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「特許を読まない投資家」が知らない真実

特許を読むと、まだほかの人が気づいていない段階で成長しそうな企業を見つけることができる

投資対象となる企業を調べる際に、知財戦略に注目するという投資家が増えていますね。その知財戦略の詳細を理解するのに欠かせないツールが、特許情報です。だから投資をする上で、僕は皆さんに特許を是非読んで欲しいといつもお伝えしています。理由は主に二つあります。一つ目は、ひょっとしたらこれからものすごく成長するんじゃない?という企業を、多くの人が気づいていない段階で見つけられる可能性があるからです。

気になる企業や技術分野の特許を調べていると、特許をめちゃくちゃ出している企業が見つかることがあります。しかも、例えば、商品がまだ完成もしていないのに何十件、時には100件以上特許を出している企業があったりします。これって普通じゃありません。
基本的に、何かの製品や技術を開発した後に、ひと段落ついてから特許を出す企業が多いんですね。もちろん、開発の節目節目で出していく場合もありますが、いずれにしても「開発した成果・結果」について出す、という意味では同じですね。しかも、開発した成果について、それぞれ特許を数件出して、それで終わってしまう場合も多い。それを考えると、製品が出る前の特許数だけからでも「この事業を本気でやろうとしているんだな」ということが、読み取れますよね。

そしてその本気度は、彼らにしかわからない情報やニーズを掴んでいて、圧倒的な技術があって、それで市場を席捲できる、それで世の中を変えられる、という自信の裏返しですよね。発明塾では「確信犯」と呼んでいますが、どうせ投資するなら、中途半端な企業よりも、確信犯で徹底的にやってくれる企業の方が良いと思いませんか?

 

開発中の製品の詳細は特許にしか書いていない、IRには載っていない

例えばスタートアップ企業の場合、特許や知財が生命線であることはわかっていても、資金がないので何十件も何百件も出せない、ということもあります。特許に資金を回すんだったら、もっと開発に回した方がいいんじゃないかとか、マーケティングちゃんとやった方がいいんじゃないかという議論になるわけですね。まぁ、これは大企業でも同じなのですが、スタートアップは資金管理がよりシビアですから、特許を数多く出すところはまだまだ少数派です。
だから、数がすべてではなく、特許から企業の取り組みを評価するには特許を詳細に読む必要があるのですが、とりあえず特許数を見てみるだけでも注目企業の候補が見えてきますね。「普通はそんなに出さない」段階で、大量に出してくるとなると「何かある」はずですから。

そんな企業を見つけると、僕はもっともっと調べます。企業に直接ヒアリングに行く場合もあります。また、どんな商品であっても、たいていの場合、すでに同じ市場に不十分な商品やニーズをとらえきれていない商品、いわば「これじゃないんだよな」という商品が存在します。実際にそういう商品が手に入るなら買ってみて、特許情報から推測されるニーズや課題があるのかどうか、自身で体験した上でユーザーにもヒアリングしてみます。
それで、やっぱみんなそれで困っているんやな、あの企業が考えている新しい商品は、世の中に出たら売れるな、ということが分かると、よし!じゃあ投資するか!となるわけですね。まぁ、実際にはそんなに簡単ではないですが、イメージとしてはこんな感じです(笑)。

 

特許を読まない人は、開発中の商品について、詳細はほとんどわからないはずなんですよね。開発中の商品の情報は、極秘中の極秘なので、関係者は商品発売前には詳しい話ができませんし、IRにも詳細は載せません。絶対に、というのは言い過ぎかもしれませんが、普通に考えたら、特許からしか分からないんです。これも、僕が特許を読む理由の一つです。早めに情報をつかむ。やはり投資は、他の人が可能性に気づいてからでは遅いですからね。他の人に先んじて、その企業や製品・サービスの可能性に気づく。そのために特許情報が使えますよね、ということです。まぁこれは、大方皆さん、異論は無いんじゃないかと思います。

 

歯科矯正「インビザライン」を開発したアライン・テクノロジー ~特許情報を読んで将来性を確信した事例~

発明塾で、ある企業について特許情報を元に実際に議論した事例をお話しします。過去に発明塾投資部という活動を、学生向け発明塾のOBOGを中心に行っていたので、その時のお話です。

透明に近いマウスピース型の装置で歯並びを治す歯列矯正治療「インビザライン」ってご存知でしょうか。今、結構流行っているようですね。SNSで写真を撮るのに、歯並びが悪いとカッコ悪いということで、年齢を問わず歯列矯正する人が世界中で増えているんです。
これはアメリカのアライン・テクノロジーという企業が開発したものです。発明塾で議論したのは2016年なのですが、当時、日本ではほとんど知られていない企業でしたし、今よりも投資家の評価はずっと低かったんですね。たぶん、面白い商品やってるけど一通り売れたら終わり、いわゆる「一発屋」企業だと思われていたのでしょう。

 


                     インビザラインHPより抜粋

 

その時の議論では、参加した人ほぼ全員が「確かにこれは流行るのかもしれないけど、アライン・テクノロジーが独占できるところまでいかないんじゃないか」「歯列矯正には他にもいろいろなやり方があるから、これ一辺倒にはならないんじゃないの?」「自分で似たようなものを作るとか、もっと安上がりな方法を考えている人もいるみたいだ」という話になっていたんですね。
でも僕は、特許を見て、まず特許数がえげつなかったことと、その内容が業界の常識からするとかなり先んじたものだったので、これは成長が期待できるんじゃないか、少なくとも彼らは「確信犯」で取り組んでいそうだな、と考えていました。

大量に出ていた特許がどんな特許か一言でいうと、歯並びや歯の形のデータに関するものです。歯列矯正って、時間の経過とともに歯並びが変化していくものですね。でも、矯正が終了して少し経つと、歯並びがまた悪い方に戻ってきてしまったりするらしいんですよね。だから歯並びのデータを保存しておけば、また活かすことができます。

アライン・テクノロジーはそこに目をつけていて、歯並びや歯の形状データの測定や管理、活用に関する特許をめちゃくちゃたくさん取得していました。つまり、マウスピースを作って売るといった単なるモノづくりではなく、データを取ってそれを生かすというビジネスを想定していたので、今後伸びそうだなって思ったんです。そのデータは、簡単には取れないですから、一度取ってしまえば優位性になるはずですよね。

 

その後のアラインテクノロジーの業績などをみると、結果論として僕は正しかったのですが、僕がここで言いたかったことは「未来を予想できる」ということではありません。まず一つは、その企業が今後どういうことを「目指しているのか」は、特許を読めばわかりますよ、ということです。目指したとおりになるかどうかは、また別の問題ですね。
そしてもう一つは、次でお話しますが「本気度」ですね。「本気度」が高いのであれば、目指した未来を実現してくれる可能性は高まりますよね、ということです。経営や投資に「絶対」はありません。でも「口先だけ」なのか「本気なのか」は、投資判断において重要だと思いませんか?

 

特許で企業の「本気度」がわかる

特許には、企業の本気度が現れます。これだけ出していれば、他がもう真似できないねというほどの膨大な特許数というのも一つです。ぱっと見て分かりやすいほど多くの特許を出している場合、その企業の本音というか、その製品や技術の未来に対する本気度や自信のほどがが表れているといっていいでしょう。

正確には、特許をどれぐらい出すべきなのかは企業規模に依存するので、単純に数自体の大小では議論できません。言ってみれば、数も「本気度」の指標の一つなんですよね、だからあくまで、本気で出しているかどうかが大事です。例えば小さな企業の場合、特許の出し方や内容を見て、数は少ないけれどこれは本気やな、という判断をすることもあるわけですね。
特許から、単に技術的に優れているかどうかを読み取るだけでなく、それを本気で守ろうとしているかとか、今後どういうビジネス展開を考えているか、そこも含めて守ろうとしているか、なんかも読み取れます。本気度がない特許だと「この企業大丈夫かな」と心配になるわけですね。特許から、そこを読み取るんですね。
もちろん、それを読み取る眼力が投資する側に必要なのですが、学生向け発明塾の大学生は皆さんは、おおよそ半年ほどで特許を読めるようになりますので、多くの方は大丈夫だと思います。

また、特許を出していればよいというものではないですが、少なくとも、特許を出してない企業は本気じゃないのかもしれない、という疑いは出ますよね。読み方がわからなくても特許の有無は調べられますから、まず、出してるかだしてないかを確認する。出してない企業は、本気でやる気があるのか、疑いの目を持って検証する。他の情報で、本気度が検証できるかどうか。特許は一つの「行動の結果」だと考えられますよね。IR資料に「今後XXに取り組みます!」と書いてあるだけなのか、裏付けになる特許が出ているのか。この二者では本気度は違うと考えるのが、よいでしょうね。

 

僕が特許を読む理由、そして、投資家の方に特許を読んで頂きたいと思う理由の一つが「本気度」「自信」そして「確信犯」。前回のコラムで花王や3Mなど知財活動をちゃんとしている企業はすべてがしっかりしている、とお話ししましたが(「なぜ花王は連続増配を30年以上続けられ、3MやJ &Jは連続増配を60年以上続けられるのか?参照)、結局は同じことなんです。隅々まで行き届いていないとたくさんの特許は出せません。自信や余裕がない会社は特許をださないんです。
ちょっと乱暴な議論ですが、例えば、花王と競合企業が仮に似たようなモノを作っていたとして、花王はめちゃくちゃ特許出しているけれども競合企業が全く出してなかった。どちらが投資先として好ましいですか?ということです。

 

特許にしか「技術の具体的な強み」を知る方法はない

僕が特許を読む理由のもう一つには、技術を知る、ということもあります。
投資家向けの説明会などで「うちのコア技術は○○で、強みは××だ」とか話されることがありますよね。でも強みは「△△技術です」と言われても、たぶん誰もわからないですよね。例えばナノテクノロジーが強みだと言われても、ナノテクノロジーって、その範囲はめちゃくちゃ広い。具体的にどの部分が強みで、どれくらい独占できているかなんて、ちょろっと説明されても、ほとんど誰も理解できませんね。
それを、言葉なり数字ではっきりさせるには、その企業の特許を読むしかないんですよね。特許を読めば、この会社はナノテクノロジーのこの部分が大事だと思っていて、多分そこが強みで、それについて200件特許を出しているから他が真似できないくらいの強みなんだな、と言葉と数字で明確に把握できるんです。

例えば、3Mは車やディスプレーの保護シートを貼る時に空気をきれいに抜くための溝を、シートにつけてます。その溝のためだけに、なんと800件以上も特許を出しているんですね。もう他社は降参ですってなりますよね。花王もそうです。例えば減塩調味料のコア技術である、味の改善に関する特許網には、執念を感じます(笑)。
特許をガンガン出す企業は、それである程度長く儲けられると思っているから、長期的な展望を持って、かつ、足下をすくわれないように特許を出すわけです。

かつてIT業界ではあまり特許を出さなかったわけですが、10年ほど前にその理由をセミナーに参加したIT企業の知財担当者に聞いてみると「すぐに技術や商品が変わっていくから、出しても意味がない」「変化が早すぎて、出したころには、その特許は使わないから出さない」とのことでした。でも、今は結構出しますよね。何が起きたんでしょうね?(笑) 出せばよい、ということではなく、出し方も重要だ、ということでしょうね。
特許権は20年間有効なので、20年間儲けていけるように、先読みをしてしっかりとした特許を出して、長期の成長を盤石にする。長期で成長できる自信があると、花王のように、少し業績が悪い年があっても配当を下げずに毎年増配する。こんなふうに、特許と経営は繋がっているのだと思います。

 

本気で経営している会社は、本気で応援したくなりますよね。企業の未来の成長イメージが見えてくる、その未来の実現に対する本気度が分かる、技術を詳しく知ることができる。主にこの3つが、僕が投資家の方に、特許を読んだ方がいいですよと推奨する理由なんですね。ぜひ、ご自身が投資している企業や、投資してみようかなと思っている企業について、一度特許を調べてみてください。

語り:楠浦崇央(弊社代表)
構成:鈴木素子 

 

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