テーマ別 深掘りコラム 1分で読める!発明塾 塾長の部屋
会社概要 発明塾とは? メンバー
実績 お客様の声
ラボオートメーションとは

【詳説】ラボオートメーション(Laboratory Automation)とは? ~ロボット化・遠隔化・AI化を進める企業の最新事例を解説

実験操作を自動化する「ラボオートメーション(Laboratory Automation)」は、特に医療・バイオなどのライフサイエンス分野で急速に進化しています。2023年3月の日経新聞の記事によると、ラボオートメーション世界市場は2028年には約1兆円に達することが予想されています。

本記事では、ラボオートメーション(Laboratory Automation)に使われるロボット技術の概要と、企業の成功事例を紹介します。自宅で実験ができる「遠隔ラボ」や、AIを使った細胞培養システムなど最新の知見も紹介するので、是非ご参照ください。

ラボオートメーションの概要 ~ロボット化が解決する課題と企業の動向

ラボオートメーションの概要と解決する課題

ロボットを使ったラボオートメーションのイメージ(Hayaseら, 2023の図に追記して作成)

ロボットを使ったラボオートメーションのイメージ(Hayaseら, 2023の図に追記して作成)


ラボオートメーションに使われる技術は主に「手作業を代替するロボット技術」です。上図はコロナウイルスのRNA検出をロボットに実施させた例で、試薬の混合など様々な作業をロボットが代行しています。

ロボットが作業を行うことで、ライフサイエンス分野の実験における以下の課題を解決できます。
① 作業者の過剰労働
② 人の手が入ることで生じる異物混入や作業のバラつき
③ 作業者のトレーニングの手間

特に、「細胞」など生きたサンプルを使った実験は、放置することができないため、作業者は土日も休みなく働くことが必要でした。筆者も大学院ではバイオ系のラボに所属していましたが、「手作業が多すぎて考える時間の確保が難しい」というのが多くの研究者の悩みでした。異物混入に注意しながら正確な作業をするため、実験だけで疲弊してしまいますし、作業者の熟練度によって結果もバラつきます。

ロボット化が進めば、上記の課題を一気に解決することができます。

※遺伝子組み換え細胞の生産を自動化する米国企業「Ginkgo Bioworks」については以下の記事で解説しています。

Ginkgo Bioworksの技術と経営戦略【徹底図解】~ワクチンから農業まで革新するDNA・細胞編集プラットフォーム

ラボオートメーション用のロボットを開発する企業の動向

先ほどの図に示したロボットは「LabDroid」という名称で、日本の安川電機の子会社である「ロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社」が開発しています。主に製薬企業における新薬の開発や、産総研などの研究機関における実験の自動化に使われています。

海外では、英国企業のAutomataが「作業スペースにロボットを組み込んだユニット」を「汎用モジュール」として販売しています。モジュール同士をつなぐと、いくつかの作業を「流れ作業(ワークフロー)」として実施できます(2023年2月のBusinesswire記事参照)。ラボオートメーションにより、「工場の生産ライン」のように実験が進む世界が実現しつつあります。

ここまで、ロボットによるラボオートメーションの概要を解説いたしました。次項では、さらに一歩進んだ取り組みをしている企業の最新事例を紹介します。

ラボオートメーションの進化をリードする企業 ~遠隔化・AI化の最新事例

「遠隔で実験」を実現するエメラルドクラウドラボ

遠隔で実験を進めるラボのイメージ(エメラルドクラウドラボの特許出願JP2021177178A の図に追記して作成)

遠隔で実験を進めるラボのイメージ(エメラルドクラウドラボの特許出願JP2021177178A の図に追記して作成)


ロボット化で手作業がなくなるなら、「そもそも実験室に行かなくていいのでは?」という考えも自然に生まれます。米国企業のエメラルドクラウドラボ(Emerald Cloud Labs Inc)は、実験室の外から実験を進められる「遠隔ラボ」の実現に取り組む企業で、上図のようにクラウドベースのラボ管理システムを提供しています。

利用者はオンラインで細胞培養やゲノム解析などの操作を指示し、実験完了後にデータを取得することが可能です。実験室はエメラルドクラウドラボにより運営されており、2022年9月のThe Guardianの記事によると、米国のサウスサンフランシスコにあるラボでは、200種類以上の実験装置が設置されています。まだ人の手で作業する部分は残っているようですが、多くの操作がロボット化しており、完全自動化に近づいています。

ロボットとAIの協働によるiPS細胞の培養システム

前半で紹介したロボットの「LabDroid」は、「AI(人工知能)と連携したシステム」の開発にも活用されています。JST(科学技術振興機構)のレポートによると、理化学研究所はAIとLabDroidを使って「iPS細胞から目の網膜細胞をつくるプロセスの最適化」を進めています。

AIは「最適な培養条件を特定するための実験プロセス」を指示し、LabDroidは指示に従って実験操作を行います。実験を繰り返し行った結果、うまく網膜細胞をつくる条件が特定されており、AIとロボットを組み合わせたシステムの有用性が確認できています。

※AI時代の主役となるマイクロソフトの戦略については以下の記事で解説しています。

【FY23Q2最新】OpenAIを取り込みAI時代を主導するマイクロソフトの戦略 ~GPT-3開発をリードしたAzureの今後

ラボオートメーションがつくるAI時代の研究開発

以上、ラボオートメーションについて、解決する課題とロボットシステムを開発する企業の動向、遠隔化やAIとの連携によりさらに進化を加速させるエメラルドクラウドラボやLabDroidの事例を紹介しました。すでにChatGPTなどのAIによるデスクワークの効率化が進んでいますが、今後はロボットとAIの組み合わせによる研究プロセスの効率化も急速に進みそうです。

今回ご紹介した内容は、弊社の無料メールマガジンで代表の楠浦がお送りした内容の一部を抜粋し、再編集したものです。メルマガではより幅広い情報や、技術的に踏み込んだ内容をご紹介しております。

また、弊社の調査レポート「イノベーション四季報」では、テーマごとのイノベーション情報を総括した資料を提供しています。例えばイノベーション四季報【2023年春号】「がんと認知症が治る時代のトップ企業をつくる処方箋」では、がん治療に使われる細胞生産の自動化をリードするGinkgo Bioworksの戦略を詳しく解説しています。

コラムや調査レポートのリリース情報もメルマガで毎週お伝えしているので、最新情報を入手する無料ツールとして是非ご活用ください。

 

★セミナー開催のお知らせ

【5月24日オンライン開催】発明塾セミナー:富士フイルム・JSRはなぜヘルスケア事業への転換に成功できたのか?
~ 既存の強みを創薬分野の新規事業創出につなげる戦略を特許から分析 ~

フィルム事業衰退の危機を乗り越え、創薬支援の分野で大きく成長することに成功した富士フイルムの戦略を、経営戦略・技術戦略の両面から読み解くセミナーです!
富士フイルムやJSRなど、事業転換に成功した企業のキーパーソンの活躍を特許情報から分析します。既存事業衰退の危機を乗り越えて新規事業を創出したい方、新規事業創出で自身がどんなアクションを取るべきかを知りたい方に特におすすめです。既存技術を市場に適合させ、新たな用途や需要を創出する戦略「技術マーケティング」の第一人者である弊社代表の楠浦が、わかりやすく解説します。

発明塾セミナー:富士フイルム・JSRはなぜヘルスケア事業への転換に成功できたのか?

 

★本記事と関連した弊社サービス

①無料メールマガジン「e発明塾通信」
材料、医療、エネルギー、保険など幅広い業界の企業が取り組む、スジの良い新規事業をわかりやすく解説しています。半導体関連の技術に関する情報も多数発信しています。
「各企業がどんな未来に向かって進んでいるか」を具体例で理解できるので、新規事業のアイデアを出したい技術者の方だけでなく、優れた企業を見極めたい投資家の方にもご利用いただいております。週2回配信で最新情報をお届けしています。ぜひご活用ください。

「e発明塾通信」お申込みはこちら

②【新規事業・起業・投資の羅針盤 イノベーション四季報™】
イノベーションには「流れ」がありますが、「感覚」では捉えられません。
実際の企業の分析結果を元に「具体的な事例」を読み解いた最新情報を、今後を見通す「羅針盤」として4半期ごとに提供します。創刊号ではGAFAMの分析に正面から取り組みました。巨大企業の戦略を読み解き、その先を攻略したい方はぜひ!

イノベーション四季報キャンペーン

★弊社書籍の紹介

弊社の新規事業創出に関するノウハウ・考え方を解説した書籍『新規事業を量産する知財戦略』を絶賛発売中です!新規事業や知財戦略の考え方と、実際に特許になる発明がどう生まれるかを詳しく解説しています。

『新規事業を量産する知財戦略』書籍画像

※KindleはPCやスマートフォンでも閲覧可能です。ツールをお持ちでない方は以下、ご参照ください。

Windows用 Mac用 iPhone, iPad用 Android用

畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
IT / 半導体 / 脱炭素 / スマートホーム / メタバース / モビリティ / 医療 / ヘルスケア / フードテック / 航空宇宙 / スマートコンストラクション / 両利きの経営 / 知財戦略 / 知識創造理論 / アライアンス戦略

 

企業内発明塾バナー

最新記事

資料ダウンロードへ遷移するバナー

5秒で登録完了!無料メール講座

ここでしか読めない発明塾のノウハウの一部や最新情報を、無料で週2〜3回配信しております。

・あの会社はどうして不況にも強いのか?
・今、注目すべき狙い目の技術情報
・アイデア・発明を、「スジの良い」企画に仕上げる方法
・急成長企業のビジネスモデルと知財戦略

無料購読へ
TechnoProducer株式会社
© TechnoProducer Corporation All right reserved