トヨタが開発を進める全固体電池は、従来のリチウムイオンバッテリーよりも軽量かつ高機能なバッテリーとして注目されています。本記事では、全固体電池の仕組みと課題を解説した後、全固体電池の構造と製造工程を解説します。
一般情報の少ないトヨタの全固体電池の製造工程を特許から詳しく読み解きます。トヨタと共同出願を進める東亞合成など、材料メーカーの動向までカバーして解説するので、全固体電池市場への参入を検討されている方はぜひご参照ください。
まずは全固体電池の基本的な仕組みを、現在のバッテリーの主流であるリチウムイオン電池と比較しながら解説します。上図に示したように、リチウムイオン電池は「液体の電解質」にプラスとマイナスの電極が挿し込まれた構造を持ちます。電極どうしがショートしないよう、絶縁性のある「セパレータ」が中央に配置されます。
一方、全固体電池は「固体の電解質」が電極の間に配置されており、電気を供給する際は固体電解質の中をイオンが移動します。固体電解質がセパレータとしての役割も兼ねるため、リチウムイオン電池に比べてシンプルな構造で、「コンパクトかつ大容量なバッテリー」をつくることが可能です。
ただ、実用化においては、以下のように複数の課題があります。
トヨタは15年以上前から全固体電池の開発に取り組んでおり、これらの課題を解決する様々な技術を開発しています。
上図はトヨタの特許に記載された全固体電池の構造です。以下に設計思想の要点を整理します。
上記はごく一部ですが、このような工夫の積み重ねにより、トヨタは「大容量かつ不良の少ない全固体電池」を実現しています。次項では、この構造をつくるための具体的な製造プロセスを解説します。
※全固体電池のキーになる材料「固体電解質」の開発については、以下の記事で解説しています
【図解】固体電解質とは? ~全固体電池をトヨタと共同開発する出光、QuantumScapeなど材料メーカーの最新動向も解説
上図は、トヨタの特許に記載された全固体電池の積層構造をつくるプロセスです。以下に手順を整理します。
①負極を形成した後、両面に固体電解質の層をプレスして転写
②その両面に正極の層を配置し、プレスして一体化し、全固体電池のユニットをつくる
③ユニットを重ねて積層構造をつくる
これらのプロセスにより、積層した構造がつくられます。この周囲に樹脂の層を形成することで、先ほど紹介した全固体電池の構造がつくられます。
ちなみに、この特許の発明者である松下氏は、2010年ごろはリチウムイオン電池の製造方法に関する出願を行っています。リチウムイオン電池の開発で得られた知見が、全固体電池の製造工程の開発にも生かされているようです。
最後に、トヨタの全固体電池の製造に関わる材料メーカーの動向を1つ紹介します。樹脂や接着材料に強みをもつ東亞合成は、トヨタと共同で全固体電池の電極の製造に関する特許を出願しています(上図参照)。以下に製造工程を順に説明します。
①金属箔をローラーで供給し、適切な長さで裁断
②裁断した金属箔に紫外線(UV)硬化樹脂を塗る
③UVを照射し、樹脂の硬化反応を開始させる
④ローラーにより、金属箔と電極活物質の層とを圧着する。UV硬化剤が固まって接着が完了し、電極ができる
この工程は正極・負極の両方で利用可能ですが、特に正極の製造に使うことが想定されているようです。
2021年2月のリリースによると、トヨタの燃料電池では、東亞合成の接着剤2製品がすでに採用されています。そのうち1つは、上記の全固体電池の製造工程でも使われる「UV硬化型の接着剤」です。トヨタが燃料電池の製造で培ったエコシステムを、全固体電池の製造でも活用していることがわかります。
上記の事例から、トヨタがリチウムイオン電池や燃料電池の開発で獲得した強みを生かし、全固体電池の開発を進めていることがわかります。このように、既存事業で育てた技術の強みを生かして新市場を開拓する戦略は「技術マーケティング」と呼ばれます。トヨタは技術マーケティングにより、全固体電池の開発を効率よく進めているようです。
以上、全固体電池の課題とトヨタが開発する製造工程について、特許情報をもとに解説しました。トヨタが、リチウムイオン電池の製造で得られた知見や、燃料電池材料のサプライヤーである東亞合成の技術など、既存の強みをうまく活用して全固体電池の製造方法を構築していることがわかります。
全固体電池の製造工程を学び、新規参入したい方の参考になれば幸いです。
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畑田康司
TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
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