新規事業の企画書は、これから立ち上げる事業のビジョンを文書化し、他者に伝えるための重要なツールです。また、自分自身が納得して事業を推進するための指針にもなるため、後でブレないよう納得のいくまで作り込むことが大切です。
本記事では、新規事業の成功に結び付く企画書の考え方を解説した後、コマツの成功事例を3つの視点から企画書にまとめた例を示し、具体的なイメージをつかんで頂きます。
この記事の内容
新規事業の企画書は、社長や役員など決済権のある人物に「自社がその事業に取り組むべきであること」を説得するために作成します。よって、「そもそも自社が取り組むべき新規事業とはどのようなものか?」を深く考える必要があります。
その答えは企業によって異なりますが、例えば両利きの経営の解説記事で取り上げたAGCでは、新規事業を評価する際に、収益性など一般的な指標に加え、「うちで造れそうか」「粘れそうか」という問いを立てています(『両利きの組織をつくる』第1版・p94参照)。これは、地道な素材の開発と量産化技術に強みをもつAGCらしさが感じられる視点と言えます。
重要な視点が整理できたら、それぞれの視点から事業が成功する根拠を集め、説得力のあるストーリーを組み立てます。弊社代表の楠浦が、スタートアップで新規事業の企画書を作成した際は、特許情報分析の結果をもとに、「売れる」「勝てる」「儲かる」という3つの視点で事業が成功する根拠をまとめました(上図参照)。この企画書は投資家からも高く評価され、億単位の資金調達に成功しています。
次項では、企画書の具体的なイメージをつかんで頂くため、成功企業の事例を元にした仮想ケースを紹介します。
※そもそもよい新規事業のアイデアが出ない、という方は以下の記事をご参照ください。
「KOMTRAX」は、2001年からコマツの建設機械の標準装備となった遠隔管理システムです。その開発経緯は『エフェクチュエーションと認知科学による製造業のサービス・イノベーション』等の書籍で紹介されており、建機業界の技術革新における代表的な成功事例として知られています。
では、KOMTRAXを立ち上げた1999年ごろに、その構想を新規事業の企画書にまとめると仮定した場合、どんな内容になるでしょうか?以下、先述した「売れる」「勝てる」「儲かる」の視点で、KOMTRAXの魅力を整理してみます。
建設機械業界では、1996年ごろから建設機械の盗難問題が増加し、海外への転売やATM強盗に建設機械が利用される事件の発生など、社会問題化していました。KOMTRAXの「GPSによる機械の位置特定」や「遠隔操作によるエンジンの強制停止」などの機能は、顧客の深刻な課題に対するスジの良い解決手段でした。
また、「稼働時間の遠隔管理」によりメンテナンスが必要な時期も予測でき、「故障によるダウンタイム」など顧客の別の課題の解決手段も提供できます。以上の理由から、KOMTRAXは「顧客ニーズを多面的に満たす、売れるシステム」の構想だったと言えます。
KOMTRAXは機械(モノ)の情報をネットワーク経由で管理するInternet of Things (IoT) 分野の技術ですが、IoTという言葉の誕生(1999年頃)より前の1985年から開発が進められており、非常に先見性のある取り組みでした。
また、コマツは1990年代後半からKOMTRAXに関連した特許を多数取得しており、アイデアが追従されないための障壁も入念に構築しています。よって、KOMTRAXは「先見性があり、特許による参入障壁を構築することで圧倒的に勝てる技術」の構想でした。
前述の通り、KOMTRAXにより現場の稼働状況がモニタリングできるため、パーツの交換タイミングも管理でき、過剰生産によるロスなどなくパーツ販売のビジネスも回すことができます。
さらに、機械に負荷の大きい使い方をしている顧客への改善提案など、サービス向上にもデータを活用できるため、顧客満足度も上がり、リピーターを増やすことができます。よって、KOMTRAXは「重要な顧客データを大量に取得し、継続的に利益の出るビジネスモデルの構築」を可能にするシステムの構想と言えます。
以上、後付けの評価ではありますが、KOMTRAXの構想を3つの視点から解釈してみました。実際の企画書ではより詳細なデータを示す必要がありますが、多面的に根拠を積み上げることで説得力のある企画書をつくるイメージの理解につながれば幸いです。
※リーンキャンバスなど、企画書にする前のアイデアの整理に使えるフレームワークは以下記事で解説しています。
ここまで、新規事業企画書の書き方について、評価する側の視点の理解や根拠集めなど基本的な考え方と、コマツのKOMTRAXを題材にした具体例を紹介しました。KOMTRAXの例のように、どの視点から見てもスキの無い新規事業の企画書は、社内外を巻き込む説得材料として使えるので、事業の大きな武器になります。
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畑田康司
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