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キーエンスの特許戦略

キーエンスの特許戦略 ~オムロンとの比較で見える今後の技術開発

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キーエンスは国内の時価総額ランキング5位の企業(2023年9月5日現在)で、圧倒的な利益率を達成しているメーカーとしても注目されています。ただ、同社の「技術開発」の詳細はあまり知られていません。

本記事では、キーエンスの特許情報を分析し、同社の技術開発の特徴を読み解きます。前半では、キーエンスの経営戦略の概要と特許ポートフォリオの全体像を紹介します。後半では、センサーなどで競合するオムロンの特許との比較分析を行い、キーエンスの技術開発の特徴を明らかにします。

<参考:株式会社キーエンス 基本情報>
証券コード:6861
設立年:1974年
ウェブサイト:https://www.keyence.co.jp/

キーエンスの経営戦略の概要と特許ポートフォリオ

キーエンスの特許ポートフォリオの概要(特許分析ツールTokkyo.Aiを用いた分析結果を元に作成。同社の日本における2014~2023年の特許出願を分析)

キーエンスの特許ポートフォリオの概要(特許分析ツールTokkyo.Aiを用いた分析結果を元に作成。同社の日本における2014~2023年の特許出願を分析)

キーエンスの経営戦略の概要

まず、キーエンスの概要を理解するため、同社の経営戦略の要点を記載します。

  • レーザーセンサ、3Dスキャナなど製造設備向け製品を販売するBtoBビジネスを展開
  • 工場を持たないファブレス企業で、製造は外部に委託。代理店を通さず顧客に直接販売する「直販モデル」を採用
  • 顧客との直接の対話により顧客ニーズを把握し、高付加価値の商品を開発することで、高い利益率を達成している

上記はキーエンスに関する書籍などで既に書かれている内容で、「高付加価値の商品を生み出す戦略」として注目されています。では、同社の「技術戦略」はどうなっているのか?特許情報を元に読み解きます。

キーエンスの特許ポートフォリオは「測定技術」が中心

キーエンスが直近の10年で出願した特許の技術分野を、前出のグラフに整理しました。

センサを使った「測定技術」に関する出願が半数近くを占めており、同社のコア技術であることがわかります。また、次に件数の多い「コンピュータ技術」や「機構制御」についても、測定機器などで使われる解析ソフトやセンサの制御が中心になっています。

例えば同社の特許 JP6327917B「形状測定装置、形状測定方法および形状測定プログラム」では、物体の立体形状を測定するための装置に加え、形状測定に使われるプログラムや制御方法についても記載されています。同社が「精度の高い測定を行うための装置に使われる技術」を多面的に押さえていることがわかります。

キーエンスとオムロンの特許戦略の比較

「光学測定」のキーエンスと「工場設備制御」のオムロン

キーエンスとオムロンの特許出願件数とCPCトップ5の比較(LENS.ORGの2023年9月4日現在の分析結果を元に作成。両社の2000/01/01以降の特許出願を分析)

キーエンスとオムロンの特許出願件数とCPCトップ5の比較(LENS.ORGの2023年9月4日現在の分析結果を元に作成。両社の2000/01/01以降の特許出願を分析)


キーエンスの特許出願の特徴を更に詳しく把握するため、センサー市場で競合するオムロンとの比較分析を行いました。上図は、両社の出願件数と共通特許分類(CPC分類)のトップ5を比較したものです。

まず、出願件数はオムロンが圧倒的に多いことがわかります。先述の通り、キーエンスは製造設備を持たないファブレス企業で、特許出願についても「付加価値の高い領域に絞り込む戦略」を取っているようです。

キーエンスのCPCトップ5を見ると、「画像検査」や「形状・高さの解析」などが中心になっています。よって、「光学センサを使った測定技術」が同社のコア技術であることがわかります。

一方、オムロンのCPCトップ5を見ると、「工場全体の制御」や装置のプログラム制御などが中心になっています。自動化されたスマートな工場をつくるための「工場設備の制御」に関する技術が同社のコア技術であることがわかります。システムに必要なハードウェアに関する特許を幅広く押さえているので、特許の数も多くなるようです。

センサーに関する高度な技術を持つ点では共通していますが、両社の開発のターゲットが大きく異なることがわかります。

データビジネスを強化するキーエンスの戦略

上記のように、画像検査などの「測定」に力を入れるキーエンスですが、近年は測定したデータを分析する人工知能(AI)の開発にも力を入れています。例えば2023年6月の日経クロステックの記事によると、同社の最新のコードリーダーは画像解析AIを搭載しており、しわや汚れで認識が難しくなった2次元コードでも判別できるようです。

また、2022年2月の日経ビジネス記事によると、キーエンスは工場以外の分野でもデータ分析サービスを開始しています。例えば、「データ分析により顧客のターゲティングを行うサービス」を、金融機関などに提供しています。顧客のニーズを把握するノウハウを持つキーエンスの強みを、サービスとして他社にも提供する戦略のようです。

工場を持たないキーエンスにとって、製造設備などの有形資産ではなく、無形資産である「データ」にフォーカスするのは合理的な戦略と言えます。ハードウェアのイメージが強いキーエンスですが、今後は「AIを活用したデータビジネス」の大手に成長するかもしれません。

データ測定の特許技術でビジネスを拡大するキーエンスの今後

以上、キーエンスの特許戦略について、背景となる同社の経営戦略の概要と、具体的な特許ポートフォリオの内容、オムロンと比較した技術の特徴を解説しました。コアになる「測定技術」の開発で得られた「データ分析」の技術を活用し、「データビジネス」の分野にも進出しており、今後さらに成長することが期待できます。

同社はIR資料にも技術情報は細かく開示していませんが、特許情報を読み解くとコアになる技術領域がよくわかります。皆様のご参考になれば幸いです。

今回ご紹介した内容は、弊社の無料メールマガジンで代表の楠浦がお送りした内容の一部を抜粋し、再編集したものです。メルマガではより幅広い情報や、技術的に踏み込んだ内容をご紹介しております。

また、弊社の調査レポート「イノベーション四季報」では、テーマごとのイノベーション情報を総括した資料を提供しています。キーエンスのデータ分析技術を深掘りしたレポートも後日リリース予定です。

コラムや調査レポートのリリース情報もメルマガで毎週お伝えしているので、最新情報を入手する無料ツールとして是非ご活用ください。

 

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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