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トヨタの全固体電池実用化と量産化の最前線

トヨタ全固体電池開発の本気度を特許から分析 ~2023年発表の方針と実用化・量産化に向けた開発状況

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本記事では、トヨタの電気自動車(EV)開発について、次世代バッテリーの「全固体電池」にフォーカスし、特許情報から分析した結果をレポートします。

まず、背景情報として全固体電池の仕組みを説明した後、トヨタが2023年6月に発表したEV開発計画における全固体電池の位置づけと、現状の課題を解説します。後半では、特許情報から分析したトヨタの開発の本気度と技術の詳細を解説します。5年後を見据えたバッテリー開発の最前線として、ぜひご一読下さい。

※全固体電池の製造工程は以下の記事で詳しく解説しています。

【図解】全固体電池の課題と製造工程をトヨタ特許から読み解く

全固体電池の基本と、トヨタによる実用化・量産化の計画

リチウムイオン電池と比較した全固体電池の特徴とメリット

リチウムイオン電池と全固体電池の構造の比較

リチウムイオン電池と全固体電池の構造の比較

全固体電池とは、名前の通り「電極と電解質の全てが固体で構成されている電池」のことです。まず全固体電池の仕組みを、現在のEVバッテリーの主流である「リチウムイオン電池」と比較しながら解説します。

上図に示したように、リチウムイオン電池は「液体の電解質」にプラスとマイナスの電極が挿し込まれた構造を持ちます。電極どうしがショートしないよう、絶縁性のある「セパレータ」が中央に配置されます。

一方、全固体電池は「固体の電解質」が電極の間に配置されており、電気を供給する際は固体電解質の中をイオンが移動します。固体電解質がセパレータとしての役割も兼ねるため、リチウムイオン電池に比べてシンプルな構造で、以下のメリットがあります。

  • 単位体積あたりに蓄えられるエネルギーの量が大きいので、コンパクトで大容量なバッテリーをつくれる
  • リチウムイオン電池のように可燃性の有機溶媒を使わないため、高温での利用が可能。また、液体のように凍らないため、低温にも強い(温度変化に強い)
  • 急速充電で生じる高温に耐えられるため、充電のスピードを上げられる

※急速充電デバイスとして注目を集める「ウルトラキャパシタ」については以下の記事で解説しています。

カーボン(炭素)電極を用いたウルトラキャパシタの仕組み、メリット・デメリットとEVへの活用

トヨタが2023年に発表したEV開発戦略と全固体電池の位置づけ

トヨタのバッテリー開発計画の概要(同社の2023年6月のリリースを元に作成。他にも何種類かのバッテリー開発が計画されているが、代表的なものを抜粋)

トヨタのバッテリー開発計画の概要(同社の2023年6月のリリースを元に作成。他にも何種類かのバッテリー開発が計画されているが、代表的なものを抜粋)

続いて、トヨタがどのようなプランで全固体電池の実用化を進めているか、を見ていきます。

トヨタは2023年6月のリリースで、全固体電池を含む「クルマの未来を変える新技術」を発表しており、例えば以下の技術が紹介されています。

  • 航続距離(※)1000㎞以上を実現する次世代バッテリー(段階的に性能を向上)
  • 電気供給を制御するSiCパワー半導体のウェハーを自社で製造
  • 生産工程を1/2にする製造技術(車体の一体成型など)

※航続距離:1回の充電で走行できる距離

次世代バッテリーについては、上の表に示したように段階的に性能を向上する計画が立てられています。まず2026年に次世代型のリチウムイオン電池(パフォーマンス版)をリリースした後、2027~2028年に全固体電池をリリースすることが目標になっています。

全固体電池の実用化により、急速充電の時間を10分以下まで短縮することが目標になっており、実現されれば充電ステーションの待ち時間を大幅に改善できます。

※急速充電インフラの課題を解決する「フライホイール蓄電」については以下の記事で解説しています。

【図解】フライホイール蓄電の仕組みとメリット・デメリット ~ZOOZ, TeraloopによるEV急速充電システムへの活用事例を解説

全固体電池の実用化に向けた課題

前記のように多くのメリットがある全固体電池ですが、現時点では実用化に向けた課題が複数あります。例えば、以下の課題が知られています。

  • 温度変化などで固体電解質が変形するため、亀裂が入ったり、接触不良が起きるなどのトラブルが生じる(液体のように自由な形状変化が無いことによる課題)
  • 蓄えられるエネルギー量の大きい固体材料の開発が必要
  • 固体電解質は湿気に弱く、乾燥状態をキープした製造ラインをつくる必要がある

トヨタは15年以上前からこれらの課題に取り組み、いくつものブレークスルーを生み出しています。次項では、その過程を特許情報から読み解きます。

トヨタ全固体電池の開発動向を特許情報から分析

トヨタは全固体電池の特許出願件数でダントツトップ

IPC分類「H01M10/0562」の特許出願件数のバブルチャート(特許分析ツールTokkyo.Aiを用いて日本の特許出願上位5社を分析。バブルの大きさが特許出願件数の多さを示す)

IPC分類「H01M10/0562」の特許出願件数のバブルチャート(特許分析ツールTokkyo.Aiを用いて日本の特許出願上位5社を分析。バブルの大きさが特許出願件数の多さを示す)

まず、トヨタが他社に比べてどのくらい本気で全固体電池の開発に取り組んでいるかを分析します。

上図は、国際特許分類(IPC分類)の中で、全固体電池に関する区分の「H01M10/0562」に分類される特許出願の件数を表したものです。円形のバブルの大きさが出願件数の多さを示しています。

チャートには「日本における出願件数の上位5社」を示しており、バブルの大きさからトヨタがダントツのトップであることがわかります。また、15年以上前の2007年頃から出願を開始し、大量の特許を出し続けているので、かなり本気で開発を進めていることが読み取れます。

トヨタの出願件数が最大になるのは2018年で、年間の件数は158件に上ります。関連する動きとして、トヨタは2020年のリリースで、パナソニックとの合弁会社「プライム プラネット エナジー&ソリューションズ株式会社」の設立を発表しています。新会社の事業内容には「全固体電池の開発・製造・販売」が含まれており、新会社の設立前に特許網を強化したことが推測できます。

特許から読み解くトヨタ全固体電池の構造

トヨタの特許 JP6856042B2 に記載された全固体電池の構造(特許の図に説明を追記して作成)

トヨタの特許 JP6856042B2 に記載された全固体電池の構造(特許の図に説明を追記して作成)

最後に、トヨタが開発する全固体電池の具体的な構造に関する特許を1つ紹介します。

2018年に出願されたJP6856042B2「全固体電池」には、上図のように全固体電池を積層した構造が記載されています。冒頭で解説したように、全固体電池は正極と負極の間に固体電解質を挟んだ構造をもちます。その構造を隙間なく重ねることで、電池どうしの接続で生じる抵抗を抑え、効率よく電気が流れる構造をつくっています。

また、密着した状態を保つために、電極の周囲は樹脂で封入されます。先述の通り、全固体電池は電極の変形による亀裂が課題となりますが、この特許では「変形を吸収できる柔らかい樹脂」を電極の周辺に配置し、亀裂の発生を抑える技術が記載されています。

他にも、電極の材料や、製造時に生じる不良を防止する技術など、多数の特許が出願されており、トヨタが全固体電池の課題を地道に1つずつ解決していることがわかります。

※トヨタと全固体電池の共同開発を進める出光興産の戦略は以下の記事で解説しています。

出光興産の全固体電池戦略 ~強みを生かした新規事業創出の戦略を特許から分析

トヨタの全固体電池がつくるEV市場の今後

以上、トヨタの全固体電池開発について、2027~28年の実用化を目標とする計画と現状の課題について紹介した後、同社の開発の本気度を特許情報分析から可視化しました。急速充電で生じる熱による変形など、地味で根深い課題を1つ1つ解決する発明を生み出しており、実用化へのステップを堅実に進めているようです。

「EV市場を立ち上げる」という観点ではテスラに先行されてましたが、トヨタは「短時間の充電で長距離走る高性能EV」で市場を成長させることが期待できます。今後も開発動向を注視する予定です。

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畑田 康司

畑田康司

TechnoProducer株式会社シニアリサーチャー
大阪大学大学院工学研究科 招へい教員
半導体装置の設備エンジニアとして台湾駐在、米国企業との共同開発などを経験した後、スタートアップでの事業開発を経て現職。個人発明家として「未解決の社会課題を解決する発明」を創出し、実用化・事業化する活動にも取り組んでおり、企業のアイデアコンテストでの受賞経験あり。その経験を会社の仕事にも活かし、「起業家向け発明塾」では起業に向けた発明の創出と実用化・事業化を支援している。

あらゆる業界の企業や新技術を徹底的に掘り下げたレポートの作成に定評があり、「テーマ別 深掘りコラム」と「イノベーション四季報」の執筆を担当。分野を問わずに使える発明塾の手法を駆使し、一例として以下のテーマで複数のレポートを出している。
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