm Reference Design (QRD)と呼ばれるプログラムでは、機器の設計情報だけでなく、ソフトウェアや製造技術など幅広い情報を製造メーカーに提供する支援を行い、より自社チップが流通しやすい環境を整えています。

クアルコムのクローズ領域 ~知財確保に向けた研究開発~

前述した通り、クアルコムは自前の工場を持たないファブレス型の企業です。つまり、製造プロセスを自社でクローズ化することはできないので、クアルコムが自社内でクローズ化する領域は自ずと「研究開発」、つまり新たな知財を生み出す部分に集約されます。

5G技術について、同社は”The Future of 5G”というタイトルのスライド資料を公開しており、スマートフォンだけでなく自動車、交通、産業向けIoT、XR(eXtended Reality) など幅広い分野に自社技術を展開することを表明しています。また、”As 5G launches globally, what comes next?” (5Gが世界ローンチした次に何が起こるか?)と題したブログ記事では、以下のように記載されています(太字は引用者による)。

If historical trends continue to repeat, the next-generation technology leap after 5G will happen in approximately 10 years’ time, and in the meantime, we are continuing fundamental research that progresses the industry toward new technology breakthroughs. Regardless if it’s called 6G or something else, Qualcomm Technologies will be there to provide foundational contributions and drive forward progress.

「5Gの次(およそ10年以内)に起こる技術を6Gと呼ぶかは別として、クアルコムが基礎となる貢献を提供する」と書かれており、10年後を見据えた研究開発も進めていることを示唆しています。しかし、当然ながら、特許などの形で保護する前の情報はクローズ化しており、最先端の研究開発成果を自社で独占し、業界をリードするための体制を維持しています。

知財をコアにしたオープンクローズ戦略

知財から得られる収益が極めて大きいのが、クアルコムの特徴です。2020年の同社のAnnual Report(p39)を見ると、2020年度(2020年9月27日終締め)のライセンス収入(72.33億ドル)は収入全体(235.31億ドル)の30.7%と高い比率を占めています。

また、研究開発コスト(59.75億ドル)は、収入全体の25%に当たります。例えばアップルのAnnual Reportによると、アップルの2019年の研究開発コストは純売上高の6%程度であり、クアルコムが他社よりも積極的に研究開発投資を行っていることがわかります。

研究開発への投資を積極的に行う点でインテルとも類似していますが、クアルコムは自社工場を持たないため、より研究開発に特化した企業と言えます。クローズ領域の研究開発から得られた成果を速やかに特許などの「知財」として確保し、競合関係を持たない製造メーカー、サプライヤーに広く提供(オープン化)することで、知財をコアにした巧みなオープンクローズ戦略を構築しています。

オープンクローズ戦略の実践に。弊社資料・サービスのご紹介

インテル、クアルコムの例からも分かるように、最終製品を提供するメーカーでなくとも、ある領域で圧倒的な技術力を持てば、オープンクローズ戦略を介して大きな影響力を獲得することが可能です。

弊社では、インテルとクアルコムの歴史的な経緯も含めた詳細な資料をケーススタディーとして無料公開しております。知財戦略の立案に向けて、より具体的な情報が欲しいという方はぜひご参照下さい(資料ダウンロードページより入手して頂けます)

特に、クアルコムの例は知財を最大限に活用するビジネスモデルとして、あらゆる業界・事業形態で実践の参考になる事例と考えており、クアルコムの戦略を詳しく紹介した動画セミナーも提供しております。また、オープンクローズ戦略のコンサルティングサービスをご検討中の方には 実働支援サービス企業内発明塾をお勧めします。

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